第6位 105話「この世で一番強いもの」

 これは、完全体人狼・佐久間 赤道編のラストですね。実際には、その前の「”情”のあり場所」と
セットでの6位と言うことなんですが。

 ワイルドハーフ、特に、犬のワイルドハーフが何故人狼と言う魔獣を体の内に住まわせていなければ
ならないのか。何故、そんな哀しい宿命を背負っていなければならないのか。
 そんなことを考えさせられてしまったシリーズです。

 健人のクラスにやってきた転校生・佐久間 赤道。しかし彼は、飼い主を食って完全体となった人狼だった。

 赤道は、健人が生み出した情の力の結晶体、月光石を健人から奪い、それを飲みこんで月の光なしで
自由自在に人狼になる力を得る。
 一方の健人は情の源の力を奪われ子供になってしまい、サルサは人型に変身できなくなる。

 途中、立ちはだかった銀星を相手にもせず、健人に迫る赤道。
 そんな絶望的な状況でも、決して諦めずに健人はサルサと共に立ち向かう。

「俺達の”情”はここだ! とられてもとられても ここからいくらでも湧いてくる!」

 そして、月光石にサルサの血がかかることでサルサは人型に戻る力を得る。
 それでも、月光石をのんだ赤道には歯が立たず、サルサは絶体絶命の危機に陥る。

 だが、赤道が止めを刺そうとしたその時、突如、赤道の力が抜け、サルサは赤道の身体かが月光石を
奪い返し、銀で作った槍で赤道に止めを刺した。

 そして、人狼が死んで赤道本来の人格が戻った。しかし、すでにその命は尽きようとしていた。
 赤道は恐い顔のせいで小さな頃からいじめられ、人間不信になっていた。
 そこを、心優しい飼い主に拾われ、その溢れる”情”が多くの人を救ってきたのを見て赤道は
この世で一番強いものは”情”だと信じるようになる。

 だが、人狼として覚醒し、飼い主を食い殺してしまった後、”情”が人狼のエサにしかならず、ただ人狼の
悪行を見続けるしかない毎日に、再び情を信じられなくなってしまった。

 しかし、そんな人狼さえも超える情の力で自分を倒した健人とサルサを見て、赤道は確信した。

「やっぱり、”情”は世界で一番強かったんやなぁ…」

 そして、温かさの中で赤道は息を引き取る。

 そんな赤道を見て、健人とサルサは月光石の力で赤道を蘇らせようとする。
 飼い主を食った過去を背負って生きるなど、死ぬよりも残酷だと反対する銀星。
 しかし、二人は情を知っていたがゆえに人狼となり、散っていった赤道に、今度は普通の犬として
もう一度それを掴ませてやりたいと願った。

 そして、後日のルナで一匹の犬が再び里子に出されていった。
 その犬の名前は、「赤道」


第7位 63話「喜びの言葉」

 藤枝話の最高峰、と、私が勝手に思いこんでいるエピソードです。

 私としては、藤枝の気持ちにすっごく同調できるんです。
 極度の恥ずかしがりやで人付き合いが苦手、本当はみんなの輪の中に入っていきたいのに
外見や口下手のせいで上手く輪に入っていくことが出来ない。
 話す言葉は「恥を知れ(恥ずかしい…)」「10年早い(そんなの、まだはやいかしら…)」と、通訳が
必要なものばかり。

 しかし、そんな彼女もサルサ(人型)の助力と、もって生まれた絵の才能のおかげで、本来の恥ずかしがりの
性格としてクラスになじむことが出来るようになった。

 そして、その絵の才能が大きなコンクールの最優秀賞に選ばれるという形で、実際の成果となる。

 そこまではよかった。
 問題はその後。

 なんと、藤枝は授賞式でスピーチする事になってしまったのだ。
 当然、恥ずかしがりの藤枝がそんなことを出来るはずも無く、クラスメイトの協力で出来あがったスピーチ
と言えば、オウムのポリネシアに吹き替えをしてもらって「ありがとう。うれしいです。がんばります」の
たった10秒のスピーチ。

 そして、授賞式の当日。
 用意は出来ていたのだが、肝心のポリネシアがブランデー入りケーキを食べて酔っ払ってしまう。
 それを告げられ、一人ステージに上がって頭が真っ白になる藤枝。

 そんな藤枝のためにサルサがマーキングで照明を消し、健人達はテーブルクロスを使って即席の
カンニングペーパーを作って最後尾からそれを藤枝に見せる。

 健人達のあたたかい応援を受け、藤枝は練習などしていなかった、自分の言葉でのスピーチを始めた
 それは、たどたどしい言葉だったけれども、なによりも藤枝の気持ちを表していた。

「絵を描くことが私の世界を広げてくれました。
            絵を書くことが、私の夢を叶えてくれました」

 そして、展示されていた藤枝の絵のタイトルは『望み』

 それは、美也とミレイに挟まれて笑いあう、藤枝自身の絵だった。

 それは藤枝が望み、願ったこと。

 そして、それは今日この日に叶えられた。

 彼女の言う通り、彼女の描いた絵によって。


第8位 93話「誓い」

 せ〜のっ! ラーンー!!(爆)
 犬使い(ハウンドマスター)編のラスト、ですね。

 もう、私はランが女の子とわかり、その過去が明かされていく中ですっかり彼女に落とされてしまいました。
 ガサツで冷たくてイヤな奴の仮面の下にあった、とても純粋で優しい女の子の素顔。
 この話ほど、そのことがよく描かれている話はないと思います。

 そして、この手の話では、珍しく健人がお姫さま役をやっていない回(普段はサルサに助けられてばっかり)。

 健人の”情の月”の力を借りて死んだ白夜の魂をその身に降ろしたサルサ。
 そして、サルサの身体を借りた白夜は、ランに全ての真実を伝える。

 自分が、『いい匂い』を寄せるランに心惹かれていたこと。
 ランが人殺しの犬使いを継ぐことに少なからず不安を抱き、迷いつづけていたこと。

 そして、初めての『仕事』で、相手を手にかけ、ランの心を壊してしまった瞬間に、そのことに気づいたこと。

 白夜が死んだのは、その相手を蘇らせ、ダミーを作り、ランの心を守るために生命力の全てを使いきって
しまったのが原因だったことを。

 真実を伝えた白夜は、ランに人殺しになろうとした日々を忘れ、”情”をもち強く生きることを願う。
 しかし、ランはそれを拒み、百夜がそばに居続ける事を願ってすがりつく。
 だが、それは一時的な事で、百夜をサルサの身体に定着させている健人に限界が近づいてきていた。

 なんとしても百夜にランの言葉を聞かせてやりたい健人は、残る力で必死にランに呼びかける。

「キミが飼い主としてしてやれる、これがホントに最後のことなんだぞ! しっかり!」

 健人に見つめ続けられて、ランはそれに耐えられずに涙を流して顔をそらす。
 だが、ついに健人が限界を迎えて百夜が離れようとした、その瞬間。

「ち・か……う…! 白……! 強くなる…! ”情”…… 忘れない…!」

「…いい匂いだ……
        俺の愛した匂い…」

 そして、百夜は天へと帰っていった。

 

 その後の空港、ある意味、これがこの話最大のポイントです。

 健人から百夜の遺骨を受け取り、新しい形で人々を守る仕事を続けると言ったラン。

「不思議だな… なぜ あの時百夜に言えたのかわからない
 言わなきゃ一生後悔するってわかってたのに言葉にならなくて

 でも… 君の瞳を見てたら…」

 そして、そしてランってば、健人の頬にキスを…!
 私が知る限り、ワイルドハーフでここまでちゃんとキスシーンがあるのはタケト×ランの一組だけです!

 そして2年後、ランはしっかり日本に戻ってきてたりするのです。
 そう、タケトゲットのために(笑)


第9位 144話「約束が生まれる場所」

 言わずと知れた、ワイルドハーフ最終回です。

 そして、サルサの宿敵として登場し、一度負けた後はカラスのワイルドハーフを雇って返り討ちにされ
単行本では4コマでいいだけいじられまくっていた志弩さんこと葛城 志弩との決着戦です。

 この話は、まさに「あの人は今」って感じでしたね。

 大学に進んだ健人と吉康。ウルフと共に同じ大学の獣医学部にやってきたタカハシ。
 早々に大学へ推薦入学を決めた美也、ミレイ。
 日本の高校に転入するラン。
 相変わらずラブラブのカオル、銀星。
 婚約を正式に決めた寿文、毬愛
 フランス留学を決めた藤枝。

 そして、サルサへの復讐を誓ったあの人。

 忠治と手を組んでサルサと健人にプレッシャーをかける志弩。
 そんな健人とサルサを心配して、健人の家にやってくる銀星達。

「俺達は皆 お前達二人がいなければ現在(いま)はなかった…」

 そんな銀星の言葉が、ホントに心に染み入ります。

 そして、ついに志弩襲来。
 ただ一人それに気づいたサルサは屋上で忠治が見守る中、志弩と一対一の勝負を始める。
 時限爆弾を身にまとって闘う志弩。
 サルサに対する憎しみのみで生き続けてきた志弩はサルサに問いかける。

「”情”と… ”憎しみ”と… どっちをうみだすためにお前は生まれてきたんだ?
 サルサ……」

 その時、異変に気づいた健人が屋上に現れ、志弩に組み付く。
 爆発の時間が迫っているのに気づいて志弩をフェンスに叩きつけるサルサ。
 しかし、サルサは一瞬迷って、爆弾だけを剥ぎとって外へと飛び出す。

 それを追い、自分も飛び出す健人。

 そして、爆発の中から現れたのは人型のサルサとそれに抱えられる健人だった。

 志弩が三月との約束のために生きていると聞いて、サルサは

「お前の中にも”情”はあると 俺は信じるのだ」

 と言う。

 その言葉に答えを見出したのか、黙って去っていく志弩。


 そして、健人とサルサは『約束』をする。
 もう一度、こんどはちゃんとサルサが元に戻った時のための約束を。

 その様子を見守り続けていた忠治。
 彼は、サルサがより早くワイルドハーフに戻るためのきっかけを作るために志弩と手を組んでいたのだ。

 そして、それぞれがそれぞれの明日に歩き出していく。

 『WIDL HALF』のラストを飾るのにふさわしい終わり方だったと思います。


第10位 19話「真の野性」

 登場してもいないのに、おねーさま方の人気が高い。銀星探しに火星に行ったっきり帰ってこない。
 そんなオウガ君がドシリアスやってた頃の最終話です。

 母を殺されたと思いこみ、人間を憎んでいたヒョウのワイルドハーフ・オウガ。
 しかし、サルサの捨て身の行動で残されていた母親の思いを伝えられたオウガは、自分がどれほどの
”情”に包まれていたかにようやく気づく。

 そして、ワイルドハーフから普通のヒョウに戻る寸前のオウガの言葉。

「”ワイルドハーフ”の力は、いったいなんのためにあるんだろう……」

 その答えは、全ての連載が終わった今でなお、明かされていません。

 ただ、そうだからこそ結びつける絆があるのではないか。

 そう言う存在だからこそ、できることがあるのではない。

 より『幸せ』な未来を手にする可能性を持つがゆえに、過酷な運命を背負うのではないか。

 私は、そんな風に思います。


 さてさて、このように駆け足で(ちょっと長め?)追ってきたワイルドハーフのベスト10、いかがだったでしょう

 みなさんのベスト10があったら、ぜひ教えていただきたいものです。

 ちなみに、ワイルドハーフは『林原めぐみのTokyoBoogieNight』内でラジオドラマが放送されていました。

 その時のキャストも含め、私が「いっつもこんな声でワイルドハーフを読んでるぞ!」という
イメージCVを紹介しちゃいます。

 

キャスト(イメージ含む)
岩瀬 健人―――新山 志穂
サルサ―――――子安 武人
岩瀬 寿文―――森川 智之
北原 美也―――皆口 裕子
ミレイ―――――林原 めぐみ
葛城 三月―――石田 彰

(ここよりイメージ)
葛城 志弩―――井上 和彦
王牙――――――松本 梨花
クロウ―――――塩沢 兼人
杉谷 毬愛―――井上 喜久子
烏丸 カオル――石田 彰
烏丸(少年)――結城 比呂
銀星――――――松本 保典
田中 吉康―――高山 みなみ
山中 真雪―――かかず ゆみ
ポリネシア―――今井 由香
相模 蘭――――矢島 晶子
白夜――――――緑川 光
佐久間 赤道――堀川 りょう
ウルフ―――――置鮎 龍太郎
阿部 祥平―――伊倉 一寿
藤枝 絵里―――高野 麗
忠治――――――大塚 忠芳

 さて、いかがだったでしょう。
 皆さんのイメージと合ったでしょうか?

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