七星勇者フェリスヴァイン


 我々が住む時代より、ほんの少しだけ未来。

 それは、技術的な面は元より、「ソフト」の分野で大きな発展を遂げた世界だった。
 世の中にあるほとんどのものが自律型のプログラムで制御され、個々の家庭ですら
「サポートプログラム」と呼ばれるもので、家電を始めとする家の中の全てがそれ一つで
制御されているほどだった。

 また、機械技術においても発展を遂げ、軍や大手企業では、巨大な人型ロボットが実際
に運用され、土木作業や救助活動などで見かける事が珍しく無くなっていた。
 でも、それ以外には、街並みは現代と大して変わらない、そんな世界。

 しかし、生まれた技術が脅威と代わるのはよくある事。
 この世界でも、ロボットを使った犯罪は時たま行われ、さらに、およそ半年前から『暗
黒の使徒』と名乗る集団がエネルギー資源を奪ったり破壊活動を行うようになった。
 国もそれらロボットを使用した犯罪に対抗していったが、『暗黒の使徒』の力は凄まじく
軍もまるで歯が立たなかった。

 だが、そんな人々の間に、救いとも言える噂が流れるようになった。
 それは、人知れず『暗黒の使徒』と戦うロボットの噂。
 そして、それは単なる噂などではなく、実際に真紅のロボットが『暗黒の使徒』に立ち
向かっていった姿が何度も目撃されているのだ。

 そして、これもそんな『戦い』の一つだった。

 月明かりだけが周囲を照らす夜、2体のロボットがそこで対峙していた。
 片方は、真紅のボディで胸に狼のようなエンブレムを持ったロボット。
 そして、相対するのは繋ぎ合わせた鉄球に手足を付けたような、見るからに力のありそ
うなロボット。

赤いロボット「『暗黒の使徒』! 貴様らの思い通りにはさせん!」

 赤いロボットは、見得をきると鉄球ロボットに殴りかかった。
 パンチは鉄球ロボットの顔面に見事に決まり、鉄球ロボットは後ろに下がる。
 今度は、鉄球ロボットがお返しとばかりにパンチを繰り出すが、赤いロボットはそれを
バックステップで難なくかわした。
 だが、その着地の瞬間を狙って鉄球ロボットが肩の刺のようなミサイルを撃って来た。
 赤いロボットは、2発あるうちの1発をなんとかかわしたが、残る1発を左腕に被弾し
てしまった。

赤いロボット「ぐぅっ!」

 赤いロボットが被弾した左腕を押さえて膝を着く。
 赤いロボットが体勢を崩したのを見て、鉄球ロボットが間合いを詰める。
 そして、鉄球ロボットは赤いロボットに向かって拳を振り下ろす。

赤いロボット「!」

 赤いロボットは間一髪、横に転がってその一撃をかわす。相手を失ったその拳は、アス
ファルトを砕いて地面にめり込む。
 鉄球ロボットは、腕が地面にめり込んでそれを抜こうとしている。
 その時、赤いロボットは腰から拳銃のようなものを取り出し、鉄球ロボットの地面に刺
さっている腕に狙いを定めて発射した。
 銃弾は見事に着弾し、鉄球ロボットの腕が爆発を起こす。
 腕は完全には砕けなかったものの、外装に大きな亀裂が入っていた。
 赤いロボットは勝機を見出し、胸のエンブレムを突き出す。
 その狼のエンブレムが輝き始めた。

 だが、その時鉄球ロボットが急速に両足のホバーを吹かし始め、その場からの離脱を始
めた。

赤いロボット「くっ、待てっ!」

 狼のエンブレムから火球が放たれる。
 しかし、それは鉄球ロボットの肩を掠めて飛んでいった。
 そして、赤いロボットの視界から鉄球ロボットの姿が完全に消える。

赤いロボット「……逃したか……」

 赤いロボットは、鉄球ロボットが走り去った後を見つめる。

赤いロボット「追わなくては……奴が、『黒き力』が人々を傷つける前に……」

 そして、赤いロボットは負傷した左腕を押さえながら歩き始めた。

 

 

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