七星勇者フェリスヴァイン


 雷人は自室のベッドに寝転び、じっと天井を見つめ続けていた。傍らの机の上には、腕
時計のようなブレスレット――『ビーストコマンダー』と言うらしい――が無造作に放り
出されている。
 時たま、思い出したようにコマンダーに目を向け、すぐに目をそらす。
 プラムと言う少女からオウガの真実を聞き、コマンダーを渡されてからと言うもの、雷
人は終始この調子だった。
 あの時、プラムは雷人にこれを手渡し言った。

『あなた自身で、よく考えて決めてください。オウガのパートナーとなり戦いの中に飛び
込むのか、それともこのまま日常の中に帰るのか。
 それまで、このコマンダーはあなたに預けておきます』

 その言葉を思い出し、雷人は舌打ちして寝返りを打つ。

「……チッ」

 悩む事など無いはずだった。
 ずっと追い求めていた新しい世界への扉が、ようやく目の前に現れたのだ。何も考えず、
そこへと飛び込んでいけばいい。
 だが、答えられなかった。「戦う」という、そのたったの一言が。それを言ってしまうと
自分がひどく遠いところに行ってしまうような、そんな気がした。

「……怖くなんか、ねぇっ……!」

 自分に言い聞かせるようにつぶやくが、それに反して身体は動こうとしない。それがな
おの事、雷人を苛立たせた。
 その時、雷人の部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「ライ君、いい?」
「……ユキ姉?」

 雷人は億劫に思いながらも、ベッドから起き上がりドアを開く。そこには、雷人を気遣
ったような笑みを浮かべた有紀音が顔を覗かせた。

「ライ君、お買い物に付き合って欲しいんだけど……いいかな?」


 

 

 有紀音の頼みをしぶしぶ聞いた雷人は、有紀音と共に地下鉄で数駅先にある繁華街へと
来ていた。近場の繁華街は、まだ先日の戦闘の修復が済んでいないためである。
 この頃、オウガのことでどうにも気分がすっきりしなかったので、気晴らし程度になれ
ばと付いてきたのだが、別の事で頭を悩ませる事になってしまった。

「……付き合ってくれって言うから何かと思えば……」

 苛立ち交じりでつぶやく雷人は、両手にあるものに目を落とす。手にはたくさんの紙袋、
紙袋、紙袋。一つや二つではない紙袋が雷人の両手に抱えられていた。

「ただの荷物持ちかよっ!」

 荷物一杯の雷人とは対照的に、有紀音は手ぶらでうきうきと前を歩いている。雷人の怒
声に気付いた有紀音は、ウィンクなどをして振り向いた。

「ライ君、もう疲れちゃったの? 男の子なのにだらしないなぁ」
「あ、の、なぁ……」

 雷人はあらん限りの殺気を込めて睨み付けるが、実際、言われたとおりに疲れているの
で今一つ迫力が出ない。荷物を放り出して帰ってやろうかとさえ思った。
 だが、そんな雷人の胸のうちを見透かしたかのように、有紀音が苦笑しながら、それで
も朗らかな調子で提案した。

「しょうがないなぁ。それじゃ、近くの喫茶店で休憩しよ!
 お姉ちゃんが奢ってあげるから」
「……ったく」

 いつもより奔放な有紀音の行動に憮然としつつも、雷人はこれでようやく一息つけると
胸を撫で下ろした。

 

 

 


「……かったりぃ」

 デパート内の喫茶店の席について、開口一番に雷人はそうぼやいた。荷物を地面に降ろ
し天を仰ぐ雷人をよそに、有紀音はてきぱきと注文をしているのが、またなんとも腹立た
しい。

「ライ君は、何にする?」

 自分の分を頼み終えた辺りで、有紀音がそう聞いてくる。文句を言うのも面倒なので、
雷人は一言「コーラ」とだけ伝えた。
 店員が去ったのを見届けてから、雷人はコップの中の水を一気にあおった。冷水が送り
込まれ、冷たさで頭が痛む。痛みで顔をしかめる雷人を、有紀音は呆れ顔で見つめていた。

「そんなに、一気飲みなんてするからよ……」
「……っるせぇな」

 雷人は憮然とした顔で答えながらも、訝しがるように有紀音を見つめた。小首をかしげ
ながら雷人の視線を受け止める有紀音を見ながら、雷人はため息をつきつつコップを置く。
憮然としつつも、なんだかんだ言って有紀音に付き合っている雷人に苦笑しながら、有紀
音はふいに真顔になった。

「……ライ君、何か、悩みがあるの?」
「ッ!?」

 いきなり図星を突かれ、雷人は顔をこわばらせる。驚いたのと同時に、やはりそうかと
も納得した。ことさら明るく振舞っていたのも、恐らくは自分を気遣っての事なのだろう。
いくら意地を張り、隠そうとしても、自分の「素」の部分を的確に見抜いてくる。この少
女はそういうところがあった。

「……んなもんねえよ」
「ウソ」

 強がって隠してみても、すぐにそれを否定する。全く持って面倒くさい。うっとおしい。
隠し事なんてできやしない。触れられたくない事だってあるのに。

「それって……私に言えない事? 私じゃ……」

 だからいやなんだ。だからうっとおしいんだ。だから嫌いなんだ。
 そんな風に笑うな。寂しそうに笑うな。
 アンタがそうだから。

「私じゃ、力に、なれないのかな?」

 アンタがそんなに気にかけるから、優しいから。
 俺は、アンタに気を許してしまうんだ。
 頼って、しまうんだ。

 次の瞬間、地震もかくやという振動が、雷人たちの居たデパートを襲った。

 

 

 


 雷人たちの居た繁華街に先日と同型の黒鍵機が現れたのは、わずか5分程度前の事であ
った。空から舞い降りてくるなり、無秩序に破壊活動を始める蛇型黒鍵機。瞬く間に周囲
は混乱に包まれ、先日と同様の様相を呈してくる。
 そんな様子を『白き力の勇者』であるオウガが見過ごすはずも無く、黒鍵機の襲来から
さほど間を置かずに紫の機体が戦場へと躍り出た。
 ここまでは先日と同じ展開。だが、違っていたのは、襲ってきた黒鍵機は1体だけでは
なかったということである。

「だらぁっ!!」

 オウガの紫の拳に殴り飛ばされ、銀色の蛇が宙を舞った。だが、それに気を良くする間
もなく、オウガの側面から同型の黒鍵機がキャノン砲を放った。背後に大きな建物がある
のに気づき、オウガはそれを紫の光を放つ拳で迎撃する。

「ぐ、おぉぉぉぉぉぉっ!!」

 渾身の力でキャノン砲を地面に叩きつける。が、三度別の同型機体が牙を剥いてオウガ
に襲い掛かってきた。勢いに押し負けながらもオウガは黒鍵機の突進を受け止める。

「しっつけぇんだよっっ!!」

 オウガは力づくで黒鍵機を投げ飛ばした。地響きをさせながら黒鍵機を地面に叩きつけ
る。

「ったく、一体何体いやがるんだ」
『確認された黒鍵機はその3体だけです。周囲に被害を及ぼさないように気をつけてくだ
さい』
「気軽に言ってくれるぜ……」

 BBSから入ったプラムの通信に、ぼやきで答えるオウガ。だが、それにつづくプラム
の言葉がオウガの表情を一変させた。

『そう言わないで下さい。そこには、あの少年もいるはずなんです』
「……何ぃっ!?」

 

 

 


 その頃、雷人のいたデパートの内部でも外と同様の混乱が起こっていた。人々が我先に
と逃げ出し、閉鎖空間ゆえの混乱に包まれる。
 有紀音も雷人の手を引いて建物の外へ出ようとしていたが、人の波にもみくちゃにされ、
流れの外へとはじき出されてしまった。

「きゃっ!」
「ッ!」

 雷人はとっさに文句を言おうとしたが、あまりの意味の無さに気付いて舌打ちをして憤
りを収める。逃げ惑うばかりの人々に一瞥をくれると、いまだにしりもちをついたままの
有紀音を見やった。

「大丈夫か?」
「う、うん……ライくんは?」
「別に」

 短くそう答えると、雷人は窓の外へと目を向けた。
 逃げる前、喫茶店の窓から見えた光景。あの時と変わらぬ光景が、あの時と同じように
繰り広げられていた。
 オウガという名のロボット。『白き力の勇者』という、正義の味方。正体も知られず、名
前も知られず、賞賛もされず、ただ守るために戦う戦士の姿。その戦士に、友になって欲
しいと頼まれた。なにより、自分がそう望んでいた。

「…………っ!」

 なのに、踏み出せない。声が出なくて、身体が震えて、何も出来ない。そんな自分が腹
立たしくて、ひどく、情けなかった。

(ちくしょう……動け、動け、動け動け動け動け!!)

 踏み出そうと、心を奮い立たせようとするほどに、逆に身体は震えを増して動けなくな
る。唇をかみ締め、ビーストコマンダーをつけた左手をきつく握り締める。
 雷人が瞳を閉じた瞬間、ふいに柔らかなぬくもりが震える身体を包み込んだ。突然の感
触に驚き、閉ざしかけた眼を見開く。

(ユキ……姉……?!)

 雷人を優しく包み込みながら、有紀音は勤めて普段どおりに、穏やかな声で雷人の耳に
囁きかける。

「大丈夫だよ、ライくん」
「……ユキ姉」
「ライくんは、私が必ず守るから」

 雷人が怖がっていると勘違いでもしたのだろうか。ある意味見当違いな有紀音の行動に
雷人は少々唖然となる。だがすぐに、雷人を包み込んでいる腕が震えている事に気がつい
た。

(怖がってんのは、アンタじゃないかよ……)

 だが、同時に有紀音への素直な尊敬も抱く。恐らくは自分以上に怖いはずなのに、それ
でも、有紀音はその恐怖に負けずに雷人を守ると言ったのだ。想いを、行動にして見せた
のだ。
 雷人にとっては、それはひどく衝撃的なことだった。そして同時に、自分が踏み出せな
かった理由がはっきりとわかった。そのための勇気が、今なら出せる。
 雷人は、自分を抱きしめていた有紀音の腕をそっと外した。

「ライくん?」
「ユキ姉。ここで……いや、どっか安全なところに逃げててくれ」

 そういうと、雷人は有紀音のほうを振り向かずに、階段のほうに向けて歩き出す。

「ライくんっ! どこ行くのっ?」
「……ユキ姉は、俺が守ってやる……っ!」

 自分を呼び止める有紀音の声を振り切り、雷人は外ではなく、屋上に向けて走り出した。

 

 

 


 BBS札幌支部の司令室では、3体の黒鍵機と戦いを繰り広げているオウガの姿が絶え
ず映し出されていた。3対1という数の不利と町を守りながら戦うということもあいまっ
て、オウガは劣勢を強いられている。

『ぐあぁぁぁぁぁぁっ! この野郎ッ!』

 オウガは蛇型黒鍵機のキャノン砲を受けて吹き飛ばされ、地面に叩きつけられるそばか
ら跳ね起き、再び黒鍵機に飛び掛る。

「オウガのダメージ率、40%を超えました。このままでは危険です」
「むぅ……まずいの」

 プラムの状況報告を受けて、清十郎が厳しい顔で唸る。元々、オウガは接近戦重視のパ
ワータイプで、遠距離用の武器は何一つ積んでいない。それでも、1対1ならばさほど問
題でもなかったのだが、数と距離のアドバンテージを取られた状態ではどうにも不利である。

「せめて……『ツヴァイ』が使えればの……」

 オウガが黒鍵機の尾に弾き飛ばされる様を見ながら、清十郎は苦渋の表情を浮かべた。

「……? 清十郎博士」
「ん、なんじゃ?」
「通信が入ってきました。その、この前の子から」
「なんじゃと!?」

 その言葉に驚きながらも、清十郎はプラムに通信を繋ぐよう指示する。司令室に通信が
繋がったとたんに、雷人の怒号が通信室中に響き渡った。

『おい、姉さん、ジジィ! どっちでもいいから、なんとかいいやがれ!!』

 雷人の声が大音量で響き渡り、司令部の中でハウリングが起こる。あまりの音に清十郎
は顔をしかめて耳を押さえた。

「な、なんじゃぁ?!」
「雷人君、ですね。どうしたんですか?」
『どうしたもこうしたもねぇ! 早くアイツを助ける方法を教えろ!』

 雷人の言葉の意味するところを知り、清十郎とプラムは顔を見合わせた。その言葉に混
じる必死な響きを感じ取り、プラムは静かな口調で念を押すように雷人に問いかける。

「本当に、いいんですか?」

 雷人の言葉の意味するのは、オウガのパートナーとなる事を選択したという事。その真
意を確認するように、プラムは問う。その問いに、雷人は間髪いれずに答えて見せた。

『いいって言ってんだろ! 早く教えてくれ! 頼む!!』

 その言葉を聞き、プラムと清十郎は頷きあう。それからすぐに、清十郎は手近な端末に
取り付き、コンソールを操作し始めた。秘められたオウガの真の力を目覚めさせる時が来
たのだ。

「では、これから言うとおりにしてください」

 そして、プラムは伝えた。オウガの力を解き放つ、その術を。

 

 

 


 黒鍵機のキャノン砲が乱れ飛び、尾がうなりをあげて迫る。オウガはそれらの中に果敢
に飛び込んでいくも、キャノン砲の間隙を縫って飛んできた尾に打ち据えられ、近くのビ
ルに叩きつけられてしまった。
 もう思うように動かなくなってきている体に舌打ちしながらも、そんな自分に更にいら
だち、オウガはうつむきかかる顔をむりやりねじ上げる。

「クソッ……がっ!?」

 オウガは目線の先にあるものに目を奪われ、言葉を失う。視線の先、デパートの屋上に
ある少年の姿。

「……小僧っ!」

 風に吹かれて立つ雷人は、左手から紫色の光を放ち、その手を天にかざした。

「コマンド・ラン!!」

「っ!?」

 雷人のコマンダーからの指令を受け、オウガの中で眠り続けていた機能が目を覚ます。
オウガは、己の力となる鋼鉄の僕の名を高らかに叫んだ。

「ジェットソーダー! ドリルランダー!!」

 オウガの呼びかけに応え、空の彼方から双胴型の戦闘機・ジェットソーダーが飛来し、
地面を割ってドリル戦車・ドリルランダーが飛び出す。
 ドリルランダーの先端のドリルが分離し、残った胴体も左右に分割され、両足を形成す
る。ジェットソーダーの下部のバーニアが切り離され両腕を形成、残った部分でジェット
ソーダーは飛行する。
 さらにオウガが天に向かって飛び上がり、頭部を収め腕をたたむ。そして腰を180度
回転させた。
 オウガ本体の足にドリルランダーの変形した両足が合体。更にジェットソーダーが変形
した腕が合体し、ジェットソーダー本体がオウガの胴に覆いかぶさり、細い双胴が機体の
後ろに回る。さらに頭部がせりあがり、分離していたドリルが分割、肩アーマーになった。

「ドライブ・オン!!」

 雷人の体が紫の光に包まれ、オウガの頭部に吸い込まれる。そして、瞳に意思の光が宿
り、その全身に力が漲る。

「重裂合体! ツヴァイッ オウガァァァァァッ!!」

 獣の如き咆哮と共に、紫紺の闘神が大地に降り立った。

「……おい、小僧」
「なんだ、バカトラ」
「なんで来やがった?」
「俺が来なきゃヤバかったろ?」
「そうじゃねぇっ!!」

 ツヴァイオウガの怒号に、雷人は思わず口をつぐむ。ついで、オウガは押し殺したよう
な声で雷人に問いかけた。

「……わかってんのか? ここに来るってことは……」
「護りたいんだよ、俺も」

 オウガの問いに対し、雷人は静かに、それでもはっきりとした言葉で答えた。その声に、
今度はオウガが口をつぐむ。

「分かったんだよ、俺が、何を探してたのか。ガキのままが、護られてるだけなのがイヤ
だったんだ。俺も、護れる力がほしかったんだよ。
 俺は……っ!」

 雷人が次の句をつむごうとした時、合体したツヴァイオウガの様子を伺っていた黒鍵機
が一斉に攻撃を開始した。キャノン砲の集中砲火をうけ、ツヴァイオウガが爆煙につつま
れる。

「ッがぁぁっ!」

 ツヴァイオウガが見えなくなっても、なお砲撃は続けられる。そんな中から、かすかに、
怒気をはらんだ声が漏れ出した。

『……めぇら……』

 次の瞬間、裂ぱくの怒号と共にツヴァイオウガを包んでいた土煙が吹き飛んだ。

『うざってぇんだよっっ!!』

 ツヴァイオウガの後ろに回っていた2門のキャノン砲――ソーダーキャノン――が火を
噴き、その直撃を受けた黒鍵機が吹き飛ばされる。さらに、残る一機との間合いを一気に
詰め、ボディブロウのように紫の光の拳を叩き込んだ。
 驚く事に、地に伏した3体の黒鍵機を見下ろすツヴァイオウガの体には、傷一つついて
いなかった。

「おい、クソガキ。細かいコトは……」
「……ああ、こいつらをぶちのめしてからだ。バカトラ」

 まるで、数年来の親友同士のように息を合わせる雷人とオウガ。ツヴァイオウガは、起
き上がってきた黒鍵機に向けてソーダーキャノンを構える。

『行くぜっ!!』

 両肩のキャノンから再び2条の光が走った。そのうち一本は狙いたがわず命中するが、
もう一方はかわされ、2機の黒鍵機がツヴァイオウガに迫る。だが、ツヴァイオウガは向か
ってきた黒鍵機一体の首を捉え、それを鞭のようにしてもう一方の黒鍵機を打ち据えた。

「おらぁぁっ!」

 そして、掴んでいた黒鍵機を地面に思い切り叩きつける。黒鍵機が地面にめり込むのを
確認するまもなく、ツヴァイオウガは顔を上げる。そこには、高く飛び上がって襲い掛か
る黒鍵機の姿があった。ツヴァイオウガは、ソーダーキャノンをそちらのほうに向ける。

「ソーダーキャノンッ!」

 キャノンは狙いたがわず黒鍵機に命中し、黒鍵機は地に向かって落下を始める。その黒
鍵機に向かってツヴァイオウガは駆け出した。

「ドリルアタッチメント!」

 ツヴァイオウガの肩アーマーがパージされ、突き出した左腕に飛来、二つの肩アーマー
が合体し、巨大なドリルを形成する。左腕のドリルが凶暴なうなり声を上げながら回転を
始め、ツヴァイオウガは突き進む。
 応戦する黒鍵機のキャノン砲をものともせず、ツヴァイオウガは黒鍵機にドリルアタッ
チメントを叩き込んだ。外装を瞬時に破り、内部を蹂躙、破壊しつくす。引き抜いた後か
らスパークが撒き散らされ、ツヴァイオウガが飛び退ると共に黒鍵機は爆発四散した。

「まずは、1体!」

 ツヴァイオウガはドリルの回転を止め、残る二体の方を振り返る。その2体はよろよろ
と起き上がると、互いに這い寄っていき、体を絡ませあった。その機体構造が絡み合って
いき、2匹の蛇が一つになっていく。やがて、絡み合った2体の黒鍵機は双頭の蛇となり
その背から羽を大きく広げた。

『向こうも合体した!?』
「ハッ! こけおどしだ!」

 景気よく啖呵を切ると、ツヴァイオウガは合体黒鍵機に向けてソーダーキャノンを発射
する。対する合体黒鍵機もそれにあわせるようにキャノン砲を発射。相対する2条の閃光
は、その中央で激しくぶつかり合い、相殺し爆発した。
 二つのキャノンがぶつかり合って生まれた煙の中にツヴァイオウガは突撃する。左腕の
ドリルがうなりを上げて回転し、煙を突き破って合体黒鍵機に迫った。

「オラァァァァァッッ!!」

 ドリルアタッチメントが、合体黒鍵機の中心を捉える。そのまま装甲を突き破っていく
かと思われた矢先、まるで装甲がドリルを避けるかのように自ら体を開いていった。

『何?!』

 合体黒鍵機は瞬く間に二つに裂け、ツヴァイオウガが駆け抜けたときには無傷の蛇型黒
鍵機に分離していた。更に2体は合体し、双頭蛇型黒鍵機となって、背を向けたツヴァイ
オウガに向けてキャノン砲を発射する。それを避ける間もなく、ツヴァイオウガは砲撃に
晒される。

「がぁっ! っの!」

 ツヴァイオウガはすぐさま立ちあがり、振り返って、ソーダーキャノンの砲門を合体黒
鍵機に向けた。

「なめんなぁぁぁっ!」

 怒号と共に、ソーダーキャノンが火を噴く。だが、合体黒鍵機はそれを飛び上がってか
わし、更に両の羽を広げて上空へと飛行していった。そして、地上のツヴァイオウガ向け
てキャノン砲の集中砲火を開始する。

「ぐあっ! くそっ、調子に乗りやがって!」
『おい、どうすんだよ!』
「そんなもん、決まってんだろ!!」

 内部の雷人にそう答えつつ、ツヴァイオウガは背中のウイングを展開した。展開したウ
イングからは紫の光の粒子が漏れ出し、ツヴァイオウガの足が地面から離れる。

「追いかけるんだよ!!」

 その瞬間、背のウイングから光の粒子が爆ぜ、それに押し出されるようにツヴァイオウ
ガが天に向かって飛び出していった。あるものはかわし、あるものはドリルで弾き、また
あるものは当たるに任せて、ただ一直線に合体黒鍵機に向かって突き進んでいく。その勢
いは合体黒鍵機の弾幕を突き破り、ついにそのドリルが届く距離まで迫った。

『いけぇぇぇぇぇっ!』

 二人の声が唱和し、ドリルアタッチメントが突き出される。だが、ドリルが当たる直前
にまたも合体黒鍵機は左右に分離し、それを逃れた。分離し飛行能力を失った黒鍵機は重
力に引かれて地上に落下していく。
 だが、まるでそれを待っていたといわんばかりにツヴァイオウガは目を光らせた。

「逃がすかぁぁぁっ!」

 ツヴァイオウガはドリルアタッチメントを分離して肩アーマーに戻し、胸飾りの一部を
展開させる。そこに両手をかざすと、そこに紫のスパークを放つ球体が出現した。

「ヘヴンズケェェェジッ!」

 両腕を突き出し、球体を解き放つ。放たれた球体は落下途中の黒鍵機の間に「着弾」し、
2体の黒鍵機を球体内に閉じ込めてしまった。2体の黒鍵機は強力な力で引っ張られるよ
うに中心に押され、耐え切れずまたも合体。だが、力場に押さえ込まれ、身動きできなくなる。

 ヘヴンズケイジ。その正体は、対象を一定空間内に閉じ込め動きを奪う超重力の檻であ
る。そして、それは更なる技への布石となる。
 ソーダーキャノンが前方へと展開。その砲門に紫の光、重力の力が集約される。その力
が臨界を迎えた時、破壊の閃光が解き放たれた。

「クラッシュヘルッッ!!」

 紫紺の閃光が大気を切り裂き、重力に囚われた囚人の下へと突き進む。超重力の顎は双
頭の黒鍵機を飲み込み、その全身を破壊しつくす。

「フォーリング・ダウンッ!」

 ツヴァイオウガが背を向けた彼方で、黒鍵機が大空に爆炎の華を咲かせた。

 

 

 


 戦闘後、ツヴァイオウガは地面に降り立つとそのまま合体を解き、サポートメカは基地
に帰還。後には雷人と虎の姿に戻ったオウガ、そして、さっきまでオウガの体であったト
ラックのみが残された。
 雷人は地面につくなり、腰が砕けたようにしりもちをついた。

「オイオイ、大丈夫かよ?」
「バ、バテた。腰、抜けた……」

 今になって、疲労と恐怖が一気に襲い掛かってきたのだろう。緊張の糸が切れたのも手
伝い、雷人は大きく肩で息をして額には玉のような汗を浮かべていた。
 オウガはそんな雷人を見て、ため息混じりに問いかける。

「……なぁ、なんで来ちまったんだよ? そんなになってまでよ」

 雷人は肩で息を続けながらも、上目遣いでオウガを睨み付ける。その目には、子供らし
からぬ確かな信念の光が宿っていた。

「もっと強い俺に、なりたいから」
「もっと強い、俺?」

 自分の言葉を繰り返すオウガに、雷人は頷いて答える。

「俺は、護られてばかりで、それに甘えちまってる俺がイヤだった。だから、斜に構えて、
遠ざかって、つっぱろうとしてた。
 でも、お前や、ユキ姉を見てて、気付いた」

 雷人はふぅっと一息つくと、息を整えて瞳を閉じた。そのまぶたの裏に浮かぶのは、命
を懸けて人々を護るオウガや、恐怖に負けず自分を護ろうとする有紀音の姿。自分が、ず
っと探し、追い求め続けていた姿だった。

「ガキだとか、ムリだとか。そんなのはただの言い訳だ。本気で強くなりてぇんだったら、
覚悟決めて、前向いて、強くなろうとしなきゃダメなんだ。
 ……けどよ」

 そういうと雷人は立ち上がり、まっすぐにオウガの瞳を見つめた。オウガもそれから逃
げず、その眼差しを真っ向から受け止める。

「俺は、今、強くなりてぇんだ。ユキ姉や、紅楽園のガキどものこと、護れる力がほしい。
 だから!」
「……」
「オウガ、俺の力になってくれ!」
「雷人……」
「俺の力は全部くれてやる。できることならなんだってやってやる!
 だから、お前の力を、俺に貸してくれ!!」

 感情をあらわにして雷人は叫んだ。こんなに感情を荒げて、何かを求めたのは本当に久
しぶり、或いは初めてであったかもしれない。ふいに気付かぬうちに、雷人の頬を涙が伝
う。それに気付いた雷人は、目元を隠すようにうつむいた。

「勝手なコト言ってんのはわかってるけどよ……頼む」
「……ヘッ」

 オウガは微笑むと、わざとらしく肩をすくめて見せた。

「しょうがねぇなぁ。そこまで泣いて頼まれちゃあよ」
「っ! だ、誰が泣いてんだよ!」
「今、泣いてただろうがよ」
「な、泣いてねぇよ!」

 雷人は顔を真っ赤にすると、目をごしごしとこすって涙をふき取る。そんな雷人の姿を
見て、オウガは声を上げて笑い出した。

「ははははは! そうでなくっちゃなぁ!」
「……ったく……」

 オウガはひとしきり笑うと、ふいに真面目な顔に戻り、雷人を見据えた。その眼差しは
穏やかで、そして優しいものだった。

「ま、これから色々あるだろうけどよ。よろしくな、雷人」

 そのオウガの言葉に、雷人は目を見開いた。初めてだったのだ。オウガが雷人を名前で
呼んだのは。その意味するところを知って、雷人の胸は熱くなった。そして、雷人もまた
微笑んでそれに応える。

「ああ。よろしく、オウガ」

 オウガが片前足を突き出し、雷人もそれに応えて右拳を突き出す。
 拳と拳を突き合わせた時、二人はパートナーとなった。

 


<NEXT EPISODE>