七星勇者フェリスヴァイン


 どことも知れない異質な空間。
 輝く闇と、静寂のみがその場に満たされている。
 二本の淡く輝く支柱に挟まれるように、真紅のヴェールのみが闇の世界にあって不自然なほど鮮やか
に浮かび上がる。
 そのすぐ傍ら、磨かれた黒曜石を敷き詰めたような床の上に、2つの存在がヴェールの左右に分かれ
て佇んでいた。

 そのうちの一つ、向かって左側に佇む、頑強な体躯を持ち漆黒のマントに身を包んだ男――
『暗黒の使徒』最高幹部の一人、魔将軍ゲルトナーが、厳かに声を発した。

ゲルトナー「勅―――
       四星士、これへ――」

 その声に応えるかのように、ヴェールのある所よりも一段下がった場所に、空間の揺らぎが生じる。
 それは、肩当ての付いたコートを身にまとい、漆黒の仮面をかぶった男の姿となる。

「黒騎士シュバルツ、推参」

 黒騎士と名乗った男が現れてよりすぐに、その隣にも空間の揺らぎが生まれる。

「妖学士クロイツ、罷(まか)り越しました」

 緩めの全身を覆うマントを付け、酷薄そうな顔に小さな丸メガネを掛けた男が恭しく礼をする。

 クロイツの隣には、青白い肌にパンク風の衣装といった風体の細身の男が、どこか人を小馬鹿にした
ような笑みを浮かべて立っていた。

「ケケッ…冥闘士ブリント、ここに」

 そして最後に、ゲルトナーに劣らぬ体躯を持ちながら、全身が機械で出来ているロボットの
ようなものがそこに佇んでいた。

「……邪霊士、ヴァンダーツ……」

 この四人こそが、『暗黒の使徒』の幹部である『四星士』である。
 実際の作戦実行は、彼ら四人によって行われる。

 実質の幹部四人が揃ったのを見て、ゲルトナーの反対側に佇んでいた男が、満足げな笑みを浮かべた。

 その姿は、男と言うよりはむしろ少年の姿であり、中世のヨーロッパ貴族のような服装に
背を覆うほどのマント、目元のみを覆うタイプの仮面がつけられている。

「ようこそお越し下さいました、皆さん」

黒騎士「我ら四星士を呼び集めるとは、何用だ、闇元帥」

 闇元帥と呼ばれた少年は、黒騎士の方に顔を向けて説明する。

闇元帥「ええ。先日、黒鍵機・ゴロゴーンが破壊されたのはご存知ですね?」

 クロイツはしばし思案する。
 黒鍵機の開発はクロイツが一手に担っているので、だいたいの機体は把握しているのだ。
 やがて、それらしい黒鍵機が頭に思い浮かぶ。

クロイツ「ああ、確か、地球人にくれてやった下級の黒鍵機だな?」

黒騎士「それがどうかしたのか?」

闇元帥「ゴロゴーンを破壊したロボットより、強力な『白き力』が感知されました。
    その力の種類から考えて、やったのは恐らく『炎の勇者』フェリス」

 その名を聞いたとき、四星士の間に動揺が走った。

ブリント「バカ言ってんじゃねーよ! 奴なら6年前に、目覚めて勝手に壊れちまっただろーが」

闇元帥「壊れたのはあくまでボディ。意識体としてのフェリスは滅んではいなかったのです」

ヴァンダーツ「人間、勇者の、ボディ作った」

 ヴァンダーツの言葉に、闇元帥は頷く。

クロイツ「で? 俺達は何をすればいいんだ?」

闇元帥「新たなる『炎の勇者』の調査です。いかほどの、どのような力を持つのかを調べるのが目的」

 闇元帥の言葉に、ブリントが楽しそうにほくそえむ。

ブリント「ケケケッ、だったら俺様が…」

黒騎士「私が行こう」

 ブリントは、自分の言葉をさえぎって割りこんできた黒騎士を睨みつけた。

ブリント「……テメェ、どういうつもりだ!?」

黒騎士「貴様は加減と言うものを知らん。この任務は私が最も適している、それだけだ」

闇元帥「いいでしょう。黒騎士さん、今回は貴方に任せます」

黒騎士「承知した」

ブリント「なっ!? ちょ、ちょっと待てよ!」

 ブリントは、納得がいかないと闇元帥に食って掛かる。

ブリント「ただの偵察だろ!? 俺様が行ったってかまわねぇじゃねぇーか!」

闇元帥「……忘れたんですか?」

 闇元帥の仮面の奥の目が、冷たくブリントを見据える。
 その小さな体からは考えられないほどの威圧感が、ブリントを否応無しに沈黙させる。

闇元帥「ドルガイザー様の片腕、『暗黒の矛』であるゲルトナーさんと、『暗黒の瞳』である
    ボクの言葉は、それすなわち、ドルガイザー様の言葉であるということを」

ブリント「グ、グググ……ッ!」

闇元帥「どうやら、納得していただけたようですね」

 闇元帥は、黙りこんだブリントを見て満足げに微笑んだ。

黒騎士「では、私は行かせてもらう」

 闇元帥とブリントのやり取りが終わったと見て、黒騎士はその場に背を向けて歩き出した。
 その背に、クロイツが声を掛ける。

クロイツ「おい、シュバルツ」

黒騎士「……なんだ?」

クロイツ「行くんだったら、第3格納庫のヴェノムを持っていけ。
     様子見程度なら、あれで十分だろう」

黒騎士「ああ」

 その声を最後に、黒騎士は闇の空間から姿を消した。

ゲルトナー「世界に破壊と混乱を……」

闇元帥「すべては、ドルガイザー様のために」

 誰に言うでもなく、ゲルトナーと闇元帥が呟く。
 その声に応える様に、ヴェールの向こうで闇が揺らめいた。


「……そんな奴が、フェリスの敵なの?」

 フェリスから、敵であるドルガイザーの話を聞いた瞬は、つばを飲みこんで
開口一番にそう言った。

フェリス「ああ。
     とは言っても、現在、ドルガイザーは完全には目覚めていないのだがな」

「どういうこと?」

フェリス「ドルガイザーは、自分にかけられた封印を破る事にその力のほとんどを使ってしまい
    現在、休止状態にあるんだ。
     そのため、ドルガイザーは『暗黒の使徒』を使ってあちこちを襲ったりしている。
    生物の持つ負の感情こそが『黒き力』の源だからな」

「そ、そうなんだ……」

陽司「だからこそ、『暗黒の使徒』から人々を守らなければならない。
   ドルガイザーを完全に復活させてはならないんだ!」

輝美「そのための組織が、私達BBSなんですよね」

 3人とは違う方向から声をかけられて、瞬達はいっせいにそちらの方を向く。

 そこには、微笑んで立つ輝美と、その後ろに立つBBSメンバーの姿があった。
 その中の、輝美にそっくりな女性が苦笑しながら声を上げた。

「司令、親子水入らずもいいけど、あたし達の紹介もしてくれません?」

陽司「ああ、そうだったな。いや、すまない」

「いえいえ。では、それぞれ自己紹介ってことで」

 そう言って、その女性は瞬の方に向き直った。

「では、改めまして。
  あたしはBBS司令室所属のオペレーター、秋月 博美(あきづき ひろみ)です!
  ヨロシクね、瞬クン!」

「よ、よろしくおねがいします! ……あの、博美さんって、もしかして…」

 その疑問に答える様に、輝美が博美の隣に回った。

輝美「ええ。博美姉さんは、私の双子の姉です」

博美「テールとほくろが右にあるほうがあたしだから、間違えないでネ」

 秋月姉妹の後ろから、中肉中背で丸メガネをかけ、オイルなどで汚れた作業着を着た
さえない感じの男が顔を出した。

「あー、私、整備部主任の佐々部 哲郎(ささべ てつろう)と申します。
  格納庫でマシンの整備を主にしておりますんで、どうぞよろしく」

陽司「佐々部君は存在感が薄いのが玉に傷だが、実に腕のいい整備士だ。
   それにな、こうみえても宴会をやると幹事に宴会部長に大活躍なんだぞ」

 陽司が、そう付け加えて瞬に説明する。

「そうなんだ……。よろしく、佐々部さん!」

 そして、最後に残っていた白衣を着た女性が瞬の前にやってきた。
 白衣にメガネと、仕事中の由美を彷彿とさせるいでたちだが、凛とした雰囲気を持つ由美とは
対照的に、ふんわりと柔らかい空気がその女性を包んでいる。

「初めまして、よりも、お久しぶり……かな? 瞬君」

「えっ? もしかして、羽月(はづき)さん?!」

羽月「正解。BBS技術部主任の、遠山 羽月(とおやま はづき)よ。覚えててくれて嬉しいわ」

 羽月は、陽司が大学に籍を置いていた時代にその助手を勤めていたのである。
そのため、幼かった頃の瞬とは面識もあったのだ。
 羽月もまた、陽司と共に遺跡の調査に向かっていたのである。

陽司「これが、我らがBBS本部のメインスタッフだ!」

 

?『くぉりゃぁぁぁぁぁっ!! 誰か忘れておらんかぁぁぁぁぁっ!?』

 

 突然、スピーカーから老人の声が大音量で響き渡り、その場にいた物が全員耳をふさいだ。
 それでも、あまりの大声に耳がきんきん鳴っている。

「この声……もしかして…」

陽司「父さんが無事で、あの人が無事じゃないわけ、ないだろう…?」

 陽司が半分呆れ顔でそう言ったのと同時に、メインスクリーンに立派な白髪と白髭を蓄えた
老人の憤慨した顔がドアップで映し出された。
 それは、瞬が想像していた通りの人物だった。

「おじいちゃん!!」

 その声に、瞬の祖父、星崎 清十郎(ほしざき せいじゅうろう)はさっきとは打って変わった
笑顔で瞬に応える。

清十郎『おお、瞬! 久しぶりじゃのう! 元気じゃったか?』

「おじいちゃんこそ! 無事だったんだね!?」

清十郎『あったりまえじゃぁ! この世に生を受け72年、ようやく巨大ロボの闊歩する時代になった
   というのに、そう簡単に死にはせんわい!』

 そう言って清十郎は、かっかっかっと高笑いを上げる。とても72の老人とは思えない元気のよさだ。
 そんな、6年前とちっとも変わっていない祖父の姿を、瞬は懐かしそうに見上げていた。

陽司「今、おじいちゃんはBBS札幌支部で技術顧問をしているんだ」

清十郎『そうじゃ、陽司。例のプロジェクトが一段落ついたんでの
    『彼女』を一度そちらに戻すことにしたぞ』

陽司「そうですか。助かります!
   今はまだ、『彼女』のサポートなしであのシステムは起動できませんので」

清十郎『そろそろ、そっちにも『彼女』が必要になるじゃろうと思っておったでな』

 そんな、陽司と清十郎の会話を、瞬は頭にハテナマークを三つほど浮かべながら聞いていた。

 

 その時、けたたましいアラームが鳴り響き、スクリーンに映った清十郎が小さくなって
隅に追いやられ、代わりに大きく緊急事態を示す「ALRAT」の文字が映し出された。
 同時に、BBSメインスタッフの表情が一気に引き締まり、佐々部が司令室から飛び出す。
 博美と輝美はそれぞれのデスクに付き、滑らかなキータッチでコンソールを操作、状況を調べた。

博美「美空市上空にランクBのD・A反応を確認! 黒鍵機です!」

輝美「現在、自衛隊が出動していますが効果は軽微、対象、市街地に着陸します!」

 その言葉を聞き、瞬とフェリスの表情も変わる。

「お父さん! 黒鍵機って!?」

陽司「『暗黒の使徒』が使う、『黒き力』を使ったロボットの事だ。この前も、フェリスが戦っただろう」

「じゃあ、敵!?」

フェリス「そうだ! 陽司、俺が出る!」

 そう言い放ち、フェリスも司令室を飛び出そうとした。

「ぼ、ボクも!」

フェリス「いや、瞬はここにいろ! 危険だ!」

「でもっ!」

フェリス「せめて、『彼女』が来るのを待ってくれ。それからでも遅くはない!」

「『彼女』……って?」

フェリス「来たら、わかるさ」

 フェリスはそう言って微笑むと、今度こそ司令室を飛び出した。
 瞬は、ただその後を見送った。


 その頃、漆黒の騎士のような姿をしたロボットは自衛隊の戦闘機と戦闘を繰り広げていた。
 もっとも、戦闘機の攻撃はロボットに全く通用せず、ただ一方的にやられるだけの
戦いにすらなっていないものであったが。
 不用意に近づいてきた一機の戦闘機向けて、ロボットがその手にした剣を振り下ろした。
 表面がビームで覆われたその剣は、戦闘機をたやすく切り裂き、また一機の戦闘機が爆発、四散する。

黒騎士「ふ、他愛もない。地球人とは、戦いが得意な人種ではなかったのか?」

 そのロボット――黒鍵機・ヴェノム02に搭乗する黒騎士は、距離を置いて滞空する3機の戦闘機を
見ながらほくそえんだ。

黒騎士「どうした、炎の勇者。ビルの一つでも壊してやらんと出てこないか?」

 そう言いながら、手近なビルに向けてビームを帯びた剣――ビームリッパー――を振り上げる。
 その時、彼方から赤いスポーツカーが爆音さえ響かせてヴェノム02に向かってきた。

フェリス『待てぇぇぇぇっ!』
黒騎士「むっ、来たか?」

フェリス『チェィンジ!』

 スポーツカーが浮かび上がり、瞬く間に胸に狼のエンブレムを持つロボットへと変形する。

フェリス「そこまでだ! 『暗黒の使徒』!」

黒騎士「フ……ようやくのお出ましか…」

 ヴェノム02はビームリッパーを降ろすと、フェリスの方を向き直った。
 比較してみると、ヴェノム02に比べフェリスはその三分の一程度の大きさしかない。
 それを黒騎士も感じていたのだろう。

黒騎士「…ずいぶんと小さいな。まぁ、人間の作るものだからか…」

フェリス「何!?」

黒騎士「まあいい。強さは大きさではないのだからな」

 そう言って、ヴェノム02は剣を地面に突き立てた。

黒騎士「私は『暗黒の使徒』四星士の一人、黒騎士。
    炎の勇者よ、尋常に勝負願おうか」

 フェリスは、黒騎士が礼儀正しく名乗りをあげた意外さに驚いた。
 その礼に、フェリスも応える。

フェリス「俺は『白き力の勇者』の一人、『炎の勇者』フェリス。
     この星を、貴様らの好きにはさせない!」

黒騎士「ならば来い……貴様の力を私に見せてみろ」

フェリス「オォォッ!」

 フェリスは、腰に装着されたウルフマグナムを取り出す。
 そして、マグナムをヴェノム向けて発射する。

フェリス「ウルフマグナム!」

黒騎士「ぬっ!」

 ヴェノムはビームリッパーでマグナムを受け止める。
 ビームの表面にいくつもの爆発が起こった。
 ヴェノムはそれを凌ぐと、ビームリッパーを腰だめに構えてフェリスめがけて駆け出した。

黒騎士「フッ!」

フェリス「!」

 ビームリッパーが真横に薙がれるが、フェリスは後方に飛びあがってそれをかわす。
 ヴェノムは足を踏みしめ、続けざまに剣を振り上げようとしたが、その時既に
フェリスは地上のヴェノム向けてマグナムを構えていた。
 そして、3発の銃弾がヴェノムの上に降り注ぐ。
 ヴェノムは剣の軌跡を微妙に逸らすが、受け止められたのは1発のみで
残りの2発はそれぞれ右肩と腕に命中した。
 だが、命中した箇所からは、わずかな傷跡しか見えなかった。

フェリス「クッ!」

 フェリスは地面に付くなり、ウルフマグナムを逆手に持ち替え、ナイフに変形させたそれを
ヴェノムの首を狙って振り上げる。

フェリス「マグナムナイフ!」

黒騎士「!?」

ガキンッ!

 フェリスが振り上げたナイフは、ヴェノムの左腕に受け止められていた。
 ナイフは腕の装甲にわずかに食いこむが、切り裂くには至らない。

黒騎士「やるな……私に左腕を使わせるとは…」

フェリス「いや、まだだ!」

 言うなりフェリスはヴェノムの腕に蹴りを入れてナイフを抜きつつヴェノムから離れる。
 その時、胸のエンブレムには既に炎が宿っていた。

フェリス「ファイヤーシュート!!」

 胸のエンブレムから炎の玉がヴェノムの頭部めがけて放たれる。
 フェリスが一回転して着地すると同時に、ヴェノムの頭部近くで大きな爆発が起こった。

ドゴォォン!

フェリス「やったか!?」

 だが、爆煙の中から現れたのは、ビームリッパーをかざしてファイヤーシュートを防いでいた
ヴェノムの姿だった。
 ヴェノムは頭部付近が少々焦げているが、問題となるほどのダメージは受けていない。

黒騎士「速さと腕はなかなかだ。だが、哀しいかな……力が足りん!」

フェリス「ク…!」

 フェリスの前に、ヴェノムが巨大な壁となって立ちはだかっていた。


 フェリスの戦いの様子は、BBS司令室のメインスクリーンにも映し出されていた。
 ヴェノムのビームリッパーに弾き飛ばされたフェリスを見て、瞬が悲鳴を上げる。

「フェリスッ!!」

 瞬は何かに耐えるように唇をかんでうつむいていたが、耐えかねたかのように陽司を振りかえった。

「お父さん! フェリスのところに行かせてよっ!」

陽司「瞬、それは……」

「ボクが行ったって何も出来ないって分かってるけど! でもっ!!」

陽司「……」

 陽司は、瞬の必死の目をじっと見つめていた。
 その時、輝美が何かに気付いて声を上げる。

輝美「司令! 『彼女』が来ました!」

陽司「よし! すぐに転送、リアライズするんだ!」

輝美「了解!」

 輝美はコンソールを操作し、何かのプログラムを起動させる。
 すると、司令室の中空に光が集まり、それが人の形をとり始める。

 やがて、その光の中からRPGに出てくるような衣装を身にまとった
15,6歳ぐらいの少女が姿を現す。

「えっ……?!」

 それを見た時、瞬の瞳が驚きで見開かれる。

輝美「『プラム』、リアライズ完了!」

「プラムッ!?」

 それは、瞬の家のサポートプログラムであるはずの少女、プラムの姿だった。
 目を閉じていた『プラム』がゆっくりとまぶたを上げる。
 瞬の姿を見とめた『プラム』は、瞬のすぐそばに降り立った。
 そして、あっけにとられている瞬に微笑みかける。

プラム「こんにちは、瞬君。『こちら』で会うのは、初めてでしたね」

「え? こちらって? どうなってるの!?」

 瞬はあまりの事態に混乱する。
 まあ、無理のない話ではあるが。

プラム「時間が無いようですので簡単に説明いたしますが、瞬君のお家の『プラム』は
    いわば私の『分身』のようなものなのです。
     『分身』が得た情報は『本体』である私も得る事が出来ます。
    ですから、瞬君の事はよく知っているんですよ」

「え? じゃ、じゃあ、ボクが知ってるプラムと君は、一緒なの?」

プラム「ええ。そう考えていただいて、差し支えありません」

 そう言うと、プラムは陽司のほうを振りかえった。

プラム「司令、緊急事態です。『プログラム・ユナイト』の発動承認を!」

陽司「プログラム・ユナイト!? だが、あれは…」

プラム「2つの問題点でしたら、すでに解消されておりますわ」

 プラムは、そういってにっこりと微笑む。
 陽司はそれを見て、少々思案し、そして何かを決意したかのように顔を上げた。

陽司「分かった。『プログラム・ユナイト』の発動を承認する!」

一同『了解!』

 全員が頷いて作業を開始するが、ただ一人、瞬だけが要領を得ないようにプラムを見上げた。

「ねえ、プラム。プログラム・ユナイト…って?」

プラム「瞬君は、格納庫にあったトレーラーをご覧になっていますか?」

 瞬は、少々考えて、それらしいものに思い当たった。
 その顔を見て、プラムは瞬が思い出したものと理解する。

プラム「フェリスは、あれと合体する事によって更なる力を発揮できるんです。
    でも、そのためには瞬君の力が必要です」

「ボクの、力?」

プラム「ええ。この合体を成功させるためには、勇者と心の奥深くで繋がりあった
    『パートナー』の力が必要なのです。
     瞬君。私と一緒に、来て頂けますか?」

「もちろんだよ!」

 瞬は、当然とばかりに大きく頷いた。
 プラムは、それをみて満足げに微笑む。

プラム「では、参りましょうか」

 プラムは、瞬を後ろから包みこむように抱いた。
 本来、実体が無いはずのサポートプログラムに触れられて瞬は驚く。

プラム「司令、亜空間コンテナを!」

陽司「うむ。亜空間コンテナ、始動!」

博美「了解! 空間座標、指定。座標固定、完了。亜空間回線、異常無し!」

 瞬とプラムの周りが、透明な四角い箱のようなもので包まれる。
 これぞ、BBSが誇る転送マシン、亜空間コンテナ。
 大きさを問わず、地球上であればいかなる場所にでも一瞬の内に運んでしまうという優れものである。

プラム「瞬君、恐くないですか?」

「ん、ちょっと。でも、フェリスのためだもん」

陽司「すまない、瞬…」

「大丈夫、心配しないで。ボク、お父さんの息子だよ!」

 そう言って、瞬は微笑んだ。

博美「亜空間コンテナ、始動!」

 博美の指がコンソールのボタンを押す。
 と同時に、瞬とプラムの姿が、その場から掻き消えた。

陽司「瞬、プラム……頼んだぞ」

 陽司は、心配そうに瞬達が消えた後を見つめつづけていた。


 瞬とプラムが転送された時、フェリスはヴェノムによってまたも地面に叩きつけられていた。
 すでにあちこちの装甲が歪み、切り裂かれ、精悍な姿が見る影もない。
 その様子に耐えかねて、瞬は思わず声を上げた。

「フェリス――――っ!!」

 その、この場所にしては小さな叫びに、それでもフェリスは気づいて声が聞こえたほうに首を向ける。

フェリス「瞬っ! 何故ここに!」

プラム「私がお連れしました」

フェリス「プラム!?」

 驚くフェリスを尻目に、プラムはどこからとも無くブレスレットのような物を取り出した。
 そして、それを瞬に差し出す。

「これは?」

プラム「『ビーストコマンダー』です。詳しい説明は後でいたしますが
    とりあえずこれを腕に付けて下さい」

「う、うん」

 瞬はプラムからビーストコマンダーを受け取ると、おそるおそる左手首に付けてみた。
 それは、まるでずっと昔から付けているかのように腕によくなじんだ。
 瞬がビーストコマンダーをつけたのをみたプラムは、今度はフェリスに向かって叫ぶ。

プラム「フェリス! プログラム・ユナイトです!」

フェリス「プログラム・ユナイト!? しかし、あれは!」

プラム「今のあなた方ならできるはずです! 瞬君との絆を信じて!」

フェリス「……わかった!」

 フェリスは、傷ついた体を推して立ちあがった。
 ちなみに、フェリスとプラムがしゃべっている間、ヴェノムは一切の攻撃を仕掛けてきていない。
 瞬とプラムがいるのを承知で、あえてフェリスが立つのを待っていたのだ。

黒騎士「何の相談かは知らんが、無駄な事だ」

フェリス「無駄かどうかは……」

 フェリスはそう言うと、胸のエンブレムに火を灯す。

フェリス「やってみなければ分からん!!」

 そう叫ぶと同時に、再度、ファイヤーシュートが放たれる。

黒騎士「その技は通じん!」

 ヴェノムは、先程と同じようにビームリッパーでファイヤーシュートを防ぐ。
 火球がビームリッパーに触れた爆煙でヴェノムの視界が覆われる。

フェリス「よし、今だ!」

プラム「瞬君、コマンダーの赤いボタンを押して、『コマンド・ラン』と叫んでください!」

「うん、解った!」

 瞬はボタンに指を置いて、フェリスを見上げる。

「行くよ、フェリス!」

 フェリスも、瞬の顔を見て頷いた。

フェリス「ああ、瞬!」

 そして、瞬は力をこめて赤いボタンを押した。
 コマンダー先端のクリスタルが赤い輝きを放ち、瞬はそれを天に掲げる。

瞬「コマンド・ラン!!」

フェリス「オオオッ! バーストローダー!!」

 フェリスの叫びに応えて空間の裂け目が生まれ、亜空間と直結する。
 その中から、真紅のトレーラー――バーストローダー――が飛び出し、宙へと浮かび上がった。

 トレーラーの最後尾が跳ねあがってつま先のようになり、機体の後ろ半分が180度反転
下半身を形成する。
 次に、トレーラー上部に2つならんでマウントされていたバーニアが切り離され
コクピット部が90度回転しながら左右に分離、車体側面の一部が分離し、両腕となった。
 機体がそのまま起き上がり、胸部から狼の頭部が前方にスライド、側面からロックされる。
 肩部に変形した後から、頭部がせりあがった。

 フェリスはビークル形態になってロボットとなったバーストローダーの背面に飛び上がり、背面にあ
いた穴に収納され、その穴が閉じられる。

瞬「ドライブ・オン!」

 コマンダーから赤い輝きに包まれた瞬が、宙に浮かび上がって頭部にすいこまれる。
 先に切り離されていたバーニアがそれぞれ肩に装着され肩アーマーとなり、腕から手が飛び出す。
 そして口が剥き出しの顔にフェイスマスクが装着され、その目に緑の輝きが灯った。

 

フェリスヴァイン「爆炎合体! フェリィィィィスヴァイィィィンッ!!」

 

 裂帛の咆哮と共に、真なる炎の勇者が、今、大地に降り立った!

黒騎士「な……合体しただと!?」

 黒騎士が、掛け値なしに驚きの声を上げる。
 それは、フェリスヴァインの中の瞬にとっても同じ事だった。

「合体成功、したの? それに、ここは…」

プラム『ここは、フェリスがバーストローダーと合体した姿、フェリスヴァインの中ですよ』

「プラム?」

フェリスヴァイン(以下FV)『プラムは、フェリスヴァインの制御をサポートしてくれるんだ。
                プラム、そして、瞬がいなければこの合体は成功しなかった』

「プラムは解るけど……ボクも?」

プラム『ええ。先程話しましたよね? 合体には2つの問題があると』

「うん」

プラム『一つは、今の段階では、まだフェリスがフェリスヴァインを完全に制御できない事。
    これは、私がサポートする事で解決できます。
     もう一つが、合体を維持し続けるための『白き力』が不足している事』

FV『俺一人では、『白き力』が通わぬこの体を維持し続けられないんだ。
  だから、俺とこの体を繋ぎとめ、『白き力』を増幅してくれるパートナー
   ……ビーストマスターが要る』

「ビースト、マスター……」

FV『俺を信じ、俺を友達だと言ってくれたお前の心が、俺に更なる力をくれたんだ』

「ボクが、フェリスの力に……!」

 

黒騎士「お喋りはそこまでだ。どれほどの力か、戦ってみれば解ること!」

 ヴェノムは、ビームリッパーを構えてフェリスヴァインに斬りかかった。

「フェリスヴァイン!」
FV「ああ! 新しい俺達の力を見せてやろう!」

 フェリスは、胸の狼の頭部を突き出した。その奥に、ファイヤーシュートのような炎が生まれる。

FV「フレイムシューター!」

 狼の口から、ファイヤーシュートの数倍に昇るであろう炎の弾が放たれた。
 それは真っ直ぐに斬りかかってくるヴェノムに向かう。

黒騎士「その技は効かんと言ったはずだ!」

 ヴェノムはその場に踏みとどまると、ビームリッパーで炎を受け止めた。
 だが、簡単に押し返せると思った炎の弾は、比べ物にならない力強さで剣を押していく。

黒騎士「ぐ、先程とは、まるで違うと言うのか…!」

 炎の弾は爆発を起こし、その中でビームリッパーの刀身が砕け散る。

黒騎士「な、なんだと!?」

FV「止めだ!」

 フェリスヴァインの左肩アーマーの内側がスライドし、そこから剣の柄が飛び出す。
 フェリスヴァインがそれをつかむと、柄の先から日本刀のような刀身が現れた。

FV「ヴァインブレード!」

 フェリスヴァインはヴァインブレードを腰だめに構え、肩アーマーが地面と水平にスライド
その一部が更にスライドして噴射ノズルが顔を見せる。

 ヴァインブレードが炎に包まれ、肩アーマーのバーニアが一気に火を吹いた。

 フェリスヴァインがバーニアで一気に加速し、ヴェノムめがけて突き進んだ。

 そして、目標直前で剣を大上段に振り上げる。

 

FV「炎狼刀技、フレイムファング!!」

 

 ヴァインブレードがヴェノムを炎と共に袈裟懸けに切り裂き、フェリスヴァインは炎を纏ったまま
向こう側へと駆け抜けた。

黒騎士「これが、新たな『炎の勇者』の力、か」

ドッゴォォォォォン!!

 ヴェノムが爆発、四散する。
 その爆発の中から、黒騎士が脱出艇に乗って飛び出し、その場を離れていった。

黒騎士「フェリスヴァイン……その名と姿、我が心に刻み付けておくぞ」

 黒騎士は、そのまま姿を消した。

 フェリスヴァインは、刀の血を飛ばすようにヴァインブレードを一振りした。

FV「我が焔(ほむら)に、断てぬ悪無し!」

 狼が、誇らしげに輝いた。




「これが、フェリスヴァイン……」

フェリス「そうだ。闇を払う、真なる炎の勇者だ」

「……だったらさ、ますますボクの力が必要になっちゃうね!」

フェリス「瞬?」

プラム「瞬君?」

 戸惑ったようなフェリスとプラムに、瞬はにっこりと笑って応えた。

「ボク、なるよ。フェリスのパートナーに。…ビーストマスターに!」

プラム「しゅ、瞬君、自分で連れてきておいてなんですけど、いいんですか?
    そんな簡単に決めちゃって」

フェリス「危険な事なんだぞ。俺だって、お前を危険な目にできれば遭わせたくない」

「でも、できることがあるのにやらないほうがもっといやだよ。
  フェリスには恩返しもしたいし、それに……」

 そう言って瞬は微笑んでフェリスの顔を見つめた。

「友達でしょ? ボクとフェリスは」

フェリス「! ……ああ、そうだな」

「えへへ……じゃ、改めて……
  よろしくね、フェリス!」

フェリス「ああ、よろしくな、瞬!」

 瞬とフェリス、そしてプラムは、その場で楽しげに笑いあった。
 この瞬間に、真の意味で物語は動き出したのである。

 

 

<NEXT EPISODE>