七星勇者フェリスヴァイン


 とある日曜のBBS本部。
 技術部のスペースの一角で、瞬は羽月からビーストコマンダーの扱いかたを教わって
いた。

羽月「それじゃあ瞬君、教えたとおりにやってみて」

「う、うん!」

 瞬は、教わった通りのボタンを押し、コマンダー先端のクリスタルをフェリスに向けた。

「ドライブ・オン!」

 クリスタルから赤い光がフェリスめがけて一直線に照射される。
 光に当たったフェリスの身体は赤い光の粒子となって、クリスタルに吸収された。
 瞬は光がすいこまれたのを見た後、おそるおそるコマンダーに目を落とす。

「……フェリス?」

 すると、その声に応えてコマンダーの小型ディスプレイに狼のエンブレムが現れた。

フェリス『ああ。成功だぞ、瞬』

「よかったぁ…」

 瞬は、成功して安堵の息を漏らす。
 そして瞬は、コマンダーの別のボタンを押した。

「ドライブ・アウト!」

 すると今度は、コマンダーから赤い光が飛び出し、その光がフェリスの姿となった。
 その様子を見て、パソコンのディスプレイに目を落とした羽月が満足げに頷いた。

羽月「ビーストコマンダーの全機能、異常無いみたいね」

「羽月さん」

羽月「ごくろうさま、瞬君、フェリスさん。テスト終了よ」

フェリス「ああ」

 そのフェリス達の隣で、光の粒子が集まってプラムが実体化する。

プラム「テスト、終わったんですか?」

羽月「ええ。全く問題なしよ」

プラム「私も『リンク』の方が完了しました」

「リンク?」

プラム「ええ。瞬君の家の『プラム』と一体化したんです。
    これで一緒に暮らせますよ」

 そう言って、プラムはにっこりと微笑んだ。

フェリス「俺も、普段はビーストコマンダーの中にいるから、一緒に居られるな」

「うん……」

 そういって、瞬は嬉しいような困ったような、複雑な顔をする。

フェリス「どうした? 瞬」

「フェリス、ビーストコマンダーの中って狭くない?」

フェリス「いや、別にそんな事は無いが……」

「でも、こんなに小さいのに……」

 そう言って、瞬は左腕のビーストコマンダーを見る。
 本来、ビーストコマンダー内でのフェリスはいわば「データ」なので、狭いも広いも
無いのだが、そんな事を知らない瞬は、どうすればフェリスを広いところに居させられるか
と言うことを考えていた。
 そして、何かを決意したように瞬はぐっと拳を握り締めた。

「よし! 決めた!」

フェリス「決めたって……」

プラム「何をですか?」

 瞬はフェリスとプラム、ついでに羽月の顔を見まわして高々と宣言した。

「フェリスを、犬として飼えるように由美ねーちゃんに頼んでみる!」

 そう言うなり瞬は、周囲の事もお構いなしに技術部の外へと駆け出していった。

フェリス「あ、おい、瞬!」

 フェリスも、その後を慌てて追いかける。
 残されたプラムと羽月は、二人が去った後を見つめるのみだった。

プラム「……行っちゃいましたね」

羽月「瞬君、一度決めたら聞かないところ、はか……じゃなかった、司令に似てるから……」

プラム「でも、瞬君らしいですね」

羽月「ええ、そうね」

 羽月はそう言って、にっこり微笑んだ。
 エンジェルスマイルとは、こう言うものを言うのだろう。
 しかし、次の瞬間、それが周囲の人間にとって悪魔の微笑みと化した。

羽月「それじゃあ、何か作ってくるわね」

スタッフ『!!?』

 その瞬間、技術部スタッフ全員の動きが凍りつく。
 羽月は、技術部スタッフが凍り付いているのを尻目に、厨房向けて歩き出した。

スタッフ『…………』

 羽月の姿が消えると、研究員の一人が振るえる手で通信機を握り、声の限りに叫んだ。

研究員「遠山警報発令――――――っっ!!」

 その一刻後、遠山 羽月の料理がBBSで火を吹いたと言う。

 

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