七星勇者フェリスヴァイン
そこは『黒き力』を司る邪悪なる者達の巣窟、『暗黒の使徒』の基地・『ゲシュペンスト』内部。
青白い肌にパンク風の服装と、印象的な外見を持つ冥闘士・ブリントが格納庫向けて歩いていた。
ブリント「黒騎士のヤローもクロイツも失敗した。調査だなんだって生ヌルいコト言って
っからそうなっちまうんだ」
ブリントは一人ごちながら、愛用のエレキギターの弦を一本はじく。特別製のエレキギ
ターは、アンプなしで甲高い音を通路に響かせる。
ブリント「まぁ、その点、俺様はそんなヘマしねぇケドなぁ――」
ブリントが格納庫のドアの前に立つと、ドアが自動的に左右へと開かれていった。
ただし、そこにあったのは多くの黒鍵機ではなく、戦闘機のような飛行機械と無数に並
べられた半透明の巨大なカプセル。
ブリントは、その中へと足を踏み入れていった。
ブリント「邪魔ならブッ殺しゃいいんだよ! ヒャーッハッハッハッハ!!」
ブリントはカプセル達の中で高笑いを上げる。
そんなブリントの姿を影から見つめている存在があった。
闇元帥「ええ、期待していますよ、ブリントさん……」
闇元帥の口に、笑みが刻まれた。
美空小学校6年2組。瞬や亜希がいるクラスである。
現在昼休みで、瞬は教室の端でビーストコマンダー内のフェリスと話していた。
瞬「びーすとがーだーず?」
フェリス『ああ。俺達『白き力の勇者』の仲間、陸、海、空の獣の化身である
自然の守護者達だ』
瞬「へぇ……その人達は、いまどうしてるの? フェリスみたいに、体をなくしちゃって
るの?」
フェリス『いや、皆、古の体をそのまま残し蘇っている。自然の加護が強かったためだろうな』
瞬はフェリスの言葉に頷いた。
と、その時、別の所で友達と話をしていた亜希が瞬に声をかけた。
亜希「しゅんー? どうしたのー?」
瞬「あ、へっ?!」
瞬は慌ててビーストコマンダーのスイッチに手をかけた。
瞬「フェリス、その話は、また後で」
フェリス『ああ、その方がいいな』
それを聞いて、瞬はコマンダーの通信スイッチを切る。
瞬「ど、どうしたのー?」
瞬は、出来るだけ平静を装って亜希に返答した。
亜希「どうしたの、じゃないわよ…」
亜希は、呆れた顔でため息をつくと、つかつかと瞬の方に歩み寄ってきた。
亜希「さっきからそのヘンな腕時計じーっと見てるんだもん。はっきり言ってヘンよ!」
瞬「な、なんでもないよ、なんでも」
瞬は慌てて手を振ってごまかそうとした。確かに、教室の端っこで自分の腕にずっと
視線を落としたままと言うのは、亜希の言う通り怪しい。
そして、瞬の「思っていることがすぐ顔に出る性格」が亜希の疑念をさらに膨らませて
いるのを、実の所、瞬は自覚していなかったりする。
亜希「ホントに?」
瞬「ほ、ホントだヨッ! うん、ホントッ!」
バレバレな弁明をする瞬を亜希はじーっと睨んでいたが、やがて諦めたように一つ
ため息をついた。
亜希「ま、いいわ。どーせあんたのコトだから、たいしたことじゃないんでしょ?」
瞬「う、うんっ、うんっ!」
瞬はこくこくと激しく首を振った。その様子を見て亜希は苦笑する。
亜希「もー、わかったわよ。それより、あっちに行かない?」
瞬「あっち?」
亜希の指差した方向は、先ほど亜希が話に加わっていた女子グループの方だった。ただ、
そのグループはある一つの机を中心に集められ、中にはちらほら男子の姿もある。
瞬「どうしたの?」
亜希「綾谷さんが連れてきたインコ知ってるでしょ? もー、すごいんだから!」
そう言うなり亜希は、瞬の腕を引っ張って半ば強引に瞬をグループのほうへと引っ張っ
ていった。
亜希「ちーちゃん、おまたせ!」
綾谷「あ、亜希ちゃん」
亜希の呼びかけに応えて、席に座っていた栗色のロングヘアーにヘアバンドをつけた
女の子が亜希のほうを振り向いた。
ちーちゃんこと綾谷 千影(あやたに ちかげ)は亜希がいつもつるんでいるグループの一人で
活発な亜希とは対照的におとなしげな子である。
綾谷はふわりと亜希に微笑みかける。
綾谷「星崎君のお世話はもういいの?」
亜希「な、なに言ってるの、ちーちゃん!」
綾谷の言葉に亜希がまともにうろたえる。
そんな亜希の様子を見て綾谷はくすりと微笑んだ。
綾谷「ふふっ、亜希ちゃんって、ほんとに星崎君のお姉さんみたいね」
亜希「ちーちゃん!」
瞬「あ、亜希、落ち着いて……」
瞬は亜希をなだめようとした。が、すぐに亜希にギッと睨みつけられる。つまり、「誰の
せいでこうなってるのよ!」ということである。
さすがにそれは分かった瞬は、乾いた笑いを浮かべる他無かった。
そして、ごまかすように綾谷に話題を振った。
瞬「あ、綾谷さん、それ、綾谷さんのインコ?」
綾谷「うん。名前はぴーちゃん。ぴーちゃん、星崎君にあいさつして?」
呼ばれたインコはまばたきをして、くりくりっと首を動かす。
ぴーちゃん『コニチワ、コンニチワ』
瞬「わっ」
その声を聞いて、瞬は目を丸くした。
瞬「しゃべれるの? そのインコ」
綾谷「うん、まだ、あいさつしかできないけどね」
亜希「賢いでしょ〜、ちーちゃんのインコ」
瞬は素直に頷いた。
四六時中、流暢に日本語をしゃべる犬と暮らしていても、こう言うことに対する素直な
感動はまだまだ残っているらしい。
亜希「ちーちゃん、ぴーちゃんの事、ホントに大事にしてるもんね」
綾谷「ぴーちゃんは私の大切なお友達だもの、あたりまえよ」
そう言って、亜希と綾谷は微笑み合う。
その後も、瞬達はインコのことで色々話をして盛りあがった。
そして、放課後のBBS本部。
瞬はここのところ、三日に一度は必ず帰りにBBSに立ち寄ってスタッフ達との交流を
深めている。というより、瞬としては「遊びに来ている」という感じの方が強い。
今日も今日とて、瞬はBBS司令室で端に設けられたソファに腰掛けながら陽司にその
日あったことを話したりしていた。
陽司「ほお、そんなインコがいたのか」
瞬「うん! ボク、しゃべるのってオウムと九官鳥だけだと思ってたからびっくりしたよ!」
瞬は目をきらきらと輝かせてインコの事を話していた。
陽司も楽しそうに瞬の話に耳を傾ける。会えない期間が長かった分、こう言った些細な
ことでもとても嬉しいのだろう。フェリスもそんな二人を見ながら時々合いの手を入れる。
そんな二人と一匹の下へ、輝美が飲み物をもってやってきた。
輝美「おまたせ、瞬君。お飲み物をどうぞ」
瞬「あ、ありがとう、輝美さん」
瞬は輝美からオレンジジュースの入ったコップを受け取った。陽司とフェリスも、ウー
ロン茶を受け取る。ちなみに、フェリスの分はちゃんとペット用の水入れに入れられてい
た。
フェリス「あ、いや、別に俺は飲み食いが出来ないんだが…」
輝美「まぁ、気分ですし」
こんな所でも、自分の『犬扱い』を感じてしまうフェリスである。
陽司「輝美君、何かお菓子はなかったのか?」
輝美「すみません、今、きらしちゃってるんですよ。
この前の一件で遠山主任が使ってしまったみたいで……」
輝美の言葉を聞いて、陽司は苦い顔をし、その一件を知らない瞬とフェリスは
顔を見合わせる。
瞬「この前の一件って?」
輝美は、視線をあさっての方向に向けながら重い声でぽつりとつぶやいた。
輝美「そのうち分かります、きっと……」
瞬「て、輝美さん?」
瞬に呼びかけられて、輝美は気を取り直した。
輝美「で、でも瞬君、フェリスさんがいるんだし、しゃべる動物なんて珍しくないんじゃない?」
瞬「ううん。フェリスは「勇者」だけどぴーちゃんはただのインコだもん。やっぱりすごいよ」
陽司「ふむ、勇者か……」
陽司はそう呟いて、何かを考え込むように顔を落とした。
瞬「お父さん?」
フェリス「陽司、どうかしたか?」
陽司「あ、いや、確かビーストガーダーズの中にも鳥の勇者がいたなと思ってな…」
瞬「鳥の勇者?」
陽司は、こくりと頷いた。
陽司「『黒き力が刻の楔を破り蘇る時、7つの欠片と分かれし白き力蘇らん』
と言う言葉は知っているか?」
瞬「うん。確か、『黒き力』がドルガイザーの事で、『白き力』がフェリスの事だよね。
フェリスがいた洞窟にあった言葉でしょ?」
陽司「ああ。だから、その言葉の通りならフェリスにはあと6人の仲間がいる事になる。
そう思い、フェリスの体を作る傍ら、残った勇者達の探索も行っていたんだ」
瞬「で、見つかったの?」
陽司「いや、5人までが見つかったんだが、最後の一人がどうしても見つからないんだ」
フェリス「俺も、見つかった5人がどんなやつだったかはっきりと覚えているんだが
その最後の一人の事だけ、どうしても思い出せない」
陽司とフェリスの表情が暗くなり、場の空気が重くなる。
それを感じた瞬は空気を変えようと別の話題を振った。
瞬「そ、それで、鳥の勇者ってどんな人なの?」
瞬に話題を振られて、フェリスと陽司の顔がふっと変わる。
フェリス「ああ、正確には『空の勇者』。名をエクシードという。空で右に出るものはいない
鷹の姿を持った勇者だ」
瞬「鷹の勇者? それで、エクシードは今、どこにいるの?」
フェリス「わからん」
瞬「へ?」
それを聞いて、瞬ががくっとバランスを崩す。フェリスの後を継ぐように陽司が
フォローをいれた。
陽司「いや、見つけるには見つけたんだがな、復活させるなり『まだ、目覚めの時ではない』
とか言って、どこかに飛んでいってしまったんだ」
輝美「私もその時いっしょに行きましたけど、ちょっと斜に構えた感じの方でしたよね」
二人の言葉を聞いて、フェリスはほうっとため息をついた。
フェリス「狼の俺が言うのも変だが、アイツは偏屈で一匹狼な所があるからな。素直に
仲間になるかどうかで一苦労だな」
瞬「そんなに、難しい人なの?」
フェリス「ああ、根はもちろんいい奴なんだが、素直じゃないと言うか、不器用でな」
フェリスはそう言い、彼方のほうへと顔を上げた。
まるで、その先に仲間の姿を探すように。
瞬たちがBBSでそんな事を話しているころ、亜希と綾谷はインコを連れ、綾谷の家の
ほうへと歩いていた。
二人は取りとめもない話をしながら歩いていたが、綾谷がふと何かに気づいたように亜希
に話しを振った。
綾谷「そういえば、亜希ちゃん」
亜希「ん?」
綾谷「最近は、星崎君と一緒に帰らないんだね」
亜希「へ? なんで、そんな事聞くの?」
亜希は、本当に理由がわからないといったかんじで首を傾げた。
そんな亜希に、綾谷はさも当然といった感じに言葉を返す。
綾谷「だって、星崎君と亜希ちゃんっていつも一緒じゃない。二人はつきあってるんだって、
結構噂だったんだよ?」
それを聞いて、亜希がまともにうろたえだした。亜希にとっては、まさに寝耳に水の話
である。
亜希「な、な、なによそれぇっ!!?」
綾谷「…もしかして、知らなかったの?」
亜希「あったりまえでしょッ! なんでそんな噂がたってンのよっ!
瞬とは、ただ、幼なじみなだけなんだから!!」
ムキになって否定する亜希の勢いに押され、綾谷はあっけに取られて立ち止まる。
実は、考えている事がすぐ顔に出る性格は亜希もいっしょだったりするのである。だから、
本人の自覚がないのもあって、周囲から似たもの同士と思われている事にも亜希は
気づいていない。
二人はそんな何気ない話をしていたが、急に綾谷の抱えていたケージの中でインコが騒
ぎ出した。
騒いでいた二人も、慌ててケージの中を見やる。
亜希「な、なに? どうしたの!?」
綾谷「どうしたの、ぴーちゃん!?」
そんな、ケージの中を見やっている二人の上に、さっと影が差した。
その影――戦闘機――で、キャノピーを開けた人影が機体の外に片足をつき、地上を見
る。
ブリント「つまらねェな……小鳥のさえずりなんざ、静か過ぎる……」
ブリントの声は亜希達にも届き、二人は同時に上を見た。
そして、ブリントの姿を見て、動揺に息を飲む。
ブリントは懐から、格納庫にあったカプセルを小型化したようなものを取り出した。
ブリント「もっと聴かせてやるぜェェェッッ! ハゲしいビートをよォォォッッ!!」
その叫びと共にカプセルが甲高い音と共に握りつぶされ、その中から真っ黒なアメーバ
のようなものが飛び出した。それはすばやく降下し、綾谷めがけて落ちてくる。
一瞬早く緊張が解けた亜希は、とっさに綾谷の体を突き飛ばした。
その勢いで、綾谷の手からケージが離され、それが宙を舞う。
落下したアメーバは、そのケージに取りつき、瞬く間にそれを自分の体で覆い尽くした。
それを見て、綾谷が悲鳴を上げる。
綾谷「ぴーちゃん!」
ブリント「さぁ、ショウタイムだぜェ! 出てきな、黒鍵獣(こっけんじゅう)ソルバッ
ト!!」
ブリントは叫ぶと同時に、エレキギターをかき鳴らす。
その音に応えるかのように、アメーバは急激に膨らみ、瞬く間にその姿を全長20m
ほどの怪鳥に変えた。
キェェェェェェェッ!!
綾谷「ぴーちゃんっ!」
亜希「だめっ! ちーちゃん!」
ソルバットの下に駆け寄ろうとする綾谷を、亜希は必死で押さえる。
綾谷「ぴーちゃんっ! ぴーちゃぁぁんっっ!!」
そんな綾谷の思いを歯牙にもかけず、ソルバットは天空へと飛び立った。
ブリントがその様子を見てほくそえむ。
ブリント「さぁ、ライブの幕開けだゼ!」