七星勇者フェリスヴァイン


 博美たちからの連絡を受けた時には既に、瞬達は地上に迫り来るログロックの姿に
気づいていた。
 しかし、弥生という第三者が居るせいで瞬はフェリスをウルフランダーに融合させる事
が出来ずにいた。
 弥生がログロックを見上げ、瞬があたふたしている時にフェリスが小声で瞬に話しかける。

フェリス(瞬、先に行っているぞ。ウルフランダーだけならば、俺一人でも呼べるからな)

(う、うん、わかった)

 瞬が頷いたのを見て、フェリスがすばやくその場を離れる。
 その時、残された二人の背後、参道沿いの草がかさりと小さな、本当に小さな音を立てた。


 地面についたログロックは、錐状になっている両腕を振り上げ、それを地面に叩きつけ
た。地面についた腕は回転を始め、まるでドリルのように山肌に食い込んでいく。その振
動で、周辺の木々が傾き始めた。

ヴァンダーツ「調査、開始」

 ヴァンダーツは両手で印のような物を組み、ログロックとデータをリンクさせ始める。
体の75%が機械化しているからこその芸当である。
 しかしその場に、彼方から飛来した鷹型ロボットが突撃してきた。

エクシード「イーグルガン!」

 鷹の両目から放たれたレーザーは巨岩の表面を打ち据え、不意をつかれたログロックは
バランスを崩して倒れた。
 リンクを寸断されたヴァンダーツは、エクシードのほうを見やる。

ヴァンダーツ「……何者」

エクシード「チェンジ!」

 その声と共に、エクシードが鷹型から人型へと変形した。

エクシード「狼藉はそこまでだ、『暗黒の使徒』!」

ヴァンダーツ「1体。作戦に支障なしと、判断」

 ヴァンダーツは、片手でまた違った形の印を結んだ。それに操られるように、ログロッ
クが起きあがってエクシードの方を向く。

ヴァンダーツ「……粉砕」

 ログロックの回転する腕がエクシードめがけて振り下ろされる。
 しかし、その腕が下りにかかろうとした瞬間に、今度は森のほうから飛んできた火球が
ログロックの体を吹き飛ばした。
 その火球が飛んできた方から、ロボット形態のフェリスが姿を現す。

フェリス「一人ではない!」

エクシード「遅いぞ。何をやっていた」

フェリス「済まない。一人になるのに手間取った」

 そしてフェリスは、ログロックと、その近くの木の枝に立っているヴァンダーツに目を
向けた。

フェリス「貴様、四星士の一人か!?」

ヴァンダーツ「然り。我、『暗黒の使徒』四星士の一人、邪霊士・ヴァンダーツ」

フェリス「邪霊士・ヴァンダーツ……!」

ヴァンダーツ「目的、優先順位変更。白き力の勇者、任務遂行の障害と判断」

 そう言って、ヴァンダーツは再び印を組む。すると、なんとログロックは四肢と胴体を
分割するように5体に分離した。

エクシード「ぶ、分離しただと?!」

フェリス「エクシード、瞬が来るまで、なんとか持ちこたえるんだ!」

 フェリスはマグナムナイフを、エクシードは両手にジェットクナイを構えて、5体のロ
グロック達に立ち向かっていった。

 

 フェリスとエクシードがログロックに苦戦しているところは、瞬の居るところからでも
よく見えていた。
 その様子を見ていた瞬は、居ても立っても居られずそこから走り出そうとする。

弥生「あら〜、瞬君、どちらへ〜?」

「や、弥生さん……」

 瞬はどうにか言い訳をしてその場を離れようとしたが、その前に弥生から思いもかけ
ない言葉が飛び出した。

弥生「ロボットさん達を助けに行くならぁ、守り神様を起こしていってくれませんかぁ?」

「へ?」

 瞬は、弥生が何を言ったのかわからずその場に硬直する。
 そんな瞬の心を見透かしたかのように、弥生はぽわっとした笑顔で言葉を続けた。

弥生「隠さなくってもいいですよぉ。私にはわかってますからぁ」

「わ、わかって……?」

弥生「実はぁ、守り神様もロボットなんですよぉ。きっと、あのロボットさん達のお仲間
   だと思うんですけどぉ」

「な、なんで、そんな事がわかるんですか?」

弥生「瞬君はぁ、霊能力って信じますかぁ?」

「霊、能力?」

 弥生は、満足そうにこくりと頷く。

弥生「私、そう言う力があるんですぅ。それで、ロボットさん達と瞬君から守り神様と
   同じ力を感じましたので、そうかなぁって」

「あの、なんでロボットのことを知ってるんですか?」

弥生「それはですねぇ、以前、この方に助けていただいた事があるんですよぉ。
    でもぉ、その時にひどいケガを負われてしまわれてぇ、それで、傷が治るまで私が
   護り役をすることにしたんですぅ。
   あ、でもぉ、それは私の勝手なんですけどねぇ」

 そう言ってたおやかに笑う弥生を見て、瞬の心から緊張感とでも言う物がいつのまにか
取り去られていた。瞬は本能的に、弥生が信頼できる人であると感じ取っていたのである。
 そう思えた瞬間から、瞬にとって弥生は赤の他人ではなく、同じ環境にいる「友達」となったのだ。
 そしてもう一つ、目の前で眠る「勇者」もそうなる事を。

「弥生さん、このロボットは、なんて言う名前なんですか?」

弥生「名前、ですかぁ? グランリッドさんですぅ」

「グラン……リッド……」

 瞬は、噛み締めるようにその名を繰り返した。
 そして、まっすぐに熊の巨岩に向き合う。

「起きて、グランリッド! フェリスとエクシードが、君の仲間が大変なんだ!!
  君も「勇者」なんでしょ?! 起きて、フェリス達を助けて!」

 瞬は、大声で眼前の石像に語りかける。しかし、石像からは何一つ動きは無い。
 それでも瞬は諦めず、精一杯の気持ちをこめてその名を叫んだ。

「グランリッド―――――――――!!!」

 瞬の叫びが山々に響き渡る。
 その声に応える様に、巨岩が細かく動き始めた。その振動はどんどん激しくなり、岩肌
の至るところに大きな亀裂が入る。

 そして、それを覆っていた岩の膜は弾け飛び、中からグレーのボディを持つ熊型のロボ
ットが飛び出した。

 さらに、熊型のロボットは人型への変形を開始する。

熊型のロボット「チェンジ!!」

 後足がそのまま降りて足になり、つま先が反転して人のつま先になる。下腕がおり、爪
が手と入れ替わる。熊の頭が中心から左右に分かれ、180度回転しながら肩アーマーと
なり、熊の頭が分かれた後からロボットの頭部がせりあがった。

熊型のロボット「復活! グランリッド!!」

瞬・弥生『グランリッド!』

 岩の中から飛び出したグランリッドは、弥生の姿を見つけて優しく微笑んだ。

グランリッド「お久しぶりです、弥生さん」

弥生「グランリッドさんもぉ、お元気そうでなによりですわぁ」

グランリッド「それで……」

 そう言って、グランリッドは瞬に顔を向ける。

グランリッド「あなたですね。僕に呼びかけてくれたのは」

「う、うん。ボクは星崎瞬、フェリスのビーストマスターだよ」

グランリッド「あなたがフェリスの! なるほど、清らかな「白き力」を感じます。
       ところで、あの方はどなたですか?」

 グランリッドは瞬の、そのさらに後ろを指してそう言う。

 その指先を追って振りかえった瞬の表情が、またたく間に驚きのものに変わった。

亜希「……しゅ……ん」

「亜希、なんで……?!」

亜希「……な……」

 瞬以上に呆然としてその場に立ちすくんでいた亜希だったが、瞬の声でようやく我に帰
ったようにハッとなった。

亜希「なによこれ? どうなってるの? なんで瞬がこんな所にいるの!?
   このロボットは何?! なんで仲良くお話なんかしてるの?!
   ビーストマスターって何なの!! フェリスってあのワンちゃんの名前でしょ!」

「亜希、いつから…」

亜希「質問に答えて! 瞬! あんた、あたしに何隠してるのよっ!」

 瞬は秘密を知られたショックと亜希の剣幕ですっかりたじたじになり、弥生も困ったよ
うな笑みを浮かべながらおろおろしている。
 そんな状況の中で、ただ一人、グランリッドだけが冷静に瞬に話しかけた。

グランリッド「瞬君。とにかく今は、フェリスとエクシードを助ける事が先決です!」

「グランリッド……!」

亜希「ちょっ、まちなさ……!」

「亜希っ!」

 瞬が、普段なら決して出さないような厳しい表情で亜希の肩をつかむ。熱くなって瞬に
詰め寄っていた亜希も、そのただならぬ雰囲気に圧されて口をつぐんだ。

「亜希、隠し事してたのはゴメン! でも、今はボクの友達の所に行かなくちゃならないんだ!
  今までの事、後で全部亜希に話すから! だから、今は行かせて!」

亜希「しゅ、ん……」

 今までみた事がない幼なじみの姿に、亜希は沈黙せざるをえなくなる。
 亜希の様子を納得してくれたと見た瞬は、グランリッドの下に駆け寄った。

「お願い、グランリッド! フェリス達のところに連れていって!」

グランリッド「了解しました、瞬君!」

 グランリッドはその手に瞬を乗せると、フェリス達が戦っている方向へと走り出した。
 ただ、呆然とそれを見送る亜希のところに、優しい表情を浮かべた弥生が歩み寄ってくる。

弥生「心配なさらないで。あの方達なら大丈夫ですぅ。
   そして、必ず約束を守ってくださいますわぁ」

亜希「う、ん……」

 亜希は、グランリッドの姿を見つめながら、ぎこちなく頷いた。


エクシード「タツマキウェブ!」

フェリス「ファイヤーシュート!」

 竜巻の網が捕えたログロックの一体を火球が打ち砕いた。一瞬、二人に安堵の表情が浮
かぶ。しかし、すぐに再生を開始したそれを見て、二人の希望は空しく打ち破られた。

フェリス「クッ! キリがない……!」

エクシード「砕いても砕いても、その度に再生するのでは……!」

 ログロックが再生する様子を憎々しげに見つめる二人の背後に、いつの間にか他のログ
ロック2体が回りこんでいた。
 その気配に、エクシードが気づいて振り向く。
 エクシードが振り向ききると同時に、ログロックのカメラアイのようなところからビームが
放たれた。

 エクシードがとっさに、ビームに向けてイーグルガンを放つ。お互いのビームが互いに
打ち消しあって、まぶしいばかりの光が放たれる。

 その光でフェリス達を一瞬見失ったログロック達のカメラアイに、銃弾とクナイがそれ
ぞれ突き刺さった。そのダメージでログロック2体は爆発する。
 だが、粉々になったかに見えたそれも、もとあった場所に集結を開始し、復元されつつ
あった。

ヴァンダーツ「ログロック、無限の再生力。破壊、不可能」

エクシード(無限の再生だと? そんなもの、ありはしない!)

フェリス(必ず、何か鍵となるものがあるはず。それは、なんだ!?)

 ログロックの秘密を思案するフェリスとエクシード。そのため、敵に対する注意が一瞬
逸れたことは否定できなかった。
 フェリスは、急に自分にかかった影に気づいて上を見上げる。
 そこには、2体のログロックが合体した巨大な岩石が今まさに二人を押しつぶさんとし
ていた。

フェリス「しまった!」

エクシード「!」

 フェリス達に行動を起こす暇も与えずに落下するログロック。これに意思があるとする
ならば、勝利を確信していたに違いない。
 しかし、それは横から飛びこんできた声にさえぎられた。

?「グランロォォォッド!」


 飛びこんできたロボットは、両手で握り締めた棍で落下する巨岩を思いっきり突き上げ
た。結果、ログロックは予定からはかなり外れた場所まで突き飛ばされ、山肌に派手にめ
りこむ。
 一方、見事に着地したロボットは、残ったログロック達の方を振りかえった。

グランリッド「僕は『ビーストガーダーズ』の一人、『大地の勇者』グランリッド!
       これ以上仲間を傷つけることは、僕が許しません!」

 その姿に、フェリスの表情が歓喜に彩られる。

フェリス「グランリッド!」

グランリッド「お久しぶりです、フェリス、エクシード!」

エクシード「ふん……今まで、どこで何をしていた」

グランリッド「あ、お恥ずかしながら、戦いで深手を負ってしまい、いままで休眠して
      いたんです」

 グランリッドは、言葉通り恥ずかしそうに頭を掻く。それも一瞬で、グランリッドはグ
ランロッドを構え、ログロックに向き直った。

グランリッド「積もる話は後にしましょう。今は、奴を倒すことが先決です!」

フェリス「しかし、奴は……」

グランリッド「大丈夫ですよ。フェリスヴァインの力ならば」

 その言葉に、フェリスは驚く。そして、予想していた声が遠くの方から聞こえてきた。

「フェリスーッ!」

フェリス「瞬!」

「行くよ、フェリス。合体だ!」

 瞬はそう言って、ビーストコマンダーのボタンを押した。

「コマンド・ラン!」

フェリス「オオオッ! バーストローダー!!」

 フェリスはロボットとなったバーストローダーに飛びこみ、瞬も赤い光に包まれる。

瞬「ドライブ・オン!」

 ロボットにフェイスマスクがつけられ、瞳に緑の輝きが灯った。

 

フェリスヴァイン「爆炎合体! フェリィィィィスヴァイィィィン!!」

 

 合体したフェリスヴァインが大地に降り立った。

ヴァンダーツ「無意味。ログロックを破壊、手段、無し」

FV「…確かに、奴の再生のカラクリを見破らないことには……」

グランリッド「カラクリならば、先刻承知です!」

 そう言うなり、グランリッドはログロックの群れの中に飛び込んでいった。レーザーや
細かい礫が体を撃つが、それでも怯まずに突き進んでいく。迷わず、一体のログロック目
指して突き進んでいた。

グランリッド「うおぉぉぉぉっ!」

 振り下ろされたグランロッドがログロックを激しく打ち据える。そのログロックが地面
に叩きつけられたと同時に、何故か他4体のログロック達も動きを止め、地面に落下した。

「ど、どうなってるの?」

フェリス「……なるほど、そういうことだったのか!」

「へ? ボクは解らないんだけど……」

 悩む瞬に、フェリスに代わってグランリッドが説明した。

グランリッド「つまり、今、僕が殴った奴が本体だったのです。他のは本体に遠隔操作さ
      れているだけなので、本体さえ無事ならばいくらでも再生可能と言うわけです。
       僕は大地の力を持つ勇者。大地の気の流れを読むのはお手のものです!」

 グランリッドの説明を証明するかのように、ログロック本体が浮かび上がり、周囲の土
も巻き込みながら分身と合体、更に巨大な巨岩の化身となる。
 そしてログロックは、間髪入れずにグランリッドめがけて拳を振り下ろした。

「グランリッド!」

 ログロックの拳がグランリッドの頭に振り下ろされる。しかし、グランリッドを押しつ
ぶしたかに見えたそれは、その寸前で片膝立ちになったグランリッドの両手に押さえられ
ていた。

グランリッド「おおおおおおっ!!」

 グランリッドは拳を押し返したばかりか、その巨体を力任せに上空に放り投げた。

グランリッド「でやぁっ!」

 ログロックの巨体が宙を舞う。
 その隙を見逃さず、エクシードがログロックめがけてとびだした。

エクシード「行くぞ、フェリスヴァイン!」

FV「応ッ!」

 エクシードはいつかの様にログロックの上に飛んだ。

エクシード「タツマキウェブ!」

 竜巻の網がログロックの全体を捉え、大地へ押し返し始める。
 フェリスヴァインは両肩のアーマーからヴァインブレードを取りだし、水月をジョイン
トさせた。

FV「双刃剣(ソウジンケン)、ヴァインブレード!」

 フェリスヴァインはヴァインブレードを腰だめに構え、両肩のアーマーが水平にスライ
ド、アーマーの一部が展開して噴射ノズルが顔を見せる。
 ヴァインブレードの刀身が炎に包まれ、肩アーマーのバーニアと足のホバーが同時に点
火、地面に落ちてくるログロックめがけて一気に加速した。

FV「炎狼刀技、フレイムファング!!」

 振り上げられた剣から炎の刃が放たれ、炎を纏って加速するフェリスヴァインの剣と同
時にログロックの巨体に炎の十字を刻みこむ。
 炎を纏ったフェリスヴァインは、ログロックの向こう側へと駆け抜けた。
 炎の刃はログロックの本体を焼き尽くし、ログロックは纏っていた岩石ごと爆発四散した。

 ドッゴォォォォン!

エクシード「再生、しない」

「やったぁ!」

 ログロックが破壊されたヴァンダーツは、少しの間それを見やる。

ヴァンダーツ「……バニシングポイントにあらず。撤退」

 そう呟くと、やがて姿を空間に解けこませ、その姿を消した。

 フェリスヴァインは剣を分離させ、血を払うように剣を振った。

FV「我が焔(ほむら)に、断てぬ悪なし!」

 胸の狼が、日の光を浴びて輝いた。

 

 

 

 無事、課外授業を終え、瞬が家に帰りついた星崎家の夕食。
 食卓の上でおいしそうに煮えたおでんをよそに、困った顔の瞬とむすっとした顔の亜希
が向きあっていた。

 あの後、逃げきれずに亜希に捕まった瞬は、いつぞやのようにこれまでの経緯を洗いざ
らい白状させられた。その様子を見ていたフェリス曰く、「あれは、正に『職人』の尋問だった」。

 そして、星崎家の夜の食卓に何故か亜希が乱入し、この状態と言うわけである。
 ちなみに、由美は我関せずと一足先におでんをつついている。
 瞬は、これまで秘密だったことが身近な人にあらかたバレてしまったショックと、一番
近しい存在であるはずの亜希に隠し事をしていたと言う罪悪感で黙ったままだった。
 しかし、黙ったままと言うのも問題なので、瞬が何かを言おうとした。でも、それより
も先に亜希の言葉が発せられていた。

亜希「なんで、黙ってたのよ……」

「……ゴメン、亜希」

 そしてまた少し、沈黙が続く。

亜希「…………ふぅ」

 亜希はふっとため息をつくと、本当にしょうがないといったかんじで瞬を見た。その口
元には、かすかに笑みさえ浮かんでいる。

亜希「なんてね。あんたの考えてることなんて、大体解るわよ。
   どうせ、あたしに迷惑かけたくなかったとか、そんなとこなんでしょ?」

「う、うん」

亜希「だいたい、あそこまで露骨に行動変わってるのに、気づかないとでも思ったの?」

「うっ」

亜希「昔っから隠し事できない質だったもんねぇ、あんた」

「うぅっ」

 亜希の一言一言に瞬は縮こまっていく。

亜希「瞬は、あたしにだけは隠し事しない……その…親友、みたいなのって、思ってたん
  だけどなっ」

 その一言だけは、瞬から視線を逸らして言った。よく見ると、その頬がかすかに朱に染
まっている。

「ほんとにゴメン。でも、ボクは亜希を巻きこみたくなかったんだ。知ってしまったら
 きっと亜希にも迷惑が…」

亜希「ストップ!」

「?」

亜希「あたしは、そんなのちっとも迷惑だって思わない。
   それよりも、瞬にそんな大事なこと隠し事されるほうがよっぽど悲しいよ!」

「亜希…」

 亜希は、ふっと瞬に微笑みかけた。本当に、ふわっとした柔らかい笑みだった。

亜希「だから、これからはヘンに隠し事しないこと。OK?」

「う、うんっ!」

 瞬は、亜希の仕草に少しどぎまぎしながら頷いた。一方の亜希は、そんな様子など目も
くれず、早速おでんナベのほうを向いている。

亜希「うわぁ、おいしそう! 由美さん、これ、瞬が?」

由美「いんや。昨日、瞬と知り合いの家に行って、その時土産にもらったモンさね。
   料理上手の男の子が居るんだよ」

 昨夜の余りだけどね、と由美は付け加える。

亜希「へぇ〜。……やだ、ホントにおいしい!」

由美「そうだろそうだろ。じゃ、あたしも一つ……」

「あ、由美ねーちゃん、亜希! 二人ともずるいよっ!」

亜希「へへ〜ん、隠し事してたバツよ〜」

「ボクも食べたいのに! って、ああっ! その卵、狙ってたのに〜!」

 こんな風に、いつもよりもちょっぴり賑やかな夕食が、いつもよりも楽しく過ぎていっ
た。あったかい気持ちで、その日のおでんは本当の味以上においしく感じられた瞬だった。

 

 

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