七星勇者フェリスヴァイン


 そろそろ夏の足音が聞こえ始めた5月の休日、青いショートカットの少女が星崎家を目
指して走っていた。といっても、少女の家から星崎家までは歩いてもものの5分程度で着
いてしまうので、来ようと思えばいつでも来られるのだが。
 少女は星崎家の玄関に着くと、少し乱れた息を整えてチャイムを鳴らした。
 少しして、若い女性の声が返ってくる。

プラム『はい?』

亜希「プラム? あたし、亜希よ!」

プラム『ああ、亜希ちゃん。どうぞ、今、鍵を開けますね』

 プラムの声が聞こえてから、少しして鍵が開く音がして、そして、ひとりでにドアが開
いた。全て、星崎家のサポートプログラムにしてフェリスヴァインのサポートシステム・
プラムの力である。
 亜希がたいした遠慮もせずに中に入ると、そこではいつも通り柔和な笑みをたたえたプ
ラムの姿があった。そのRPGにでも出てきそうないでたちが、一般家庭に合っていない
事も同様である。

プラム「いらっしゃい、亜希ちゃん。瞬君にご用ですか?」

亜希「うん、ちょっと退屈だったから。で、瞬いる?」

プラム「ごめんなさい。瞬君、BBSの依頼でフェリスと出かけているんですよ」

 プラムは、申し訳なさそうに亜希に答えた。

亜希「えぇ〜? あいつ、また自分達だけでいっちゃったわけ?!」

プラム「ええ……なにしろ、急なお話でしたので…」

亜希「まあ、それじゃあ仕方ないわよねぇ」

 不満丸だしな亜希だったが、プラムの話を聞いて不承不承ながらも納得して見せた。
 そんな亜希を見て、プラムが亜希を家の中へと促す。

プラム「亜希ちゃん、お暇でしたら、一服していきませんか?
    由美さんもお仕事で、私も時間を持て余していましたから」

亜希「え? うーんと……」

 亜希は少し考えて、一つ頷いた。

亜希「じゃ、お言葉に甘えちゃおっかな?」

プラム「ええ。さ、どうぞあがってください」

 プラムに促されるままに靴を脱いで家に上がる亜希。亜希は、プラムの後についてリビ
ングに向かう。

亜希「でも……プラムが家事やってるのって、まだ違和感あるのよねぇ」

プラム「そう、ですか?」

亜希「うん。だって、元々プラムってただの立体映像じゃない」

プラム「近いものですけどね、ちょっと違うんですよ」

 プラムは亜希をソファに案内すると、自分は台所に入っていった。
 その後姿を見送った後、亜希は窓越しの空を見てほうっとため息をついた。

亜希「ったく、なにやってるんだか。
   ……バカ」

 

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