七星勇者フェリスヴァイン


 闇の中に沈んでいた瞬の意識が、ゆっくりと現実世界に引き戻されていく。

「う……うん……」

 瞬の瞳が薄く、ゆっくりと開かれていく。
 意識を取り戻した瞬が最初に見たものは、岩壁のような洞窟の天井だった。

「……ここは?」

 瞬が、ゆっくりと上体を起こす。
 すると、瞬の後ろから聞き覚えのない声がかけられた。

青年「気がついたようだな」

「え?」

 声に気付いて、後ろを振りかえる瞬。
 そこにいたのは、先ほど岬に立ち、瞬達のフェリーが来る海を見つめていたあの青年だった。

「えっと、あなたは…?」

青年「通りすがりの者だ。お前が潮に流されていたので、ここまで連れてきた」

「え? あ……」

 言われて、瞬はようやく自分がどういう状況にあったのかを把握した。

「あ、ありがとうござい……」

 そうやって瞬が礼を述べようとした時、青年は瞬の後ろ側をすっと指差した。瞬も、つ
られてその指先のほうを見る。

青年「あちらに行けば、出口に出る」

 その先をじっと見た後、瞬は改めて礼を言おうと青年のほうを振りかえった。しかし、
振り返った時には、すでに青年の姿はなかった。
 あまりにも不可思議な体験に、瞬は狐につままれたような気分になる。

 そして、青年の姿が消えたのと入れ替わりに、瞬の左手首につけられたビーストコマン
ダーが光を放ち始めた。
 そこからフェリスがドライブアウトするときのような光が流れ、プラムがその姿を実体
化する。

プラム「瞬君! ご無事ですかっ!?」

「プラム?」

プラム「コマンダーを通じて瞬君が危険な状態にあるのを察知してきたんですけど……
    本当に、無事でよかった……」

 プラムは、心底ホッとした顔で瞬を見つめる。

「うん、ボクなら大丈夫だよ。心配かけてゴメンね、プラム」

プラム「いいえ。瞬君が無事であるなら、それで十分です。
    あの、ところで……」

 そう言って、プラムは辺りをきょろきょろと見まわした。

プラム「瞬君、今まで、近くにどなたかいらっしゃいませんでしたか?」

「うん。ボクを助けてくれたっていう、黒い服を着たお兄さんがいたけど……」

プラム「……そうですか」

「その人が、どうかしたの?」

プラム「あ、いえ……すこし、気になったものですから」

 プラムはそう言いながらも、思考は瞬が言う『黒服の青年』に向けられていた。

プラム(『白』でも『黒』でもない、未知の力……その、青年が?)

 瞬は当然の事ながらプラムが考えていることなどわからず、再び考え込んでしまったプ
ラムをもう一度呼ぶ羽目になった。

「プラムッ」

プラム「は、はい?」

「ホントに、どうしたの?」

プラム「あ、なんでもないんです、なんでも」

 瞬はそれで一応納得し、先ほど青年が指差した方向を同じように指差した。

「なんか、あっちの方が出口なんだって。行ってみようよ」

プラム「ええ、そうですね」

 そうして、瞬とプラムは出口らしき方向へと歩き始めた。
 BBS入り口の洞窟とは違い、半ば自然に出来あがったもののようで、床は比較的平ら
なものの、歩きづらいことに変わりはなかった。それでも、倒れそうになるたびにプラム
に支えてもらいながら歩くうち、先に明るく開けたところが見えてきた。
 瞬とプラムがたどりついたそこは、入り江のようになっている場所だった。

プラム「出るには出られましたね」

「そうだね。早く、フェリスと博美さんのところに戻らなきゃ」

 瞬とプラムが、そんなことを話した時だった。

『……誰だ?』

 水面のそこから伝わるような声が、瞬達のいる入り江に響いた。
 瞬は驚いて身構え、プラムが一歩前に出て瞬を守る体勢を取る。
 やがて、瞬達の見ている前で水面に波紋が立ち始め、それは徐々に徐々に大きく激しく
なっていく。
 そして、水しぶきを上げながら、「それ」は瞬達の前に姿をあらわした。

「えっ?!」

プラム「あ、あなたは……!」

 それを見た瞬とプラムの表情は、同じように驚愕に彩られた。

 


 瞬達が謎の存在に出会った頃、砂浜の沿岸でフェリスと鮫型ロボットの戦いが繰り広げ
られていた。
 そこにはフェリスから連絡を受けたエクシードとグランリッドもやってきていたが、や
はりそこは海での戦い、フェリス達は数の上でこそ優位であったが、個体の能力と地の利
は完全に鮫型ロボットのほうに分があった。実際、飛べないフェリスとグランリッドは、
体の半分くらいは海に浸かってしまっている。
 更にフェリスは、敵が海中にいるために炎の技が使えないと言う難点まであった。

フェリス「ウルフマグナム!」

エクシード「イーグルガン!」

 銃弾とビームが、それぞれ海中の鮫型ロボットに突き刺さる。しかし、鮫型ロボットは
意にも介さずにフェリスの方に向かって突き進む。

グランリッド「だったら、これならどうだっ!」

 そう言ってグランリッドは、胸の宝珠のような部分に両手をかざす。そこに急速に光が
集まり、グランリッドは両手を解き放った。

グランリッド「グランショット!」

 海中で炸裂した光弾は確かに鮫型ロボットを弾き飛ばしはしたが、やはりさしたるダメ
ージは負ってはいなかった。

エクシード「グランリッド、本気で撃て!」

グランリッド「しかし!」

フェリス「ああ。奴がウェルシャークである可能性がある限り、うかつには動けん!」

 そう、それこそが、フェリス達が不利な戦いを強いられている最大の要因だった。
 確かに水中は苦手分野ではあるが、三人が力を合わせて戦うのなら決して勝てない相手
ではない。しかし、その可能性が頭のどこかにあるために、三人とも思うように全力を出
せないのだ。
 三人がそんな議論を交わしている間に、鮫型ロボットはグランリッドめがけて飛びかか
っていた。
 グランリッドは体をひねってかわそうとするが、刃になっているひれがかわしきれてい
なかったグランリッドの装甲を傷つける。

グランリッド「ぐあぁっ!」

 グランリッドを傷つけた鮫型ロボットは、体を急反転させ、今度はフェリスに襲いかか
った。

フェリス「クッ! ファイヤーシュート!」

 鮫型ロボットがフェリスに激突する寸前、ファイヤーシュートが至近距離で炸裂し、フ
ェリスと鮫型ロボットはどちらも同じように弾き飛ばされた。

フェリス「ぐぅっ」

エクシード「フェリス、グランリッド!」

 二人はなんとか海面に顔を出し、エクシードに応える。

グランリッド「だ、大丈夫です!」

フェリス「だが、奴はウェルシャークなのか? そうじゃないのか?
     どっちなんだ!」

エクシード「白き力は感じられん。だが、黒き力も……」

 エクシードがそう一人ごちた時、一瞬意識の逸れたエクシードめがけて鮫型ロボットが
飛び上がってきていた。

エクシード「しまった!」

 逃げ遅れたエクシードの左足に鮫型ロボットが噛みつこうとしたその時。横から割りこ
んできた影が、鮫型ロボットを弾き飛ばした。


 三人は、あっけに取られてその姿を見る。

「おいおい、こんなヤローと俺様を見間違えるなんて、てめぇらの目は節穴か?」

 三人が見つめるその先には、先ほどまで戦っていた鮫型ロボットと同じような鮫型ロボ
ットが宙に浮いていた。ただ、そのカラーリングはまさに海を象徴するかのような青。
 青い鮫型ロボットは、黒い鮫型ロボットのほうを向き直った。

「おい、そこのブサイク鮫! 目ン玉ひんむいてよおっくみてやがれ!
  チェインジ!

 青い鮫型ロボットは、掛け声と共に変形を開始。背鰭が外れ、体の中ほどが前方に倒れ
て下半身を形成。足に回らなかった上半分が肩アーマーになり、その中から腕が展開する。
そして、鮫の頭の部分から、ロボットの頭が飛び出した。
 せびれが錨のように展開し、ロボットはそれを握り締める。

ウェルシャーク「海で仇なす悪人倒せと、七つの海が俺様を呼ぶ!
        ビーストガーダーズの一人、『海の勇者』ウェルシャークたぁ
       俺様のことだ!!」

 見得を切ったウェルシャークは、フェリス達の方を振りかえった。

ウェルシャーク「よぉ! 久しぶりじゃねぇか!」

フェリス「ウェルシャーク、無事だったんだな」

グランリッド「よかった! これで、ビーストガーダーズ集合ですね!」

エクシード「我らの中では、貴様が最後だぞ」

ウェルシャーク「わりいわりぃ、色々あってよ」

 ウェルシャークはそう言うと、フェリスの方を向き直る。

フェリス「あ、そうそうフェリスよ。アンタのパートナーっての、連れてきたぜ」

 フェリスが言葉を返そうとすると同時に、フェリスに通信が入った。無論、それはフェ
リスのパートナーからのものである。

『フェリスッ、聞こえる?!』

フェリス「瞬、無事だったのか!」

『心配かけてゴメン! それよりも、フェリス、合体だよ!』

 

瞬「コマンド・ラン!」

フェリス「オオオッ! バーストローダー!!」

 バーストローダーが呼び出され、フェリスと合体、瞬も赤い光に包まれてフェリスヴァ
インのひたいにドライブ・オンする。

 

フェリスヴァイン「爆炎合体! フェリィィィスヴァイィィィン!!」

 

 合体を完了させたフェリスヴァインは、瞬がいた砂浜に降り立った。

クロイツ『やれやれ、バレてしまったか。もう少し遊べるかと思っていたんだがな』

FV「その声は、クロイツ!」

クロイツ『憶えていてもらって光栄だな、フェリスヴァイン』

ウェルシャーク「俺様の偽者使うたぁ、どう言う了見だ!」

クロイツ『探し物と、お前等に混乱を起こすこと、一石二鳥って奴さ。
     ま、ここまで表だって事を起こす気はなかったんだけどな』

 クロイツは別空間でホログラフを開きながら、そこに書き出されたデータを読み取った。
そして、ひとつため息をつく。

クロイツ「少々粗い手だが、これも仕事だしな。
     ……シャドーシャーク、リミッター解除。バニシングセンサー最大出力」

 クロイツからの命令が、空間を越えてシャドーシャークに送られる。
 指令を受けたシャドーシャークの外殻が弾け飛び、中からシュモクザメ型の黒いロボッ
トが姿をあらわした。黒き力を感じなかったのは、外殻で黒き力を押さえていたためだっ
たのである。
 シャドーシャークは海上で直立になり、高速回転を始めた。その激しい回転で海の水が
巻き上げられ、天までそびえる水竜巻がそこに生まれる。

FV「なんだ、これは!」

プラム『凄まじい黒き力が集中しています! このままでは、暴走の恐れが!』

『は、はやくなんとかしないと!』

ウェルシャーク「瞬! ここは俺様達、ビーストガーダーズに任せな!」

エクシード「なるほど、あれをやるのか」

グランリッド「では、いきましょう!」

ウェルシャーク「おうよ! いくぜ、ビーストフォーメーション!」

 ウェルシャークの掛け声と共に、ビーストガーダーズはそれぞれ竜巻を取り囲むように
飛び出していった。
 そして、エクシードは空中、グランリッドは浮島、ウェルシャークは海上に、それぞれ
が正三角形を描く位置に立ち、竜巻を取り囲む。

エクシード「空よ!」

ウェルシャーク「海よ!」

グランリッド「大地よ!」

ビーストガーダーズ『今、我らに力を!!』

 

ビーストガーダーズ『ネイチャー・トライ・アタァァァック!!』

 

 ビーストガーダーズのそれぞれから中心に向けて各属性の力が放たれ、それが互いに相
乗効果を生み、高密度のエネルギーの嵐が吹き荒れる。
 その威力は、シャドーシャークを包んでいた水竜巻を完全に消し去った。

グランリッド「フェリスヴァイン!」

エクシード「今だ!」

ウェルシャーク「デカイの一発、ぶちかませぇぇぇっ!」

FV「応ッ!」

 フェリスヴァインは腰を落とし、胸の狼の口にフレイムシューターを遥かに越える炎が
生まれる。

「フレイムファングじゃ、ない?」

プラム「ええ。フレイムファングの対を成す、もう一つの秘技。
    その名は……!」

 

FV「炎狼砲技、フェンリルバースト!!」

 

 狼の口から、凄まじい勢いで炎の一撃が放たれた。そのあまりの反動に、フェリスヴァ
インの体が後ろに下がり、足が砂にめり込む。
 放たれた炎狼の咆哮は海面すらも抉り取りながらシャドーシャークに突き進み、そのあ
ぎとが陰の鮫を完膚なきまでに焼き尽くす。
 シャドーシャークは、炎の中の爆発にその身を散らせた。

 別の場所でそれを見ていたクロイツも、そのあまりの威力に思わず喉を鳴らした。

クロイツ「こんな力を持っていたとはな……
     シュバルツ、お前のライバルはとんでもないヤツだな」

 クロイツはホログラムの画面を閉じ、大きくため息をついた。

クロイツ「これだけ時間かけてバニシングポイントは見つからないし、授業料って言うに
    しても、わりにあわないぜ」

 そして、クロイツはその場から消えた。

 

FV「我が焔に、断てぬ悪なし!」

 胸の狼が、誇らしげに輝いた。


 

 そして、その姿をかなたから見る影が一つ。

青年「ここにはなかったか、『大いなる無色の力』……」

 それは、瞬を助けた黒服の青年。

青年「フェリス、ヴァイン……」

 誰にも聞き取れないようなこえで、青年は、そう呟いた。


 

 帰りの車の中、瞬達は通信でビーストガーダーズを交え会話に花を咲かせていた。ちな
みに、フェリスは狼の姿に戻り、プラムは家に戻っている。

博美「はぁ〜あ、あたし、なんのために出てきたんだろ……」

「博美さん、元気出して」

博美「ありがとねぇ、瞬君。あなたの存在がお姉さんの心の支えよ……」

「あ、あはは……」

 そう、今回、ほとんど活躍の場がなかったと、博美は少しブルーが入っているのだ。
 とりあえず、博美にはハンドルを任せることにして、瞬はフェリス達との話に戻る。

「でも、びっくりしちゃったよ。あの入り江にウェルシャークがいた時は」

ウェルシャーク「俺様だって驚いたさ。あの入り江、俺様を閉じ込めるための結界が張ら
         れてたんだぜ?」

グランリッド「結界、ですか?」

ウェルシャーク「ああ。実は、目覚めてちょっと経った頃にヘマしちまってよ、ドルガイザーの
         クソヤロウに閉じ込められちまってたんだよ。
          多分その時に、俺様のデータが取られてたんだろうな」

フェリス「それで、俺のビーストマスターである瞬と出会った事で結界が解けたのか」

エクシード「まあ、そんなところだろう」

プラム(そんな所に瞬君を導いたと言う青年。一体、何者なのかしら?)

 プラムの思考は、今もその青年に向けられている。しかし、そんな不確かな疑惑も、す
ぐ後に発せられた瞬の一声に吹き飛ばされた。

「でも、これでビーストガーダーズ、全員集合だねっ!」

フェリス「ああ、その通りだ」

ウェルシャーク「俺様がいれば百人力だぜ!」

エクシード「お主は調子に乗りやすいのをやめるのだな」

グランリッド「ともかく、がんばりましょう。僕達三人で」

プラム(……そうですね。不確かな不安に、過剰におびえる必要なんてありませんね)


 そして、プラムの顔に笑みが戻る。

プラム「ええ、みんなでがんばりましょう!」

「うんっ!」

博美「みんなぁ、もうすぐで美空市よっ!」

 博美の言う通り、ウルフランダーは夕暮れの美空市へと走っていった。

 

<NEXT EPISODE>