七星勇者フェリスヴァイン
黒鍵獣・ソルドッグが狂暴な咆哮と共にエクシードめがけて襲いかかってくる。さすが
に、力では勝ち目がない事を悟っているエクシードは、十二分にそれを引きつけ、牙が襲
いかかるその瞬間、上空へと飛びあがってそれをかわした。
空中で一回転し、ソルドッグの後ろを取るエクシード。
エクシード「タツマキウェブ!」
胸の鷲の口から放たれた竜巻が後ろ向きのソルドッグを捉え、体勢を崩したソルドッグ
は病院から離れたところへ吹き飛ばされる。
エクシードはソルドッグが体勢を立て直す間もなく近づき、逆手に構えたジェットクナイで
駆け抜けざまにその身体を切り裂いていった。
ソルドッグが苦悶の声を上げエクシードの姿は既にそこにはなく、またも死角からビーム
――イーグルガン――が放たれ、ソルドッグのわき腹に直撃する。
息つく暇もなく、エクシードはその場から離れ、三度ソルドッグの虚を突いてジェット
クナイでソルドッグの身体を切りつけていく。パワーや頑丈さで後れを取る自分が唯一優位に
立てるもの、スピードを生かした一撃離脱の戦い方こそがこの敵に唯一勝算を見出せる
ものだと、エクシードは悟っているからである。
一瞬にして敵の攻撃範囲からとびだし、再び隙を見出してそこに斬りこんでいくエクシード。
しかし、ジェットクナイがソルドッグの皮膚を切り裂いたと同時に、ソルドッグがいき
なりエクシードのいる場所めがけて腕を振りまわしてきたのだ。間一髪それに気づき
紙一重でその攻撃をエクシードはかわす。
エクシード(クッ……やはり、浅いか)
そう、間断無く一方的に斬りつけ圧倒的に優位に立っているように見えたエクシードで
あったが、そのどれもが見た目よりも遥かに浅い一撃で致命的なものには程遠かったのだ。
対するソルドッグは斬られ続けるうちにその事を本能で学び取り、敢えて身体を切らせる
ことでエクシードの位置を掴む、肉を斬らせて骨を絶つの言葉通りの戦法を取り始めたの
である。
その事をエクシードも感じ、刹那、自分にグランリッドやフェリスヴァインの如き強力(ごうりき)
がないことを恨む。
だが、その考えも一瞬にして消える。
約束したのだ、由美と。ソルドッグに取り込まれた理恵を、必ず救うと。
その誓いを破るわけには行かない。
自分は、勇者なのだから。
エクシード「オォォォッ!」
裂帛の咆哮と共にソルドッグに飛びこんでいくエクシード。
ソルドッグが振り下ろしてきた前足をかわし、ガードの空いた部分に斬りこんでいく。
だが、さっきまでの斬撃とは違う。クナイの刃の上に更にもう一重、鋭い風の刃を纏った
エクシードの全力を込めた斬撃。
その一撃は、確実に先程よりも深くその身体を切り裂いていく。
ソルドッグの苦悶の叫びを聞き、先ほどとは違う手応えを感じるエクシード。だが、次
の瞬間、エクシードは側部に凄まじい衝撃を受け、自分の意思と反してソルドッグを斬り
つけた方向へと弾き飛ばされた。
エクシードが切り抜ける瞬間、振り戻ってきたソルドッグの足がエクシードの側部を殴
り飛ばしたのだ。
エクシードはすぐさま空中で体制を取り戻し、両の足で大地に足をつける。
エクシード「クッ……」
ソルドッグの一撃を受け、エクシードは歯噛みする。
深く相手の身体を切り裂けるようになった分、相手から離れるのがわずかばかり
遅くなってしまったのだ。
これでは、今一度同じ攻撃を試みたところで、よほど上手く斬りつけない限り同じよう
に弾き飛ばされてしまうだろう。
エクシード「拙者に残された技は、これ一つか……!」
エクシードは動きを止め、クナイを構える。
エクシードが止まったのを好機と見て、ソルドッグが飛びかかってくる。
ソルドッグの足が地から離れたその瞬間、エクシードの胸の鷲が迫り来るソルドッグを
捉えた。
エクシード「タツマキウェブ!」
鷲のくちばしから放たれた竜巻の網が、今一度ソルドッグの巨体を空中で絡め取った。
気流の渦に飲みこまれ、ソルドッグはバランスを崩す。
その瞬間を狙い、エクシードは両手のクナイを交差させた。
エクシード「エアブレイド!!」
クナイから放たれた一文字の風の刃は、竜巻で動きを封じられるソルドッグに見る見る
うちに迫っていく。
そして、風の刃と竜巻の網がぶつかり合った時、ソルドッグを中心として爆発が起こっ
た。辺りに煙が舞いあがり、一時的に視界が奪われる。
エクシードは腕で風から身を庇いながら、ソルドッグがいたほうに目を向けた。
エクシード「……やったか?」
エクシードの気持ちが一瞬緩む。その瞬間、ソルドッグを包む煙を突き破って、何かが
ものすごい速さでエクシードめがけて飛来した。エクシードはすぐさま反応し避けようと
するが間に合わず、エクシードの身体はその飛び出してきたものにしたたか打ち据えられ
捕らえられてしまった。
やがて煙が晴れ、ソルドッグの姿が明らかになる。
ソルドッグの身体から2本の触手状のものが生えており、それがエクシードの身体を捕
らえていたのだ。
エクシードもそれに抵抗しようとするが、触手の力のほうが強く、投げられ地面にした
たか叩きつけられてしまう。
エクシード「ぐぅっ!」
ブリント「クククッ! 切り札ってのは、とっとくモンだよなぁ!」
勝ち誇るブリントに同調するかのように、捕らえたエクシードを空高く掲げるソルドッ
グ。エクシードは何とか触手から逃れようと試みるも、触手の力のほうが圧倒的に強くそ
れもままならない。
ブリント「とどめぇっ!」
ブリントの声を合図に、ソルドッグの触手が勢いよく振り下ろされる。ブリントが勝利
を、エクシードが敗北を確信する。
だから、気づかなかった。その場に二つの影が飛び込んできたことに。
エクシードが地面へと叩きつけられんとするまさにそのとき、飛び込んできた影の一つ
がエクシードの体を受け止め、もう一つの影がエクシードを捕らえる触手を断ち切ってい
た。
あっけにとられるエクシードとブリントをよそに、その飛び込んできた影は触手を取り
払いながら落ち着いた声で語りかけた。
グランリッド「大丈夫ですか、エクシード?」
エクシード「グランリッド、ウェルシャーク……!」
ウェルシャーク「なーんとか、間に合ったみてぇだな!」
ビーストガーダーズ二人の声に、エクシードはシニカルな笑みで応える。対照的にブリ
ントは悔しさに手をわななかせる。
ブリント「ちっ……くしょぉぉっ! やれぇっ、ソルドッグ!」
ブリントの命に従ってソルドッグがビーストガーダーズへ触手を振り下ろす。その迫っ
てきた触手を三人は同時にかわす。
エクシード「いくぞ、グランリッド、ウェルシャーク!」
ウェルシャーク「おおっ! やってやるぜ!」
グランリッド「では、いきますっ!」
『ビーストフォーメーション、ドライブ・オン!!』
ビーストガーダーズはビーストフォームに変形して、エクシード、グランリッド、ウェ
ルシャークの順に空中へと飛び上がる。
『超獣合体! トライッ ガーダー!!』
蒼空に、蒼き自然の守護神が舞い降りた。
TG「ハァァッ!」
気合とともにトライガーダーは眼下のソルドッグめがけて殴りかかる。二本の触手を操
ってソルドッグがそれを迎え撃つ。放たれた二本の触手はそれぞれがトライガーダーの両
腕を絡めとった。
TG「クゥッ!」
触手がトライガーダーを地面に叩きつけようとその体を振り下ろす。だが、間一髪
トライガーダーは体をひねり、見事に足から地面に着地する。
トライガーダーとソルドッグの触手がお互いに相手を投げ飛ばそうと力をぶつけ合う。
が、力が拮抗していると知るやトライガーダーはその手に風の力を込めたエレメント
ショットを生み出した。
TG「エレメントショット・ウィンド!」
そして、それを掴んでいた触手に叩きつけた。エレメントショットが炸裂した部分の触
手が断ち切られ、急に片方の力を失ったソルドッグは後ろにのけぞり地面に倒れこむ。
これを好機と、トライガーダーは倒れたソルドッグに飛び掛った。
TG「ネイチャーランサー!」
トライガーダーはネイチャーランサーを取り出し、ソルドッグめがけて振り下ろす。そ
の瞬間にソルドッグは起き上がり、飛び退ってその一撃をかわした。行き場を失った
ランサーが地面に突き刺さる。
トライガーダーから距離をとったソルドッグは、トライガーダーめがけて触手を波打つ
ように放った。
ネイチャーランサーを抜き放ち、即座に避けようとするトライガーダー。だが、彼の後
ろにあるものがそれを許さなかった。一瞬、トライガーダーが判断に迷う。その一瞬で、
トライガーダーの両腕が再び触手に捕らわれてしまった。その衝撃で、構えていたネイチ
ャーランサーを取り落とす。
TG「しまったっ……!」
トライガーダーは歯噛みしながら後ろを見やる。
トライガーダーの後ろには、病棟があった。そのために、トライガーダーはその場を動
くわけには行かなかった。
その様子を見ていたブリントが含み笑いを漏らす。
ブリント「くっくっくっ……形勢逆転、ってやつか?」
TG「クッ…!」
ブリント「やっちまえ! ソルドッグ!!」
ソルドッグは口から熱光線を吐き出した。触手に腕をふさがれ、トライガーダーはなす
術なく熱光線の直撃にその身をさらした。
TG「グァァァッ!」
熱光線がトライガーダーの体を焼いていく。それは、決して一撃でトライガーダーを行
動不能にするものではなかったが、しかしながら確実にトライガーダーから力を奪い去っ
ていた。
TG「こんな……ものでっ……!」
必死に抵抗を試みるトライガーダー。だが、その想いとは裏腹にトライガーダーの足は
後ろへと下がり、膝が徐々に折れ曲がっていく。それは、力を失いつつある確かな証だった。
このまま力を奪い去られ地に伏すか、再び三体に分離してしまうか。この先に待つもの
はそれだけの違いだった。
だが、トライガーダーである三人のうちの一人は、決して諦めようとはしていなかった。
そして、その声は響き渡った。
まるで、その勇者の魂に応えたかのように。まるで、その勇者に力を分け与えるかのように。
由美「エクシードッッッ!!!」
その声は、朦朧とする意識の中、確かにエクシードに届いた。崩れかける足に力を入れ、
わずかに体をそらし、後ろを見る。
そこには、確かに由美がいた。病棟の屋上で、手すりから身を乗り出しながら
トライガーダーをまっすぐに見つめていた。
エクシード(由……美……)
トライガーダーの中から向けられるエクシードの視線を、由美は確かに受け止めていた。
そして、先程とは違い静かに、しかし、強く力を込めて言葉をつむぎ出す。
由美「約束、忘れたのかい?」
エクシード(…………)
由美「男だろ? 勇者なんだろ?」
由美は、すぅっと肺に息を送り込んだ。そして、目いっぱいの力でそれを吐き出す。
由美「しゃんとしろぉぉっ!!!」
正に、一喝。
その一喝が、エクシードの意識を完全に呼び覚ました。それと同時にトライガーダーの
主導権がグランリッドからエクシードへと移行する。
TG「うぉぉぉぉぉぉっ!!」
いまだ熱光線を浴びながら、それでも裂ぱくの気合とともにトライガーダーは決然と立
ち上がった。その気合に、獣であるはずのソルドッグがわずかにひるんだ。
この機を逃すまいと、トライガーダーの胸の鷹がその口を開いた。
TG「キラートルネード!」
鷹の口からすさまじい勢いの竜巻が放たれる。
激突する竜巻と熱光線。じりじりと、だが確実に竜巻が熱光線を押し返し始めた。
そして、ついに竜巻の顎がソルドッグの体を捕らえる。
TG「ハァァァァァッ!!」
すさまじい風の牙がソルドッグの体を絡めとっていく。その勢いはソルドッグの体をき
しませ、ついには中空へとその体を吹き飛ばした。
吹き飛ばしたソルドッグを追い、ネイチャーランサーを拾い上げ飛び上がるトライガー
ダー。
TG「借りは、返させてもらうぞ…………倍返しでな!」
まさに風のごとき勢いでソルドッグの周りを飛び回り、その度に幾度もネイチャーラン
サーで斬りつけていく。その過程で、トライガーダーを捕らえていた触手も断ち切られる。
TG「とどめぇっ!」
トライガーダーはソルドッグを空にめがけて蹴り飛ばす。
ソルドッグに向けて構えたネイチャーランサーを中心に正三角形を描くように三つのエ
ネルギー球が現れ、互いが線で結ばれる。
TG「ネイチャーブラストアタァァァァック!!」
三色の光の螺旋が空を駆け上がりソルドッグ目指して突き進む。
光の奔流の中、ソルドッグの体は塵へと還っていった。
ソルドッグが消え行く光を静かに由美が見つめる。
由美「……理恵……」
TG「…………」
その様を同じように見つめていたトライガーダーはおもむろに分離し、エクシードが光
の中へと飛び込んでいった。
グランリッド「エクシード?」
ウェルシャーク「……どうしたってんだ、アイツ?」
やがて光は消え去り、その中からエクシードが帰還する。そして、エクシードは由美の
いる屋上まで飛んでいく。
由美の前に右手をそっと下ろし、その手を開いた。
エクシード「……約束は、果たした」
エクシードの手のひらには、穏やかな寝息を立てる理恵の姿があった。
由美「……ああ」
理恵の体を抱き上げながら、由美は静かにエクシードに微笑んだ。
落ちようとしている夕日が、二人の女性と鋼鉄の忍者を朱に染め上げていた。
――後日、BBS本部
その日、珍しくビーストガーダーズ全員が第2格納庫に勢ぞろいしていた。
グランリッド「あの日、そんなことがあったんですか」
ウェルシャーク「くくっ、そ、そりゃあ災難だったな」
ウェルシャークは笑いをこらえつつ話に加わる。エクシードはそれを憮然とした表情で
観ていた。
エクシード「まったく、いい迷惑だ」
グランリッド「まあまあ、いいじゃないですか」
グランリッドが苦笑しながらエクシードをなだめる。まあ、どっちにしても普段ニヒル
な一匹狼風のエクシードが、いいように振り回されていたというのが面白くて仕方ないと
いうのは違いない。
グランリッド「それで、その理恵って女性の手術はどうなったのですか?」
エクシード「ああ、それなら……」
そうエクシードが答えようとした時、別のところから声が響いてきた。
由美「無事、成功したよ。おかげさまでね」
ビーストガーダーズが驚いて声の方向を向く。
そこには、BBSの制服に身を包んだ由美の姿があった。
ウェルシャーク「あ、あんたは!?」
エクシード「ゆ、由美?!」
驚いているビーストガーダーズに、ウィンクしつつ人差し指と中指をそろえてチャッと
傾けて見せる。
由美「よっ」
エクシードは不意を突かれた形で呆然としていたが、ひとつ、ため息をついていつもの
調子を取り戻す。
エクシード「ここは関係者以外立ち入り禁止だ。何故、ここにいる?」
由美「なぜって、ねぇ……」
いつか交わしたような会話を交わす由美とエクシード。だが、笑みを浮かべる由美の答
えは、また違ったものだった。
由美「このカッコ見てわかんないかい? メンバーだよ、BBSの」
そう言って、由美は制服の肩口を両手で軽くつまんでみる。
エクシード「だから、何故それを着ている」
やや苛立った口調で問い詰めるエクシード。すると由美は、まるでとっておきのイタズ
ラを成功させた子供のようににんまりと笑って見せた。少し、いやな予感がしたエクシード。
エクシードのその様子を見て、得意げに話し始める由美。
由美「いや、それがこの前おじさんにあってさぁ、問い詰めてやったんだよ。6年も息子
ほっぽらかしてなにやってたんだー、ってね。
そしたらおじさん泡食っちゃってさぁ、もぉよっぽどあたしの剣幕が凄かったのか
しどろもどろになっちゃってねぇ!」
由美のハイテンションさと話の内容に閉口するしかないビーストガーダーズ。それでも、
他の二人よりは由美の性格に慣れていたエクシードが、驚き半分あきれ半分で続きを促す。
エクシード「……それで?」
由美「ま、地球の平和、瞬にまかせっきりってのもアレだし、面白そうだったから入れてもらった。
平和的な話し合いで」
そう言って、由美はふふんと腕を組む。この「平和的な話し合い」というやつがあくま
で「由美的な」ものというのは想像に難くない。まあ、身内なだけに冗談交じりの部分も
当然あるだろうが。
由美は瞳を閉じ一拍置いて、ふっと微笑んだ。しかし、それはそれまでの軽い感じのも
のではなく、とても真摯で、真剣な微笑。
由美「ま、そんな訳で、今のあたしは司令室所属の『司令官補佐』だ。
よろしく頼むよ、みんな!」
その由美の言葉に、ビーストガーダーズはお互いに頷きあう。
グランリッド「ええ、こちらこそ!」
ウェルシャーク「よろしく頼むぜ、姉御!」
由美「くくくっ、姉御か……OK! よろしく頼んだよ!」
由美はウェルシャークに親指をぐっと立てて応える。
由美がエクシードに顔を向けると、エクシードはふっとつまらなさそうに顔を背ける。
だが、ほんの小さく、誰にも気づかれないほどに小さく微笑んだ。
エクシード「……あまり、面倒はかけるなよ」
由美「なんだい、つれないねぇ」
由美は、つまらなさそうにむくれて見せる。しかし、それも格好だけで、すぐに笑顔に
変わった。そして、エクシードも軽く噴出すように笑うと、視線を由美に向ける。
由美は、その視線を受けるとくるりと後ろを向いて歩き出した。遠ざかる由美の後姿に、
エクシードはやはり顔を向けず、少し恥ずかしげに、だけどもはっきりと声をかけた。
エクシード「よろしく頼む……由美……」
その言葉を聞いた由美は、それまでで一番の笑みを顔に刻んで答えを返した。
由美「OK……!」
振り向かずに右腕を振り上げた由美。
その右腕は、力強いサムズアップで新しい仲間に応えていた。