プレゼントSS

『ある日、森の中で』


「え〜と、ラシュネス・・・・だったよね?」

「はい? 何でしょう、瞬さん」

「ボクのことは瞬でいいよ」

「じゃあ、瞬。何ですか?」

「うん。あのね、ラシュネスの好きなことって何?」

「わたしの好きなこと・・・・ですか?」

「そう。せっかく、友達になれたんだもん。少しでもラシュネスのこと、知りたいんだ」

 星崎瞬が、ラシュネスと名乗るこのロボットと知り合ったのは、1時間ほど前のことである。
 BBS基地のある高峰山周辺を散歩していた時のことだった。

「えぅ〜っ! ごえんらぁらい〜」

 という泣き声とともに、突如現れたのである。フェリスやビーストガーターズの半分くらいの大きさしかない
とは言え、いきなりロボットに出現されては、瞬が驚くのも当然だった。
 ビックリして大声をあげた瞬に、このロボットが気づかないはずがない。
 かくして出会った二人は、お互いに名を名乗り、友達になったのである。
 ただ、ラシュネスがこの世界の住民ではないことはすぐに分かった。BBS基地に連絡をとってみると
とりあえずラシュネスを連れて戻って来なさい、とのことだったので、瞬はラシュネスと一緒に、基地に
向かっている最中なのである。

「わたしの好きなこと・・・・う〜ん・・・・楽しいって思うことでもいいですか?」

「もちろん。いいよ。何が楽しいの?」

「えっとですねぇ、ユーキ・・・・一緒に暮らしてる人の名前なんですけど、ユーキのお手伝いをして菜園の
手入れをするのが楽しいです。ひなたぼっこもぽかぽかしてて、気持ち良くて好きです」

「菜園の手入れなんてやってるの?」

「はい。ただ、この大きさなんで水やりくらいしかできないんですけど。でも、お野菜とかがちょっとずつ
育っていくのを見るのって、楽しいです。それに、わたし専用のプランターもあるんですよ。
 これは、もらったものなので、何の種が植えてあるのか知らないんですけど」

「へぇ、スゴイね」

「そうですか?」

「ひなたぼっこと菜園の手入れが好きなんだ」

「お魚釣りも楽しかったから、またやりたいです〜」

「魚釣りもしたことがあるの?!」

「ありますよ〜。今度はイカ釣りに挑戦するって言ってましたから、それも楽しみです〜」

「イ、イカ釣り?」

 菜園の手入れをするロボットというだけでも珍しいのに、この上、魚とイカまで釣るとは侮りがたし!
 である。

「楽しみなことは、他にもあるんですよ。グレイスさん、今、一緒に行動している女性型のロボットなんですけど
グレイスさんが今度、わたしに編み物を教えてくれるんです」

「あっ、編み物まで・・・・・?!」

 瞬は目を白黒させた。

「はい〜。あ、あれ、狼じゃないですか? 珍しいですね」

 ラシュネスが指さした先にいるのは、シベリアンハスキーじゃなくて、フェリスだった。

「フェリス!」

「迎えに来たんだ」

「ありがとう」

 瞬は、迎えに来たと言ったフェリスの頭を撫でる。

「ふわ〜、こちらの狼って喋れるんですか?」

 ンなワケあるはずがない。
 瞬は苦笑を浮かべ、フェリスをラシュネスに紹介した。

「へえ、そうなんですか。こちらの狼は、ロボットなんですね」

 それも違う。瞬は、フェリスだけが特別なんだと言っておいた。

「それにしても、よくフェリスが狼だって分かったね。ボクなんて、犬だとばっかり思ってたのに」

「ああ、似てますけど、違いますよ。ユーキが狼を捌いてるのを何度も見てるんで、すぐに分かりました♪」

「ヱ?」

 瞬とフェリスの目が点になる。

「狼を・・・・捌くの? 何で?」

 聞きたいような、聞きたくないような。それでも、瞬は勇気を振り絞って聞いてみた。

「ごはんのおかずにするんです。毛皮は、剥いで売るみたいですね」

 聞かなきゃよかった。
 瞬は肩を落とした。

「ご、ごはんのおかず?」

 その横で、フェリスがぼうぜんと呟く。

「はい〜。下ごしらえに手間がかかるらしいですけど、味は結構イケるみたいです」

「そ、そう・・・・・・」

「そうみたいですね。熊を捕まえた時には、ユーキもトーコも一日中、笑いっぱなしでした」

「くっ、クマぁ!?」

「はぁい。他にも、鷹とか鮫とか・・・・」

「た、鷹に、鮫だってぇっ?!」

 フェリスと瞬の心臓は、ドッキドキのバックバクである。

「鮫はわたしが捕まえたんですよッ。すごいでしょう? ・・・・って、どうしたんですか? 二人とも」

「あ、いや・・・・何でも・・・・・」

 瞬とフェリスは、青い顔で心臓を押さえていた。そんな二人を不審げに見下ろすラシュネスだが、
何か思い当たることがあったのか、ぽんっと手を打って、「大丈夫ですよ。こっちの世界じゃ、捕まえたり
しませんから。なんたって、食べる人がいないですからね」

「そ、そう・・・・・・」

 なら、食べる人がいたら捕まえるのか? という疑問も浮かんだが、フェリスはあえてそれを
無視するのだった。

「なんか、すごいところなんだね。ラシュネスの暮らしてる世界って・・・・・・」

「え? ああ、まぁ・・・・そうですね。大地のほとんどは荒野ですし、国家として全く機能してなくて
悪いことをする人を罰することができないらしいんです」

「そんな! それじゃあ、普通の人達はどうしてるの?!」

「大丈夫ですよ。ちゃんと勇者と呼ばれる人達がいて、普通の人達を守ってくれてます」

「良かった。あれ? じゃあ、ラシュネスは? ラシュネスは勇者じゃないの?」

「わたし? わたしは・・・・違います。今は、違いますけど、いつか、きっと、勇者になってみせますから!」

 ラシュネスは、ぐぐっと力強く拳を握りこんだ。

「なれるさ。お前なら、きっと」

「うん。ボクもそう思う。応援してるからね」

「あ、ありがとうございます〜」

 フェリスと瞬の励ましに、ラシュネスは感激する。

 ばしゅうんっ!

「え? なっ、何!?」

 突如として出現して光の柱に、3人は目を細めた。

『ラ〜シュネス!! そこにいンのは分かってンのよ! さっさとこっちへ帰ってらっしゃい!』

「トッ、トト・・・・トーコッ!?」

『とっとと走れィ!』

「はっ、はひ〜っ! えぇ、ええっと、瞬、フェリスさん、短い間でしたけど楽しかったです。
今度会うときは、二人の好きなことを聞かせてくださいね」

「え? もう帰っちゃうの?」

 突然すぎる展開に、瞬は表情を強ばらせた。

「仕方ないです。わたしはこの世界の住人じゃないですからね。大丈夫。また会えますよ」

「ラシュネスの言うとおりだぞ、瞬」

「うん。分かった。元気でね、ラシュネス」

「はいっ。瞬とフェリスさんもお元気で。それじゃあ、また会いましょうね」

 ラシュネスは笑って、手を振りながら、光の柱へと後ろ歩きで身を滑らせて行く。

「うんっ! 絶対だよっ!」

「もちろん、ゼッタイですっ!!」

 ラシュネスの体、全てが光の柱に収まってしまうと、柱は空へと上っていった。
もちろん、そこにラシュネスの姿は残っていない。 瞬とフェリスは、ラシュネスの消えた空を長い間
見上げていたのだった。

 

〜 fin 〜


 嘉胡きわみさんのHP「Jack−in−the−box」でキリ番を踏んだリクエストで頂いたSSです〜

「瞬とフェリスがラシュネスとおしゃべり」というリクで、ラシュネスの好きな事を題材にして書いていただいたの

ですが……オッッケェイ!

 あんな漠然としたリクで、こんな楽しいものを書いて頂けるとは思っても見ませんでした。ラシュネスの

意外な趣味や、普段の生活なんかがかいまみえて楽しかったです。特に「狼捌く」の辺りはもう……!

 瞬とフェリスのキャラクターもよく捉えてくれていて、感謝感謝です。あと、瞬と一人称とかフェリスの

セリフとか、ほんのちょびっとだけ手を加えていますです(汗)。

 きわみさん、ありがとうございましたーっ!

 

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