七星勇者フェリスヴァイン


 場所は変わって、美空市のとある工事現場。
 鉄骨が組まれ、重機が捨て置かれているその場所に空間の歪みが生じる。
 その中からマントを纏ったクロイツが現れ、地面に降り立った。
 クロイツは、近くにあったクレーン車に目を付け、ほくそえむ。

クロイツ「ふ、地球の建設機械か……」

 クロイツはクレーン車をしげしげと眺めると、納得がいったように一つ頷く。

クロイツ「なるほど。これならばちょうどいいな」

 クロイツは右手の指をぱちんと鳴らす。
 その音に答えるかのようにクレーン車上空の空間が裂け、中から真っ黒なプレートが
いくつも飛び出してきた。
 そのプレートは、次々とクレーン車にとりつき、その姿を異形のものへと変えていく。

クロイツ「寄生型黒鍵機、パラメルス。『黒き力』で既存の機械を鋼鉄の僕と化す。
     多少は役に立ってくれよ」

 クロイツの見つめる先で、人形ロボットと化したクレーン車が咆哮を上げた。

 

 一方、フェリスは由美に運転されるままに、制限速度をちょびっとはみでたスピードで
ヒューマンインダストリへの道を走らされていた。
 どうしたものかと悩み続けているフェリスとは裏腹に、由美はご機嫌でハンドルを
握っている。

由美「いや〜っはっはっは! どこの誰か知らないけど、いいモン置いてってくれたもんだねぇ!」

 豪快に笑っている由美だったが、その顔がふいに、すぅっとやさしいものになる。

由美「おかげで、時間に余裕も出来た。あの子へのお土産、買いに行ってやれる」

フェリス(……由美殿?)

由美「……まさか、あの子が犬を飼いたいなんて言い出すなんてねぇ……
   わがままなんて、ほとんど言ったことのない子なのに…」

 由美は視線を前に向けたまま、何かに思いを馳せる。
 そしてひとつ、大きなため息をついた。

由美「そのぐらいの、たまのわがままを叶えてやれない自分が、情けないったらありゃしないよ」

 そう呟いた後、何かに気づいたように照れ笑いを浮かべた。

由美「ハハハッ、アンタに愚痴っても、しょーがないんだけどねぇ」

フェリス(由美殿……そうか……)

 フェリスは、その言葉の端々に由美の瞬に対する思いを感じ取れた。
 だから、フェリスはもうしばらく、ただの車として由美に付き合おうと思った。
 由美の運転する車は、町の繁華街へと向かっていた。

由美「さってと、何を買ってやろうかねぇ……
    図鑑はこの前やったし……」

 由美がそんなことを呟いた時には、繁華街はすぐ近くになっていた。

由美「やっぱり、今時の小学生ならベ○ブレードか……?」

フェリス(な……ミニ○駆の時代は終わったのか!?)

 フェリスの娯楽に関する知識は、どうやらワンテンポ遅いもののようだった。

 

 その、由美達がむかっているヒューマンインダストリ・美空研究所の地下に作られた
地球防衛組織・BBSの本部。
 その司令室の中では、なぜかいるものが皆、真っ青な顔でぐったりとしていた。
 例外なく真っ青な顔でコンソールに突っ伏していた博美が、振り絞るような声でぽつり
と呟やく。

博美「恐るべし、遠山主任の手料理……」

輝美「ここしばらくこなかったから、油断してたわね……」

 輝美もぐったりしている。前に突っ伏しているか、イスに持たれかかっているかの違い
だけである。
 そして、司令の席で陽司がただ一人、普通の顔色をしてため息をついていた。

陽司「羽月君、確か、料理始めて10年は経つのに……
    これも、ある意味では才能だな……」

 陽司はさすがに羽月との付き合いが長いためか、「食べるフリ」をすることでただ一人
難を逃れていた。
 そして、さすがにその状態を知っていたわけではないだろうが、本当にイヤなタイミングで
司令室にアラームが鳴り響いた。

陽司「なっ、敵襲か!?」

輝美「い、今、かくにんします」

 輝美がなんとか体を起こし、いつもと比べると確実に三割はスピードが遅くなっている
キータッチでコンソールを操作する。

輝美「D・A反応、確認。こ、黒鍵機です。ば、場所は北斗通り、北部」

博美「ま、待ってください!」

 博美はディスプレイの表示を見て叫びを上げた。

博美「北斗通りに、白き力が向かってる? これ、フェリスです!」

陽司「なんだって!? フェリスは瞬の所でチェックをしていたはずじゃないのか!?」

 陽司はその理由を考えようとしたが、頭を振ってその考えを吹き飛ばす。
 今はそれを考えている場合ではないとわかっていたからである。

陽司「とにかく、すぐに瞬に連絡を! 亜空間コンテナもスタンバイしておくんだ!」

 陽司の指令に従い、司令室がにわかにあわただしく動き出した。

 

フェリス(クッ! こんな時に!!)

 フェリスが繁華街についたとき、時を同じくして黒鍵機・パラメルスも行動を開始して
いた。
 その姿は元のクレーン車とはかけ離れ、右腕にクレーン、左腕に鉤爪、肩にバルカンが
装備され、足のキャタピラがもとのクレーン車の名残を残す。
 パラメルスの右腕からクレーンが発射され、それが建物の一角を撃ちぬく。
 そしてその瓦礫が、フェリスに襲いかかろうとしていた。

由美「よおいしょぉっ!!」

 由美は絶妙なタイミングでハンドルを切り、瓦礫をかわす。

由美「ったく、なんだってんだい!? あのロボットは!」

 由美が毒づきながら、瓦礫やら乗り捨てられた車やらをかわしている間、フェリスは
焦燥感に駆られていた。

フェリス(どうする? ヤツを放ってはおけん! だが、そんなことをすれば、俺の正体が
     由美殿に知られてしまう!)

 フェリスの焦燥など知る由もなく、由美はパラメルスから離れるべく、迂回を開始する。
 だが、迂回する由美の視界になにかが映り、由美の顔色が変わった。
 そして、何を思ったか急にハンドルを切り、アクセルを踏み込んでパラメルスの方に
向かって走り始める。

フェリス(な、何を?!)

 由美が向かうその先、パラメルスのまさにすぐそばに小さな女の子がうずくまっていたのだ。
 由美はフェリスめがけて落ちてきた大きな瓦礫を、またも巧みなハンドルワークで避け
さらにドリフトを利かせながら女の子の近くにフェリスを止めた。
 車が止まると、由美は手早くシートベルトをはずし、車から飛び出て女の子の元によっ
ていく。

由美「お嬢ちゃん、だいじょうぶかい!?」

 女の子は涙にぬれた顔で恐る恐る由美を見上げ、小さく頷いた。
 由美はそれを見て、笑顔で応える。

由美「よし! お姉ちゃんと一緒に安全なとこに行こうかね!」

 由美は女の子を抱き上げると、とにかくその場から離れようとパラメルスに背を向けて
走り始める。
 フェリスもそれを見てほっとし、改めてパラメルスに立ち向かおうとしたが、そのクレーンが
向いている方向を見て顔色が変わった。

 パラメルスのクレーンが発射される。

 フェリスが迷うことなく走り出す。

 そして、金属がぶつかり合う大きな金属音があたりに響き渡った。

 

由美「う……ん……」

 地面に倒れた由美は、起き上がって後ろのほうを見る。
 そこにあったものを見て、由美は声を失った。

由美「な……!」

 由美が驚いて見上げている「それ」が、由美のほうを振り向く。

フェリス「大丈夫か、由美殿?」

 そこには、ロボットに変形していたフェリスが、由美達めがけて発射されていたクレーンを
両手で掴み、立ちはだかっている姿があった。

由美「アンタ……まさか……あの車?」

フェリス「詳しいことは後で説明する。とにかく、今は一刻も早くここから離れるんだ!」

 由美は頷いて、再び後ろを振り向く。
 もう一度走り出そうとしたその時、由美の目にこちらに向かってくる何かが目に入った。
 間もなく、それが一台の自転車であることが判ったが、それに乗っている人物を見て、
こんどこそ由美はまともに顔色を変えた。

瞬「フェリス〜〜〜〜〜〜ッ!!」

由美・フェリス『瞬!』

 瞬にはフェリスしか目に入っていないのか、自転車を降りてフェリスのもとに駆け出す。

フェリス「瞬、来てくれたのか!」

瞬「さっき、博美さんから連絡が来て、自転車で急いできたんだ! プラムも、BBSに
 戻ったって!」

フェリス「そうか。瞬、合体命令を!」

瞬「うん!」

 瞬がコマンダーのスイッチを押し、先端のクリスタルに赤い光が灯る。

瞬「コマンド・ラン!」

 放たれた赤い光が、フェリスに吸収される。

フェリス「バーストローダー!!」

 フェリスの声に応え、前方の空間が裂け、亜空間と直結する。
 その空間の裂け目から、バーストローダーが飛び出し、宙に浮かび上がった。

 車体後部が変形して下半身となり、上部の二連バーニアが切り離され、車体前部が変形
して上半身を形成、機体が起き上がり、胸部から狼の顔がせり出す。

 フェリスがビークル形態に変形、機体背部の穴に格納され、その穴が閉じられる。

瞬「ドライブ・オン!」

 瞬が赤い光に包まれ、機体頭部に吸い込まれた。
 バーニアが肩に装着され、腕から手が飛び出す。
 そして、剥き出しの顔にフェイスマスクが装着され、目に緑の光が灯った。

 

フェリスヴァイン「爆炎合体! フェリィィィィスヴァイィィィンッ!!」

 

 合体したフェリスヴァインは、改めてパラメルスに向き合った。

由美「瞬が、ロボットに……どう、なってんだい……」

 由美は、ただ呆然とその様子を見ていた。

 

 一方、パラメルスから少し離れたところで様子を見ていたクロイツは、目当ての
フェリスヴァインがやってきたのを見てほくそえんだ。

クロイツ「ふ、ようやくやって来たな、炎の勇者。
     ……一応、名乗るくらいはしておくか。奴の代理だしな」

 クロイツは、懐から取り出したインカムのような機械を耳に装着した。

クロイツ『あー、聞こえるか、フェリスヴァイン』

瞬「な、何? この声」

FV「この黒鍵機のパイロットか!」

クロイツ『いや、ちょっと違うな。こいつは遠隔操作で動いている。ま、俺は高みの見物と
     言う奴だ』

 クロイツはパラメルスにクレーンを巻き戻させると、フェリスヴァインに正面から
向かい合わせる。

クロイツ『俺は『暗黒の使徒』四星士の一人、妖学士クロイツ。
     悪いが、少しばかり付き合ってもらうぞ』

 その言葉と同時に、パラメルスは左腕に付いた鉤爪でフェリスヴァインに襲いかかった。
 フェリスヴァインは近づいてくるパラメルスに身構える。

FV「ヴァインブレード!」

 左肩アーマー内側の一部がスライドし、中から剣の柄が飛び出す。
 フェリスヴァインの右手がそれをつかむと、柄の先から日本刀のような刃が瞬時に伸びた。
 フェリスヴァインは、振り下ろされた鉤爪を両手で構えたヴァインブレードで受け止める。

FV「せぇぇいっ!」

 フェリスヴァインは剣を合わせたままパラメルスを押し返す。
 体勢を崩したたらを踏んだパラメルスは、足のキャタピラで急いで後退し、肩のバルカンを
発射する。
 バルカンの弾はヴァインブレードで防がれ、あるいは外装に弾かれさしたる効果を発揮
しなかったが、牽制としての役割は十分に果たした。
 体勢を整えなおしたパラメルスは、フェリスヴァイン向けてクレーンを発射した。
 フェリスヴァインは身体を横に逸らし、それを紙一重でかわした。そして、間髪入れず
に足のホバーをふかしてパラメルスに飛びこむ。

FV「タァッ!」

 袈裟懸けに振られた刀が、パラメルスの右肩を浅くかすめる。
 返す刀でヴァインブレードを跳ね上げたが、それは横から繰り出された鉤爪で
受け止められた。
 両者はそのまま離れ、パラメルスがクレーンを巻きとって再び対峙する。
 クロイツはその戦いの様子を見ながら、目の前に現れた半透明のホログラフに
目を落とした。

クロイツ「……なるほど、予測よりも高いスペックだな。ホバーとバーニアで機動力と
     武装の少なさを補い、技で戦術の幅を増やす…か。
     確認されているフェリスヴァイン最大の攻撃は、剣に炎を纏わせ、最高速で
     敵を切り裂く『炎狼刀技・フレイムファング』……」

 クロイツは顔を上げ、口の端を吊り上げる。

クロイツ「ならば、得物を封じればいい」

 クロイツはインカム形のマシンで、パラメルスに指令を飛ばした。
 指令を受けたパラメルスは、横薙ぎに鉤爪を振るってフェリスヴァインに襲いかかった。
 フェリスヴァインはその一撃をバックステップでかわす。しかし、それは予測済み
だったのか、パラメルスはまたもバルカンの弾をばら撒いた。

FV「クッ! また牽制か?!」

 フェリスヴァインは先ほどと同じようにヴァインブレードでそれを防ぐ。
 だが、パラメルスの目的はそれとは別の所にあった。
 パラメルスはバルカンに紛れて、クレーンを発射したのだ。

FV「なっ!?」

 刀で弾を受けていたフェリスヴァインは、否応なくクレーンを剣で受けることになった。
一度剣に弾かれたクレーンは、惰性でヴァインブレードに絡みつく。
 クレーンがしっかりと絡み着いた所でクレーンが巻き上げられ、ヴァインブレードが
フェリスヴァインの手を離れ、宙を舞った。

FV「しまっ……!」

瞬「フェリスッ!」

 ヴァインブレードは、パラメルスを挟んで反対側の道路に突き刺さった。

 剣が奪われ、体制が崩れたのを狙い、パラメルスが飛びこんできた。
 その鉤爪が、フェリスヴァインに向かって振り下ろされる。

瞬「ッ!」

クロイツ「フ…」

 瞬が目を閉じ、クロイツが笑みをこぼす。

 ガキィンッ!

 だが、金属音が鳴り響いたその瞬間、クロイツの顔が驚きの表情に彩られた。

クロイツ「なん、だと…?」

 クロイツの見つめる先。
 そこには、片膝を着き、もう一本のヴァインブレードで鉤爪を防いでいるフェリスヴァインの
姿があった。

FV「悪いな。元々、俺は二刀流なんだ」

 そう、パラメルスの鉤爪が振り下ろされたあの瞬間、フェリスヴァインは右肩のアーマーから
もう一本のヴァインブレードを取り出していたのである。

 フェリスヴァインは剣の角度を変え、逆にパラメルスを地面に叩きつける。そして
即座にパラメルスのほうに身体を向けた。

FV「フレイムシューター!」

 胸の狼の口から放たれた火球が、パラメルスに当たって爆発する。
 その爆発がやみ、パラメルスがようやく後ろを振り向いた時には、すでにフェリスヴァインが
地面に突き刺さったヴァインブレードを抜き去っていた。

FV「今こそ見せてやる! 真の炎狼刀技!」

 フェリスヴァインは、二本のヴァインブレードを逆手に持ち替えた。そして、柄の尻
――水月――をジョイントさせ、一つの武器にした。

FV「双刃剣(ソウジンケン)、ヴァインブレード!」

 フェリスヴァインがヴァインブレードを腰だめに構え、バーニアが水平にスライド
さらにバーニアの一部がスライドして噴射ノズルが現れる。
 刀身に紅蓮の炎が纏われ、バーニアと足のホバーが同時に火を吹いた。
 フェリスヴァインが急激に加速し、全身が炎で包まれ、相手めがけて一直線に突き進む。

 

FV「炎狼刀技・フレイムファング!!」

 

 炎の剣が切り上げられ炎の刃が相手を襲い、駆け抜けざまに振り下ろされた剣がパラメ
ルスの機体をバツの字に切り裂いた。

ドッゴォォォォォォォン!!

 駆け抜けたフェリスヴァインの後ろで、パラメルスが爆発四散した。

クロイツ「奴のカンも、バカにならないってことか……
      面白い、俺もお前に興味が沸いた。奴には悪いが、俺は俺でやらせてもらおう!」

 クロイツはそう言い残し、その場から姿を消した。

 フェリスヴァインはヴァインブレードを分離させ、血を払うように一振りする。

FV「我が焔(ほむら)に、断てぬ悪無し!」

 胸の狼が、誇らしげに輝いた。

 

 

 

 フェリスヴァインから降りた瞬と、狼の姿に戻ったフェリスは、女の子を親のところに
送り届けた由美に質問、というか尋問を受けていた。
 車から変形するところや、合体命令を送っている所を見られた二人に弁解の余地など
あろうはずもなく、すごい迫力で迫られた二人は結局、洗いざらい話すこととなってしまった
のである。
 話を聞き終えた由美は、深く息をついた。

由美「つまりだ、そこのワン公があのロボットで、悪党相手に戦っていると。そんで
   本気出すのに瞬が必要だと。そう言う訳かい?」

フェリス「まあ、要約すれば、そう言うことだが……」

由美「で、ウチのプラムさんも、実はおたくらの仲間だったと」

 そういって由美がジト目で見る先には、やはり実体化していたプラムが苦笑して立って
いた。

プラム「まあ、正確にはつい最近そうなったんですが……」

由美「ハァ……どうりで。この子が急に犬を飼いたいだなんて、おかしいと思ってたんだよ」

 由美は視線を瞬の方に向ける。瞬の身体が、一瞬びくっと震えた。

由美「で、姉ちゃんに隠し事するとどうなるか、わかってるねぇ……」

瞬「ご、ごめん、由美ねーちゃん…」

 由美はげんこつを作ると、それにはぁっと息を吹きかけた。
 それを見て、フェリスとプラムが慌て出す。

プラム「ま、待ってください、由美さん! 瞬君は悪くありません!」

フェリス「そうだ由美殿! やるなら俺にしてくれ!」

 しかし由美は二人の言葉には耳を貸さず、その拳が瞬の頭に振り下ろされた。
 瞬は、来たる衝撃に備えて目をつむる。
 だが、瞬の頭に触れたのは痛い拳ではなく、暖かな手のひらだった。

瞬「……?」

 瞬はおそるおそる目を開ける。
 そこには少し困ったような、でも、穏やかな微笑みで瞬を見つめる由美の顔が合った。

由美「まったく、なんだってそうなんでもかんでも一人で仕舞っちまうのかねぇ、あんたは」

瞬「……由美ねーちゃん?」

由美「しょーがないから、許してやるよ。あのワン公なら、手間もエサ代もかからない
   だろうしね」

 由美はそう言って瞬の頭をひとなですると、ウルフランダーの方に向かって歩き出した。
 瞬は、一瞬何を言われたのか判らなかったが、その意味が理解できると、驚いた顔で
由美の方を見た。

瞬「由美ねーちゃ……!」

由美「その代わり、土産は無し! 勉強もちゃんとするんだよ! いいね!!」

瞬「あ……」

 瞬はぱぁっと明るい表情になり、最高の笑顔で頷いた。

瞬「ありがとう、由美ねーちゃん!」

フェリス「由美殿……」

由美「ストップ!」

 由美は足を止め、半身だけフェリスの方をむかせた。

由美「あたしは由美! 「殿」だなんて、こっぱずかしいからやめとくれよ、フェリ君!」

フェリス「フェ、フェリ君……」

 フェリスは、瞬時につけられてしまった妙なニックネームに呆然とする。
 由美はウインク一つ残すと、すっかり操作方法を覚えたウルフランダーに乗って颯爽と
その場を去って行った。
 その後姿を見つめながら、フェリスがポツリと呟いた。

フェリス「……いい姉上じゃないか、瞬」

瞬「へ?」

 瞬は、少しあっけにとられた顔でフェリスの顔を見た。

フェリス「恐らく、俺を飼うことを反対したのはお前のためだったんだろう」

瞬「ボクのため?」

フェリス「お前は、普段から家の家事を全てやっているのだろう? それだけでも大変なのに
    犬を飼うとなったらさらにお前の負担が増えてしまう。
     由美は、今でも自分の世話で苦労をかけているのに、それ以上の負担がお前に
    かかってしまうのではないかと心配だったんだ。
     お前の幸せを一番に考えてくれる、いい姉上だと思うぞ」

瞬「あたりまえだよ……」

 瞬は、満面の笑みでフェリスに応えた。

瞬「だって、ボクのねーちゃんだもん!」

フェリス「ああ、そうだな」

プラム「ええ、そうですよ!」

 その時、プラムが何かを思い出したように瞬の方を見た。

プラム「そう言えば瞬君、亜希ちゃんと約束があったんじゃないですか?」

 言われて、瞬はハッと気がつく。

瞬「あ、そうだった! 待ってるだろうな、亜希」

フェリス「じゃあ、急いでいくとするか」

瞬「じゃ、自転車だね。ウルフランダーは由美ねーちゃんが乗って行っちゃったもん」

プラム「では、私はお留守番してますね。あんまり遅くなってはダメですよ」

瞬「うん! 行こう、フェリス!」

 そうして、瞬は自転車を起こして元きた道を走り始めた。
 空には、一番星が輝いていた。

 

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