『エルファーシア正伝 魔弾の章』
序章 〜Last Legend〜
 深遠なる大宇宙の中に浮かぶ水と緑の星『テラ』。かつては多くの生命が繁栄していたこの星だった
が、今は大いなる破壊の爪痕だけが残りその平和の様子は見る影も無い。それは、この星に起こった二
つの大いなる戦争のためであった。
 『聖戦』…文明の頂点まで上り詰め、増長した人類を粛正せんとした『神』とその僕たる『天使』に
対して、過ちに気付いた人類が自らの未来を掴み取るために『神』に反旗を翻した戦争。
 初めは虫けらのあがきにしか過ぎなかった戦いだったが、神の力をも超える十二の武器を携えた戦士
達の登場によって戦局は一変する。
 エルファーシア十二神具―神の力にも匹敵するそれらの武具を持つ者達は、人々から尊敬と畏怖を込
めてこう呼ばれた…エルファーシア十二闘士、と。
 十二闘士達と人間達の結束の力はついに神を打ち破り、神の住まう『天界』との繋がりを断ち切って
未来を掴み取る事に成功した…かに見えた。しかし、天界との戦いで疲弊したテラを奪い取らんとする
黒い影がその牙をむいた。
 『真魔戦争』…人間と『魔界』との戦いは後にこう呼ばれた。この戦いにおいて人類は悪魔の狡猾な
策略によって多大な損害を受けた。そこで人類は、十二闘士と百人の勇者達を直接魔界へ乗りこませ、
七体の悪魔王達に最後の戦いを挑んだ。
 そして、終焉…
 荒野の中にそびえる廃墟。かつては荘厳な城が建っていたのだが、今は二つの大戦の爪痕が生々しく
残りかつての華麗さは見る影も無い。その中に、六人の人間が佇んでいた。
 一人は剣士、あちこちが切り裂かれたボロボロの鎧を身にまとい、整った短い黒髪と黒ぶちの眼鏡が
知性を光らせ、そして、その背にはその剣士の身の丈ほどもある大剣を背負っている。
 一人は弓使い、燃え盛るような赤い髪に黒いバンダナを巻いている。鋭く、生命力に満ち溢れた瞳が
印象的な青年だった。
 一人は音楽家、流れるような水色の長髪にこちらも淡い水色のワンピースを身につけている。全身か
らにじみ出る気品と優しさが育ちの良さを感じさせる女性で、小型の竪琴を脇に抱えている。
 一人は魔導士、太陽の光にも似た金髪をなびかせ、その手には闇よりも深い黒色の杖を持っている。
どこか市井の人間とはかけ離れた、王としての威厳を感じさせる青年であった。
 一人は戦士、エメラルドのウェーブのかかった髪と長身、そして、世の中全ての女性が及ばぬほどの
たぐい稀なる美貌を持った、不思議な雰囲気をかもし出す槍使いだった。
 そして、最後の一人は科学者、ワインレッドの少しパーマのかかった髪をなびかせ、きわめて露出度
の高い服に身を包んでいる。さらにその上から白衣を纏い、彼女の周りに一つの水晶が浮かんでいた。
 彼らは、ここに集まって長い間沈黙していたが、やがて、弓使いが声を出した。
「なんか、な…勝つには勝ったけどよ、全然『バンサイ!』って感じじゃないよな…」
 魔導士が言葉をつなげる。
「確かに、われわれは勝利した…だが…払った犠牲はあまりにも大きかった…!」
 戦士がそれに続く。
「ソード、グランド、クロス、エリス、そしてラディス…それに百人の勇者サン達…グスタフも腕を壊
しちゃったし…五体満足なのって、私達だけになっちゃったわね」
 そう…戦いに勝利したのは人類だった。英雄達の活躍で悪魔王達は全て滅び去った。しかし、そのた
めに払われた犠牲は大きく、百人の勇者は皆帰らぬ人となり、十二闘士も五人が死亡、一人が再起不能
の重症を負いその数を半数にまで減じていた。
 音楽家が話した。
「私…情けないです!皆さん命がけで戦ってたのに私だけこうして何もせずに生き残ってるなんて
…!」
 科学者がそれに答えた。
「ミスティ…そんなに自分を責めるものじゃないわ……それを言うなら、私も同罪」
 場の雰囲気がますます沈む。それを察して、ずっと沈黙を守っていた剣士が声を上げた。
「過去を悔やむのは、これぐらいにしましょう。アキラ、ミスティ、カミーユ、レオン、サラ…確かに、
勝利のためにあまりにも多くの命が失われてしまいました。ですが、忘れてはいけない事があります」
 みんなの目が、剣士―ワシュウ―に集まる。
「私達が、そして今、テラに居る全ての人達が生きていると言う事です。仲間を失ったことは確かに悲
しいことです…しかし、彼らが、そして私達が死力を尽くして戦ったからこそこれほどの命が助かった
んですよ。
 私達が彼らにできる事はその死を悲しむ事ではありません…彼らが残した多くのものを守っていく
事なのではないのですか?」
「私達が守った、多くの命…」
「そう…だな。いつまでもめそめそしてちゃ、あいつらに何を言われるかわからねーぜ!」
 ワシュウの言葉に、みんなの顔に笑顔が溢れていく。どんな時にも絶望しない、強く暖かいワシュウ
と言う名の光に、十二闘士達は集っていったのだ。
 やがて、そのみんなにレオンが声をかける。
「盛り上がっているところ悪いのだがな、今、私達がなすべき事は、ただ一つだ」
「わーかってるわよ、『冬眠』でしょ?」
「ああ、我々の肉体と精神は、長い戦いで傷つき過ぎている。まずはそれを癒さねばならん」 
 サラがその言葉に続く。
「そして、新たな道を歩む人類にとって私達の存在は妨げにしかならない。だから私達は『伝説』とな
る…そうでしょ、レオン?」
 レオンが頷いて肯定する。
 サラは、周囲に置かれた十二個の棺に目を移した。
「戦争が終わった際、十二闘士を封印・保護するための封印装置『アーク』、そのうち五つも使わなく
なるなんてね…」
 アキラが『アーク』を不安げに眺めながら話す。
「ホントに大丈夫なのか、これ?本物の俺達の棺桶になるってことはないよな?」
 アキラの問いに、サラがため息をつきながら答えた。
「大丈夫よ。向こう五千年の安全は保障できるし、何より、この私が作ったのよ?」
「だけど…そのまま伝説と化してしまうのも、いいかもしれませんね」
 ワシュウは『アーク』の中に入りながら呟く。その言葉にミスティも続いた。
「そうですね…一度死んで、生まれ変わる…言うなれば、お母さんのお腹の中みたいなものかな?」
 みんなが、それぞれの『アーク』に入ったところで、レオンが話しかけた。
「みんな…次に目覚めるのはいつの事か分からんが…運が良ければ、また会おう…!」
 そのレオンの言葉を最後に、『アーク』は閉じられ、それぞれ別の方向へと飛んでいった。
 これを最後に、以後十二闘士を見たものは現れず、表の歴史はおろか、裏の歴史の中でもその存在が
表れることはなかった。
 彼らは、『伝説』となった。
 これより後、人類は幾多の戦乱と試練を乗り越え、真に星と融合した世界を築く事に成功する。
 そして、ブラックロッド暦2007年、『真魔戦争』の終結より、実に五千年の時が流れた世界で、
十二闘士達の新たなる物語が始まる…

 

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