WILD HALF


●「俺はきっとこのために生まれたのだ
               おまえと『約束』をするために…」

 

 以上、WILD HALF最終回のサルサのセリフより、でした。

 終わって、もう2、3年以上経つ作品ですが、いまだに私が胸をはって大好きだといえる作品の
一つなのです。

 ちょっとお人よしで単純王な高校生、岩瀬 健人(いわせ たけと)と情の力によって人間に変身する
力を持った犬の獣人族(ワイルドハーフ)サルサの、ちょっと不思議なハートフルストーリー。

 異端の力を持つが為に迫害される存在と、それを受け止めるものの存在。それがこの物語の根幹に
あるのだそうです。
 サルサも、人間の言葉を話せてしまったために色々な人間に捨てられ、いじめられ、やっと巡り会った
飼い主・葛城 三月(かつらぎ みつき)も、サルサを憎む異母兄の志弩のために失ってしまう。
 それから更にさまよって、ようやく運命の相手・健人と出会い、幸せな日常を手にする事が出来る。

 サルサって、普段はホントにわがままなんですよ! 好き嫌いはする、シャンプーは嫌がる、散歩に
いかないと機嫌を悪くする、家計がどうだろうが骨付き肉をねだる……
 挙げ始めたら枚挙に暇がありません。

 でも、いざと言う時にしっかりと締めるサルサや、その不幸な生立ちを考えると、なんだか許せてしまうな
と思ったり…
 でも、健人じゃなきゃ飼ってくれませんよ、そんな犬。人の言葉をしゃべるとか、そういう事をさしひいても(笑)

 で、総括して説明するのが苦手なので、お気に入りのお話ベスト10の紹介を持って、それに代えさせて
いただきたいと思います。


第1位 51話「永遠の雪」

 子犬サルサのエピソード、と言うより、ワイルドハーフ屈指のエピソードですね。

 三月に連れられて雪山のロッジにやってくる子犬のサルサ。そこでサルサは小さくていじめられている犬
チビと友達になる。最初は煙たがっていたけれど、そのうち仲良くなっていくサルサ。

 ある日、三月が白雪草の観察に出かけた時、その近辺で起こったなだれに三月は巻き込まれてしまう。
 それに気づいたサルサとチビが協力して三月を助け出すが、そのすぐ後にチビが…

 チビとよく遊んでいた場所にチビのお墓を作ったサルサ。
 肉を隠すのはヘタなくせに、一番大切な事を隠していたチビ。
 そんな辛い想いで、サルサが呟いてしまった言葉。

「もう、友達なんて作らない……こんな想いをするくらいなら・・・」

 そのサルサの姿を見るたびに、涙が込み上げてきてしまいます。
 そして、それ以上に心を熱くさせ、その心を優しく包みこむ三月の言葉。
 この雪が、いつ溶けるのかとサルサに問いかけた時の三月の言葉。

「消えないんだよ、この雪は。俺達がチビのことを忘れない限り

永遠に、心の中で」

 そして、時を越えて、三月を失った事に悔恨の念を抱くサルサに、健人が同じ言葉を送ります。

 きっと、それは誰にとってもおなじこと。

 大切な誰か、大切な何かを失ったとしても、変わる事のない事。

「永遠に、心の中で」


第2位 72話「長いお散歩」

 銀星、烏丸を語る上で、この話だけは欠かせません。人狼編のラストエピソード。

 人狼(ワーウルフ)化を恐れ、情を寄せる人間・カオルから遠ざかり続けていた銀星。
 しかし、恐れずに真正面から人狼に立ち向かうサルサと健人の姿に心打たれ
二人に希望を託す為に自身の生命力の全てを人狼に叩きこむ。
 そのために、銀星は命尽きてしまう。

 サルサと健人の情の力で人狼が消え去った時、ようやく烏丸がその場に現れる。
 しかし、そこにあったのは力尽きた銀星の姿。

「やっと、やっとあえたのに・・・!」

 銀星を想う気持ちが、烏丸の情の月を満ちさせて、その力で銀星は息を吹き返す。
 烏丸の月が満ちた事を知って、自分の中の人狼も目覚めてしまうと烏丸から離れる銀星。
 でも、銀星の中の人狼は、健人の月の力で既に消え去っていた。

 そして、全ての想いを込めて、カオルが言った一言。

「お帰り……長いサンポだったね」

 この言葉に、カオルの十数年に渡る銀星への想いが込められているんですね。
 ずっと、ずっと遭えなかったけど、それでもきっと遭えると信じ続けて、諦めないでいて、ただ
銀星と会うその日だけを求め続けた、その想い。

 なんにも知らなくても、話さなくても、抱きしめあえる二人。
 ワイルドハーフの宿命ゆえに、遠回りしてしまったけど、情さえあれば出来ない事はないんだと
本当にサルサの言葉通りだと思います。

 銀星の物語は、きっと、もう一つのワイルドハーフなんです。


第3位 114話「旅の結末」

 チャーミィ編の最後ですね。 これはもう、ホントに泣きました!
 もお、あのチャーミィのいじらしさってば、ジャンプで泣かされて、単行本で2度泣かされました。

 捨てられたショックで人間不信になり、営業犬になっていた子犬・チャーミィ。
 その子が自分を手放さなければならなかった理由を知り、情をもう一度信じるために始めた
チャーミィの旅の終着点。

 旭川でウルフと共にようやく見つけた前の飼い主、瞳。だけど、瞳は別の犬と楽しそうに遊んでいる
所だった。

 瞳の元へチャーミィを連れていき、途中でやってきたサルサと(不本意ながら)力を合わせてチャーミィの
想いを直接伝えるウルフ。(なんだかんだ言ってもいい奴です)

 そして伝えられたチャーミィの言葉。それは、恨みでも、疑問でもなかった。
 ただ、チャーミィの目に最後に映った、涙を溜めていた瞳の姿。

「ご主人サマの幸せを見届けるためにきたでしゅよ
                泣いてないか確めるためにきたでしゅよ」

 チャーミィは、少しづつ気付いていたんでしょう。自分が瞳に会いたかったのは、捨てた理由を確めるため
なんかじゃないってことに。
 そして、自分をしっかり持って生きるサルサやウルフの姿を見て、その事に正面から立ち向かう勇気を
持ったのだと思います。

 そして、その結果が瞳の言葉。
 チャーミィを捨てたのは(本当は知り合いのところに預けられたのですが)、病気の兄のせいだったと
いうこと。
 チャーミィがどれほど自分を恨んでいるだろうと後悔し、せめてもの罪滅ぼしに隣の家の犬のサンポ係に
させてもらっていると言うこと。
 そして、チャーミィがそんな事を言ってくれるとは思わなかったこと、チャーミィへの気持ちは、少しも
色あせてはいないこと。

 この後、チャーミィは朋也の元に引き取られ、ウルフは健人達にくっついて北海道を出るのですが
これが思わぬ騒動を巻き起こすのです。


第4位 129話「奇跡の確率」

 で、その騒動のお話。
 このシリーズはもう、ワイルドハーフで一番辛いシリーズでした。

 突然、健人が通うのとは別の高校に転校してきた富豪の御曹司・阿部 祥平にサルサに秘密を
握られてしまい、さらには自分自身の命を人質にしてサルサと健人の情を断ち切ろうとする祥平に
二人は引き離されてしまう。

 もう、毎週毎週、ジャンプのワイルドハーフのページを読むのが、ホントに辛かったです。
 もー、読むのやめちゃおうかな、と思ったぐらい。
 でも、やめなくてよかったですよ。

 祥平が依頼した暗殺者と言うのが、なんと、北海道で会った天然人狼(ワーウルフ)・ウルフだったのです。
 しかし、依然とは別人のように冷酷にサルサを殺そうとするウルフ。
 途中、銀星が加勢に来るもウルフにやられ、その爪がサルサと祥平にも伸びる。

 その時、サルサを助けに現れたのは、絆を断ちきられてしまったかと思った健人!
 そんな健人と銀星、吉康の力でウルフを倒すことが出来たサルサ。

 そして、ウルフを倒した時にサルサが知った真実。
 それは、祥平こそがウルフが捜し求めていた友達・タカハシだったということ。

 ワナにかかっていたウルフを助け、食事の世話をしてくれていたタカハシは、ある時事件か事故によって
失踪し、記憶喪失となっていた。
 その後、阿部 祥平として引き取られた先には、一欠けらの優しさすらなく、冷たさと欲望だけが渦巻いて
いる中で祥平は誰かを信じる心を失っていった。
 健人とサルサの絆を壊そうとしたのも、お互いに一片の疑いもなく信じあっている二人がうらやましかった
からなのだ。

 一方のウルフは健人達にくっついて来てからタカハシを探しつづけ(遊び続け、とも言う)、ある時
訪れたクラブで、偶然タカハシ(祥平)と再会する。
 しかし、タカハシはすっかり変わり果て、彼を追いかける間に彼を守ってケガを負ってしまった。
 その時、昔と同じように自分を手当てしてくれたタカハシを見て、ウルフはタカハシが心の奥底では
変わってなんかいないということを知る。
 そして、一人ぼっちな彼の為に、彼のためだけの何でも屋となったのだ。

 ウルフの告白を受け、それまでの頑なな心が崩れていくタカハシ。

「なんでも叶えてやるぞ。お前が望みさえすれば」

「情、寄せ合う相手見つかる? あの二人みたいな」


「ウルフじゃだめか?」

 くぁ〜〜っ! かっこいいぞ、ウルフ!

 この一言を書きたいが為にいままでだらだらと説明文を書いていたのですっ!
 ウルフって、ずっと自然の中で生きてきたから、とっても自由で純粋なんです。
 だから、その行動、その言葉には一片の偽りだって無く、拙い言葉だからこそ心に響く。
 チャーミィの時も、ウルフの一言に止めをさされましたから。

 この後、髪を切ってウルフと共に北海道に帰ったタカハシは、数年後に大学で健人達と再会することに
なるのです。
 ウルフにはずいぶんと苦労なすってるみたいで…


第5位 136話「忘れずにいるために(後編)」

 第5位にしてようやくサルサ、健人のエピソードです。だって、サルサと健人のエピソードなんて
多すぎて多すぎて、どれを選んだものやら、って感じなんですもの。

 でも、このお話もサルサの過去話。
 サルサが三月と死に別れ、健人と出会うまでのお話なのです。

 そこで明かされたのは、あの第1話が二人のファーストコンタクトではなかったということ。
 正直、これにはびっくりしました。知っていることが真実ではないということのいい例です。

 2人がであったのは夏の海、おぼれた健人をサルサが助けたのがきっかけだったのです。
 それからサルサは無意識のうちに健人の後を追い、相棒・忠治の助言で勇気をだして
健人に話しかけることになるのです。

 そう、この話の肝は、サルサがあの時、どんな気持ちで健人に話しかけたのか。あの時、どんな気持ちで
健人の言葉を聞いていたのか。

 健人に話しかけることが、どれほどの勇気が要ることだったのか。
 健人と情で繋がり合えることが、どれほど幸せなことだったのか。
 健人に対して、どれほどの思いを抱いているのか。

 サルサのことをすっかりただのワガママ犬だと思っていたところに、ガツン、とやられた1話でした。

 そして、それほどの思いだから、健人には伝えない。
 口に出してしまえば、それはただの言葉だから。

 そして、おなじだけの思いを、サルサに対して抱いている人物(?)がいます。
 それは、銀星と吉康にサルサの過去を教えたワイルドハーフ・忠治。
 忠治もまた、サルサが大切だから、自分がワイルドハーフであることすらサルサには教えない。

 そんな、思いで繋がった接点を持つ二人は、近い未来に再び運命が結びつくのです。

 

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