第13話 「絆で繋がって」

 



 九州での戦いよりはや2週間。当初の予定通り草薙沙耶香は美空小学校へと転校してき
た。それも、瞬と同じクラスへ。そこで当然の如く一騒ぎあったのだが、それも徐々に落
ち着きを見せ、今では沙耶香もすっかりクラスに溶け込んでいる。
 さりとて、未だ心中穏やかではない少女が一人いた。星崎瞬の幼馴染にして『白き力の
勇者』のことを知る数少ない人間の一人、天宮亜希その人である。
 その日も亜希は余りよろしくない目覚めを迎えていた。瞬と沙耶香が付き合っている夢
なんぞを見てしまったためだ。瞬と沙耶香がキスしようとしていたところで眼が覚めた。

「……最悪」

 夢見の悪さと、それに嫉妬した自己嫌悪のダブルパンチで、亜希は思わずポツリと呟く。
亜希は気分をすっきりさせようと洗面所へ向かう。こういう時は顔でも洗って眠気ごとす
っきりさせてしまうに限る。

(……草薙さんも、関係者、なのよねぇ……)

 沙耶香が転校してきたその日に、亜希は瞬からその事を告げられた。同時に、自分がそ
のことを知っている事も瞬が沙耶香に教えている。

(だからどうしたって訳でもないけど……)

 けれども、最近瞬がどんどん遠くに行ってしまっている気がする。そんなことを思いな
がら蛇口をひねった時、電話が鳴り響く音が聞こえた。

「亜希ー、出てー」
「はいはーい」

 母の声に適当に答えながら亜希は受話器を手に取る。

「はい、天宮です」
『あ、亜希? ボクだよ』
「って、瞬っ!?」

 予想外、というか丁度瞬の事を考えていたところだったので、亜希は二重に驚いて声を
裏返してしまう。居間の家族が怪訝な顔でこっちを見る。ちょっとバツが悪そうに顔をし
かめつつ、亜希は電話に意識を戻した。

「ど、どうしたのよ……こんな朝早く……」
『あ、うん。ごめんね。ボク、今日、学校休むから』
「休むって……どうしたの? 風邪でも引いた?」
『あ、違うんだ……実は……』

 その直後、瞬の目的と行き先を告げられた亜希は、今度こそ掛け値なしの叫び声を上げ
てしまった。

「今から札幌ぉぉっ?!!」

 今度は、家族の白い目も意識に入らなかった。

 

 


 亜希が切れた電話の向こうでかんしゃく玉を爆発させている頃、瞬はすでに機上の人だ
った。今回の移動のために用意された、草薙家専用ヘリコプターの中である。傍らには沙
耶香と由美が同乗し、操縦席では沙耶香付きの執事・倉之助が巧みなヘリ捌きを見せてい
る。
 瞬が電話の向こうの亜希を想像して苦笑していると、それを察した沙耶香が同じように
苦笑しつつ声をかけてきた。

「亜希ちゃん、怒ってらっしゃいました?」
「多分ね。うう、帰って顔を合わせるのが怖いなぁ……」

 そう言って冷や汗を流す瞬に、前の席に居る由美が意地悪な笑みを浮かべながら追い討
ちをかける。

「これもヒーローのさだめってヤツだよ。まぁ、せいぜい覚悟しとくんだね」
「由美姉ちゃぁぁぁぁぁん!」

 由美の言葉に、情けない叫び声を上げる瞬。その脳裏に蘇るのは彼のトラウマとなった
いつぞやの尋問のことか。一応、そのことも聞いている沙耶香はどう慰めたものかと困っ
た笑みを浮かべている。
 さて、彼らが何故札幌に向かっているのかというと、当然、そこには理由がある。
 三日前の札幌における戦いにおいてツヴァイオウガが敗北、敵に捕獲されたという情報
が届いた。その直後から捜索が行われていたのだが、つい先日そのツヴァイオウガが札幌
郊外に現れ破壊活動を行ったという報告が入ったのだ。
 報告を受けたトライガーダーが現場に向かったが、ツヴァイオウガはすでに去った後で
あった。
 そのツヴァイオウガはいつかの様に偽者であるかもしれないし、何らかの方法で操られ
た本物なのかもしれない。だが、どちらにしろ戦力のない札幌支部では対処しきれない状
況となったため、BBS本部に応援要請が入ったというわけである。

『だが信じられん。あのオウガが敗れるとはな……』

 瞬のビーストコマンダーに収納されたフェリスが、信じられないといった風に言葉を漏
らす。それに気づいた沙耶香は、瞬の左手に視線を移す。

「そんなに強い方ですの?」
『ああ。重力を司る勇者・オウガ……単純な戦闘力で言うなら、間違いなく俺たちの中で
最強の勇者だろう』
『確かにな……だが、性格に難がある』

 後を継ぐようにエリオスが割って入る。沙耶香のビーストコマンダーから聞こえるその
声に、かすかな苛立ちが混じっているような気がするのは気のせいだろうか。

『ムラっ気が強くガサツな乱暴者で……どうせ今回も、油断をして不覚を取ったに決まっ
ている……!』
「珍しいですわね、エリオス。貴方が人をそんな風にいうだなんて……」

 沙耶香は、普段聞かないような従者の言葉に目を丸くする。瞬もまたそんなエリオスの
言葉を受けて左手のフェリスにそっと耳打ちした。

「もしかして、二人って仲が悪いの?」
『ああ、まぁ、『犬猿の仲』というやつだな。顔を合わせればいつも口論していた』

 フェリスも、コマンダーの中で苦笑しながら答える。なるほど、オウガが聞いたとおり
の性格なら厳格な騎士のエリオスとではいささか相性が悪いかもしれない。
 瞬達がそんなことを話しているとヘリに通信が入り、由美がそれに応答する。始めこそ
軽い調子で受け答えしていた由美だったが、その顔が徐々に真剣味を帯び始めてきた。そ
して受話器を置くと、由美は固い表情で後ろを振り返る。

「おしゃべりはそこまでだよ、あんたら」
「……由美ねーちゃん?」
「『ヤツ』が現れた。今、トライガーダーが応戦してる」
「「ッ!?」」

 それを聞き、瞬と沙耶香も顔をこわばらせる。こちらが準備を整えるよりも早く、向こ
うは動き始めていたのだ。二人の左手のビーストコマンダーからフェリスとエリオスが緊
張している様子も伝わってくる。
 由美はその様子を確かめると、操縦桿を握る倉之助に視線を向けた。

「倉之助さん、頼む」
「承知致しました」

 倉之助は短く答えると、ヘリの進行方向を大きく変えた。

 

 


 その頃。札幌市郊外のダム付近で2体の巨大ロボットが戦闘を繰り広げていた。
 一方は槍を携えた青き自然の守護者、トライガーダー。
 もう一方は紫紺の鎧を纏った重力の闘神、ツヴァイオウガ。だが、ツヴァイオウガはそ
の本来の装甲の上に、更に黒い機械群の甲冑を纏っている。

「ガァァァァァァァァァッッ!!!」

 獣じみた咆哮を上げ、ツヴァイオウガが力任せに殴りかかる。トライガーダーはそれを
手にしたネイチャーランサーで受け止めるが、そのパワーに弾き飛ばされた。ツヴァイオ
ウガは更に追撃を仕掛けようとするが、飛び上がったところにエレメントショット・ウィ
ンドを当てられ弾け飛び、その間にトライガーダーは体勢を整えた。

「クッ……! 目を覚ましてください、オウガ!!」

 先程からもそうであるように、トライガーダーは防戦に徹し、必死にツヴァイオウガを
説得しようと試みている。しかしツヴァイオウガは正気を失っているのか、獣のような唸
り声を上げながら襲い掛かるばかりだ。
 敵を倒す事しか頭にないとばかりに、ツヴァイオウガは両肩のキャノン・ソーダーキャ
ノンを前方にマウントさせる。

「ガアァァァァァッッ!!」

 咆哮と共に、トライガーダーめがけてソーダーキャノンが発射された。トライガーダー
はそれを受けきれないと判断し、とっさに空中に舞い上がってそれを避ける。だが、空高
く飛び上がったトライガーダーを追って、ツヴァイオウガもまた翼を広げて空へと飛び上
がった。

(チッ! ヤツも飛べるのかよ! 何でもありだなァ、オイ!)
(空なら、まだ多少は我らに分がある。だがっ……!)

 トライガーダーが空を舞って逃げる中、ツヴァイオウガはソーダーキャノンを連射しな
がらそれを追う。トライガーダーは砲撃を巧みにかわしていくが、それでは状況が変わら
ない。

「仕方ないっ……!」

 やはり、何らかの手段で一度ツヴァイオウガをおとなしくさせるしかない。そう結論付
けたトライガーダーは槍を左手に持ち替え、開いた右手にエレメントショット・ウィンド
を生み出す。そして砲撃をかわすと同時に反転、一気にツヴァイオウガに襲い掛かった。

「ハアァァァァッッ!」

 ツヴァイオウガの懐に潜り、風の圧縮弾を叩きつける。それは狙い違わずツヴァイオウ
ガの真芯を捉え、着弾と同時に爆発、ツヴァイオウガを吹き飛ばした。

「グガァァァァァッッ!!?」

「……よしっ」

 吹き飛ばされたツヴァイオウガは、ダムの湖面に向かって落下していく。この速度で水
面に叩きつければ、少しは動きを鈍らせるくらいはできるだろう。
 だが、それでもまだ、トライガーダーはツヴァイオウガを甘く見ていた。
 湖面に叩きつけられるかと思われたツヴァイオウガはその直前で急制動をかけ、まるで
見えない地面に跳ね返ったかのようにトライガーダーへと襲い掛かってきたのだ。

「ガアァァァァッ!!」

「なぁっ!?」

 とっさの事に、トライガーダーの反応がわずかに遅れる。その隙にツヴァイオウガはト
ライガーダーの顔を鷲掴みにし地上に向かって反転、そのまま湖面に向かって急加速した。

「グガァァァァァァァァァッッ!!」

 ツヴァイオウガは自身ごとトライガーダーを水面に叩きつけ、その衝撃で盛大な水柱が
上がる。更にその水柱は岸に向かって突き進み、トライガーダーの後頭部をこすりつけな
がらその姿を土煙へと変える。

「ぐあぁぁぁぁっっ!」

「ガァァァッ!!」

 ツヴァイオウガは更に掴んだ腕へと力を込め、トライガーダーを地面に埋め込む勢いで
大地を砕きながら突き進む。
 だが、そのツヴァイオウガに向かって二つの影が飛び込んできた。

「「ハァァァァァァァァッッ!!」」

 飛び込んできた二つの影、フェリスとエリオスはツヴァイオウガの顔面と胴体に向かっ
て同時に飛び蹴りを入れた。それはカウンターのようにツヴァイオウガに突き刺さり、ツ
ヴァイオウガ自身の力をもプラスしてその巨体を弾き飛ばした。

「グガァァッ!?」

 ようやく開放されたトライガーダーは土の山を築きながらようやく停止する。ツヴァイ
オウガの落下と同時に着地したフェリスとエリオスはトライガーダーを振り返った。

「すまん、遅くなった!」
「大丈夫か!?」
「は、はい……助かりました……」

 二人の問いに、トライガーダーはよろよろと上半身を起こしながら答える。すぐに立ち
上がれないあたり、それなりのダメージを負っているのだろう。

「気を、つけてください……オウガは……」
「言われずとも、その姿を見れば分かる」

 トライガーダーが告げようとした矢先、エリオスが先んじてはき捨てるように呟く。そ
の姿には、少なからず苛立ちが表れていた。

「……やはり操られていたか、馬鹿者めが……!」

 そうして苛立ちと同時にオウガへの気遣いを潜ませるエリオスに、フェリスは思わず苦
笑する。なんだかんだ言ったところで、仲間としては十二分に信頼しているのだ。

「エリオス、ひとまずオウガを止めるぞ。これ以上暴れさせるわけにはいかん」
「無論だ。寝ボケ虎め、力づくででも目を覚まさせてやる……っ!」
「無理はするなよ。あと少しすれば、瞬達もここに着く」

 いつもよりも乱暴にナイトソードを抜き放つエリオスに、ウルフマグナムを取り出しな
がらフェリスが釘を刺す。「こういった無茶を諌められるのは俺なんだがな」とらしくない
状況に苦笑するが、すでに体勢を整えたツヴァイオウガが戦闘態勢に入っている。
 フェリスとエリオスは頷きあい、猛り狂うツヴァイオウガに向かって走り出した。

 

 


 勇者同士がぶつかり合っているその場所に向かって、瞬と沙耶香は並んで走っていた。
都合よく降りられる場所がなかったのでちょっとばかりアクション映画の真似をしてしま
ったのだが、その辺は一応瞬の名誉のために割愛する。
 そして二人は、フェリスとエリオスが戦闘を開始して程なく彼らを視界に納められる場
所にまでたどり着く事が出来た。

「あれが、オウガ……?」

 勇者二人相手に暴れ狂う黒い勇者を目にして、瞬は愕然とした声を上げる。瞬の目に映
るツヴァイオウガは本来の仕様に無い黒いパーツのために禍々しく変化しており、暴れま
わるその姿を含めそれまでの勇者達とはあまりにイメージがかけ離れている。
 一方の沙耶香も瞬とほぼ同じ感想を抱いたのか、厳しいまなざしを向けるその頬には冷
たい汗が伝っている。

「やはり、今のままでは少々厳しいようですわね……」

 やはり、合体していないフェリスとエリオス、それにダメージを負ったトライガーダー
ではツヴァイオウガを押さえ込むのは難しいようだ。なんとか食らいついてはいるが苦戦
を強いられている。
 瞬と沙耶香はアイコンタクトを交わすと、左手のコマンダーに手を添えた。

「「コマンド……!」」

 そして、合体指示のスイッチを押す。そのわずかな間に、何者かが瞬達の脇を駆け抜け
て行った。

「「!?」」

 その場に別の人間がいたことに驚き、瞬と沙耶香はスイッチを入れることをためらう。
その人物――ローラーブレードで駆け抜けた少年――は戦場であるそこに恐れもなく向か
いながら叫びを上げた。

「オウガァァァァァァァァァァァァッッ!!!」

 その少年が上げた叫びに、瞬と沙耶香は二重の意味で驚いた。一つは無論、この見知ら
ぬ少年が暴れるロボットの名を知っていたという事。
 そして、もう一つ。

「グ……グゥゥゥ……グァァァァァァァァァァァッッ!!?」

 少年の叫びに反応したかのように、ツヴァイオウガが突如として苦しみだしたのだ。そ
の余りに急な変貌に、フェリス達も唖然となって攻撃の手を止めている。

「ガッ……ガアアアッッ……」

 頭を抑えて苦しむツヴァイオウガは、その苦しみに耐えかねついには肩膝をついた。そ
して、その瞳に、かすかにだが正気の色が戻る。

「……ラ、イ……ト……」

 その言葉に、少年がハッとなって更に叫ぶ。

「オウガッ! 気づいたのか、オウガッッ!?」

「グッ……ガァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 少年が喜びの声を上げたのもつかの間、ツヴァイオウガは絶叫すると弾かれたように飛
び上がり、瞬く間にその場から離脱していった。
 瞬も沙耶香も、フェリス達も皆、それをただ呆然と見送るしかない。
 ただ、少年だけが一人、苦い表情でそれを見送っていた。

「……ちっ」

 少年は振り返り、瞬と沙耶香を見る。まるで値踏みをするかのように二人を交互に見比
べ、そして、ひとつため息をついた。

「……余計な手出しはすんなよ」
「え……?」

 突如放たれた突き放す言葉に、瞬は驚く。その反応に興味がないとばかりに少年は瞬と
沙耶香の脇を通り過ぎようとした。しかし、通り過ぎようとしたその瞬間、沙耶香がその
肩を掴んで少年を止める。

「少々お待ちを」
「何だよ」

 少年は鋭い目つきで沙耶香を睨みつける。が、沙耶香もそれに負けじと視線を返し少年
の視線を受け止めた。

「失礼ですが、あなたは何者ですか? あの、黒いロボットと、何か関係が?」
「あ? 関係ねーだろ」
「さっ、沙耶香ちゃんっ」

 にらみ合う二人に、瞬はあわあわと二人を見比べる。
 少年のその強情さに観念したのか呆れたのか、沙耶香はほうっとため息をつくと少年の
肩に置いていた手を離した。

「私、雷の勇者・エリオスのビーストマスター、草薙沙耶香と申します」

 沙耶香はそういうと、隣に並んでいた瞬を促した。うろたえていた瞬はすぐには気づか
なかったが、それでも沙耶香の意図を理解して少年に向き合う。

「ボクは、炎の勇者・フェリスのビーストマスター、星崎瞬」
「よろしければ、あなたのお名前も、教えていただけますか?」

 そう言って、沙耶香は最後に完璧な笑みを浮かべて締めてみせた。少年は苦い表情にな
りながらがしがしと頭をかきむしり、やがて観念したかのようにため息を漏らす。

「北山雷人。あのバカトラ、重力の勇者・オウガのビーストマスターだよ」

 その少年、雷人の言葉に、瞬は驚きの、そして沙耶香はやっぱりと言った納得の表情を
浮かべたのだった。

 

 


 その後、雷人を加えた三人はやってきた倉之助に連れられてBBS札幌支部へとやって
きた。
 そして司令室に入るなり、白衣を着た老人が瞬達目掛けて駆け寄ってくる。

「何をやっておったんじゃ、この悪ガキめがぁっ!」

 古武術の心得のある沙耶香ですら反応できぬ速さで、老人は雷人の頭に拳骨を振り下ろ
していた。しっかりと力が篭っていた証として鈍い音が響く。

「痛っ!」
「全く、後はワシらに任せて危ない真似はするなとあれほど言ったじゃろうが」

 老人の話を右から左へ流すかのように、雷人はつまらなさそうにそっぽを向く。

「知るか。性に合わねぇんだよ」

 話は終わりとばかりに、雷人はさっさと部屋の中へと入っていってしまった。それを見
て、瞬は老人へと話しかける。

「お、おじいちゃんっ!」

 そう呼ばれた老人、星崎瞬の祖父、星崎清十郎は心底嬉しそうな笑みを浮かべて瞬の頭
を撫で回し始めた。

「おお、瞬! 随分見ない間に大きくなったのぅ!」
「う、うんっ。おじいちゃんも、元気でよかった!」

 余りに力強くわしゃわしゃとかき回されているので瞬の頭はかっくんかっくん動き回る
が、それでも瞬は喜びをあらわにそれを受け入れている。
 そんな祖父と孫のやり取りを、沙耶香と雷人は少々驚きながら見つめていた。

「星崎博士、瞬君のお爺様でいらっしゃたんですのね……」
「……苗字も同じ『星崎』だったよな、そーいや」

 二人がひとしきり再会を喜び合ったところで、瞬のビーストコマンダーからフェリスと
プラムがそれぞれ姿を現した。フェリスはただ清十郎を見上げ、プラムは清十郎に向かっ
て一礼する。

「いいか、清十郎?」
「お久しぶりです、清十郎博士」
「おお、済まんかったの。久しぶりに孫に会えて嬉しくてのぅ」

 清十郎は恥ずかしげに頭をかくと咳払いを一つ、コンソールに向かって歩き出しながら
説明を始めた。

「ツヴァイオウガが敵に捕らえられたのが三日前。その捕らえられる直前にオウガが緊急
脱出させたビーストマスターを保護したのが二日前じゃ。
 それとほぼ時を同じくしてツヴァイオウガが小樽に現れ破壊活動を行っておる」
「そこには、何か重要な施設等があったのか?」

 そのフェリスの問いに清十郎は首を横に振る。

「いや、特に何も。ワシらが現地についた時にはすでに立ち去ったあとじゃったしの」

 そして清十郎はコンソールを操作し、メインモニターに北海道の地図を表示させた。そ
の中の小樽の位置が赤い光点で示されている。

「そして一日間を置いて、次がお主らが戦った……ここじゃ」

 次いで、札幌の郊外、ダムのある位置に同じく赤い光点が現れた。さらにその光点から
東に向かって矢印が伸びる。

「お主らと交戦した後、大雪山方面へ飛び去ったのを、ウチの観測員が確認しておる」
「東へ移動しているのでしょうか……?」
「うむ。確証はないが、恐らく、最終的な目的地はここではないかと推測しておる」

 プラムの問いに清十郎は肯定の意を示す。
 そうして清十郎がコンソールを操作すると、大雪山のさらに東のある地に赤い光点が、
より大きく現れた。

「かつてオウガが発見された地。その遺跡に刻まれた文字より、ワシらは『重力の封印』
と呼んでおる場所じゃ」

 

 


 大雪山。その山中にツヴァイオウガが着陸したのは、フェリス達との交戦から離脱して
程なくしてからの事だった。
 ツヴァイオウガが膝をつくとその瞳から光が消え、全身の関節からおびただしい量の蒸
気が噴出される。

「随分、苦労しているようだな、ヴァンダーツ」
「……」

 ツヴァイオウガが、瞳の光が消えたままで上を見上げる。そこにいたのは、白き鎧を纏
ったダークネス・ヘキサ、黒騎士シュバルツの愛機・ヴァイスリッターだった。

「その勇者を押さえつけるのに、随分とてこずっているようではないか」
「問題無し。思考ノイズ発生。現在沈静」

 黒騎士の嘲笑交じりの問いに、ツヴァイオウガのコクピットに座るヴァンダーツは相変
わらずの片言で機械的に答える。
 現在ヴァンダーツは、複数の黒鍵機でツヴァイオウガの外殻を乗っ取ると同時に、自ら
ツヴァイオウガの内部に乗り込んでオウガ自身の意思を押さえつけている状態にある。こ
うすることで、一時的にではあるが擬似的に重力の勇者として活動させているのだ。

「……確認」
「何だ?」
「『重力の封印』、発見。後、破壊。確定」

 そのヴァンダーツの現在の任務は『重力の封印』と呼ばれる遺跡の発見と破壊。同じ四
星士の黒騎士の依頼によるものである。正直、この暗黒の使徒の歯車の様なサイボーグが
同格である自分の依頼を受けたというのは、黒騎士にとっては意外だった。

「……ああ、それで構わん。必要ならば、私も手を貸すが」
「不必要。現状戦力、任務達成、十分」

 ヴァンダーツは擬似的に重力の勇者として機能することにより、同じ力を持った『重力
の封印』を見つけ出そうとしている。これまでの三日間は、よりツヴァイオウガの力を制
御するための調整期間だ。
 先程の戦いで一瞬オウガの意識が戻りかけたが、それももう押さえつけてある。
 問題要素は、何もない。

「……出撃」

 ツヴァイオウガの瞳に再び光が灯り、再び空へと飛び上がった。

 

 


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