七星勇者フェリスヴァイン
一方、フェリスを捕まえて走り去っていた瞬は、学校近くの林の中に駆けこんでいた。
瞬はようやく立ち止まると、乱れた息を整え始める。
その腕には、フェリスがいまいち状況を把握できていない顔で抱きかかえられていた。
フェリス「あのー……瞬?」
瞬「へ? ……あ」
フェリス「とりあえず、降ろしてくれないか?」
瞬「う、うん」
言われてようやく気付いた瞬が、フェリスを地面に下ろす。
フェリス「どうしたんだ? いきなり駆け出したりして」
瞬「それはボクのセリフだよ。なんで、あんな人目につくところに居たの?」
フェリス「いや、俺は瞬を待っていただけなんだが……」
瞬「フェリスって、目立っちゃいけなかったんじゃ……」
フェリス「瞬、俺だって、人前でしゃべるほどうかつじゃないぞ」
フェリスはそう言って笑った。
フェリスのその言葉に、瞬もはたと気付く。
瞬「そういえば、そうだよね」
そう言って、瞬は照れ笑いを浮かべる。
瞬「ところで、ボクに何か用?」
フェリス「ああ。お前を案内したいところがあってな、探していたんだ」
瞬「案内したい、所?」
きょとんとしている瞬に、フェリスは微笑んで頷く。
そして続けられた言葉は、瞬が予想していなかったものであった。
フェリス「俺の、秘密基地だ」
そして、フェリスに連れられてそこにやってきた瞬は、目の前に広がる光景をぽかんと
しながら眺めていた。
そんな瞬を不審に思って、フェリスが声をかける。
フェリス「瞬、どうした?」
瞬「こ、ここって……」
瞬はうわごとのように言葉を発する。
しかし、次の瞬間。
瞬「ここって、由美ねーちゃんの職場だよぉぉぉぉぉっ!!?」
フェリス「こ、声が大きい!(こそっ)」
そう、割れんばかりの大声で叫びながら瞬が指差す先には、純白の壁と広い敷地を持つ
3階だての建物がそびえたっていた。
更に瞬の指は、その建物の門につけられている看板を指差している。
そこには、こう書かれていた。
『ヒューマンインダストリ 美空研究所』
大手科学企業のヒューマンインダストリには、瞬の従姉で扶養者である由美が
研究者として勤務しているのである。
当然、瞬は由美への用事でここに来た事は何度もあるのだが、そんなこととはまったく
わからないフェリスは、瞬の驚きぶりに呆然としながら瞬に訊ねるより他無かった。
フェリス「瞬、知っているのか?」
瞬「知ってるも何も、ここ、由美ねーちゃんが働いてる研究所だよ!
ボク、何度か来たことあるもん!」
フェリス「由美とは、誰だ?」
瞬「ボクの、従姉のお姉ちゃんだよ。一緒に住んでるんだ」
フェリス「そうなのか」
フェリスは辺りを軽く見まわして、特に人が通っていないのを確認すると
瞬に声をかけた。
フェリス「まあ、それよりも、だ。こっちだ」
瞬「あ、フェリス!」
瞬は、別の方向へと歩き出したフェリスの後を慌てて追いかけ始めた。
そして、瞬が案内されたのは、研究所の裏の少し離れた森の中の洞窟だった。
美空研究所は美空市唯一の山、高峰山(たかみねさん)のふもとにあり、場所から言えば
研究所よりもさらに山の中に入ったところとなる。
ちなみに、高峰山は山一つが丸ごとヒューマンインダストリの所有物なので、広い意味で言えば
瞬たちが居る場所も美空研究所の敷地内と言うことになる。
瞬「この洞窟なの? フェリスの秘密基地って」
フェリス「ああ、そうだ。付いて来てくれ」
フェリスはそう言うと、洞窟の中へと入っていった。瞬もそれに続いて洞窟に入る。
洞窟の中の地面は、少々デコボコがあるけれども、思ったよりもかなり平坦な道だった。
そこには明らかに人が手を加えた跡が認められる。
それに、どう言った理由か洞窟の周囲の壁は淡い光を発しており、おかげで瞬はさほど
戸惑う事も無く洞窟を進む事が出来た。
そうして歩く事わずか、ふたりは突き当たりにぶつかった。
瞬「行き止まりだよ?」
フェリス「まあ、見ていろ」
フェリスは微笑むと、突き当たりの壁に向かって一声吠えた。
すると、岩盤の一部が上にスライドしていき、その中からエレベーターらしきものが
姿をあらわした。
瞬は、その様をただ呆然として見ている。
フェリス「さ、このなかだ」
瞬「う、うん」
促されて、瞬はフェリスと共にエレベーターに入る。
エレベーターは下降を始め、スライドしていた岩盤が元の位置に戻り、元通りの壁となった。
エレベーターが下降する事しばし、エレベーターがその動きを止め、瞬の前の扉が開く。
ドアの向こうは広い感じのエレベーターホールになっており、明るい照明がリノリウム
の床を照らして清潔感をかもし出す。
その隅に置かれた大きめの観葉植物の横、三人がけほどのベンチに、一人の女性が座っ
て本を読んでいた。
左側でテールにした緑の髪と、同じく左側にある泣きボクロが特徴的なその女性は
エレベーターから誰かが下りてきたのに気付くと、手にしていた本を閉じて立ちあがり
瞬のほうを向いた。
そして、フェリスに向かってにっこりと微笑む。
?「おかえりなさい、フェリスさん」
フェリス「ああ、ただいま、輝美(てるみ)」
フェリスは、輝美と呼んだ女性に笑顔であいさつを返す。
瞬は、いまいち状況をつかめていない顔でフェリスと女性を見比べていた。
そんな瞬の様子に輝美が気付く。
輝美「フェリスさん、その子は…?」
フェリス「昨日、話していた少年だ。名は、星崎 瞬」
輝美「まあ。この子が…」
そう言って輝美は、瞬のほうを向いた。
瞬「え、えっと、ほ、星崎 瞬です!」
瞬は、慌てたようにぺこりと礼をする。
それを見て、輝美も微笑みながら礼をした。
輝美「初めまして。 私は、本日基地のナビゲートをさせていただく、BBS司令室所属の
オペレーター、秋月 輝美(あきづき てるみ)と申します。
どうぞ、よろしく!」
瞬「よ、よろしくおねがいします……」
瞬は、戸惑いながら輝美と握手を交わす。
瞬「あの、BBSって?」
輝美「BBSとは、Brave Beast Seversの頭文字を取った略称で、フェリスさん達
『白き力の勇者』をサポートする組織の事です」
フェリス「俺達の機体の整備や開発、戦闘区域周辺の支援などをしてもらっているんだ」
フェリスが輝美の後に続けて説明する。
輝美「それでは、実際に基地の中を案内しますね。
私の後に付いて来てください」
そう言うと、輝美は瞬に背を向けて歩きだす。
瞬は少し戸惑ったが、フェリスに促され、輝美の後について歩き出した。
輝美「こちらは格納庫です。
フェリスさんのボディとなる「ウルフランダー」などがあるんですよ」
輝美が指差す廊下のガラスの先には、だだっ広い空間があり、輝美が言う通りその中には
先日フェリスがロボットに変形した赤い車があった。
その車の先、少し薄暗くなっているところに、瞬は何か巨大なトレーラーのようなもの
を見つける。
瞬「えっと、輝美さん。あれは?」
輝美「あれ…ですか? ふふっ、あれはですねぇ」
輝美は小さく笑うと、人差し指を口の前に立てる仕草をした。
輝美「まだ、ひみつです」
瞬「ひみつ、なの?」
輝美「ええ。では、次のところへ行きましょう」
その後瞬は、フェリスの体の研究・開発をしている技術室や、BBS隊員のための談話室
資料室などに案内された。
すっかり最初の頃の緊張がほぐれた瞬はその度に眼を円くして驚いたり、はしゃいだり
してそれを見るフェリスと輝美を微笑ませた。
そして、最後に輝美が連れてきたのが、大きな廊下の先にあった大きな扉の前だった。
瞬「ここは?」
輝美「ここが、我がBBSの司令室ですよ。
司令以下、BBSスタッフの方々が瞬君がいらっしゃるのを待っているんです」
瞬「ボク、を?」
瞬が、自分を指差しながら怪訝な表情をする。
フェリスは、瞬がそういった反応をするであろうことをあらかじめ予期していたのか、
戸惑っている瞬を促した。
フェリス「さあ、行こう、瞬」
瞬「う、うん」
フェリスの声を聞いて少しは安心したのか、幾分ほぐれた表情で瞬が頷く。
それを見てフェリスは、目配せで輝美に合図した。
輝美もそれに頷いて応える。
輝美「では、開きます」
輝美が一歩前に出ると、扉は自動的に左右へと開いていった。
瞬はその様子を、固唾を飲んで見守る。
扉が開ききったその先には、正面に巨大なスクリーンが備えられ、あちこちに様々な
装置やデスクなどが備えられたとても広い部屋があった。
一歩、中へ入ってみると天井もとても高く、扉のすぐ左隣にあった壁だと思ったものが、
壁の中央ほどにある、すこし高い台のような場所であることが分かる。
瞬は、ただただ声を上げて、その近未来的な空間を見回していた。
瞬「うわ、あぁぁぁぁぁ……!」
輝美「いかがですか? ここがBBSの司令室です」
輝美が少し前に出て、そして、瞬の方を振り返った。
輝美「では、改めまして……」
こほん、と一つ咳払いをする。
輝美「ようこそ! Brave Beast Severs本部へ!」
瞬は、輝美に導かれて、司令室の中央まで来た。
先程は気付かなかったけれど、スクリーンの近くの席に何人かの人が座っており
全員が作業の手を止めて瞬の方を見ていた。
みんなに見られているのを知って、瞬が少し気後れする。
それを察して、フェリスが瞬に声をかけた。
フェリス「緊張しているのか?」
瞬「う、うん……」
フェリス「大丈夫だ。ここにいるのは、いい人達ばかりだから」
瞬が、その言葉に頷いて応える
フェリス「……瞬、お前に会わせたい人がいる」
瞬「ボクに?」
フェリス「ああ。……輝美」
輝美「あ、はい!」
頷いて輝美は、少し高くなっているその場所の前までやってきた。
輝美「司令! 例の少年をお連れしました!」
司令「ああ。ごくろうだった」
瞬「!?」
その台の影から、低い男性の声が聞こえた。
それが司令の声であることは容易に想像がついたが、それよりも、瞬は聞こえてきたそ
の声に驚いた。
瞬は、その声によく似た声の持ち主を、よく知っていたのである。
そんな瞬の動揺をよそに、階段を降りる足音が響き、それがだんだん瞬に近づいてきた。
でも、瞬は振り返ってその姿を確かめることが出来ずにいた。
やがて、その足音は瞬のすぐ近くまで来て、止まった。
フェリス「瞬、後ろを、振り向いてみてくれ」
瞬「……うん…」
言われるままに瞬はゆっくりと後ろを振り向く。
その姿が瞳に映ったとき、瞬はハッと息をのみ、その目が大きく見開かれた。
なぜならその姿は、瞬がずっと追い求めていたものだったから。
そして、このような所で見るはずの無い姿だったから。
司令「私がBBS総司令、星崎 陽司(ほしざき ようじ)だ」
その、BBSの制服を身にまとい、暖かな眼差しで瞬を見つめるその男性は、万感の想
いを込めて言葉を紡いだ。
陽司「……大きくなったな、瞬」
瞬「お、とう……さん……」
見開かれた瞬の瞳に、うっすらと涙が浮かぶ。
瞬は、それに耐えるように顔を歪ませたが、涙は後から後から頬をつたっていった。
そして、瞬はそれに耐えきれなくなって、弾かれたように陽司の元へと駆け出した。
瞬「おとうさーーーーーん!!」
陽司「瞬!」
陽司は、飛び込んできた瞬の体をしっかりと抱きとめる。
瞬「おと、さっ……いき……いきてっ! おとうさっ!」
陽司「すまない、瞬! 今まで、ずっと寂しい想いをさせてしまって……!」
瞬は、陽司の腕の中で激しく首を横に振る。
まるで、そんな事はいいんだと、精一杯伝えているかのように。
そんな二人を、フェリスと輝美が少し離れたところから見ていた。
輝美「……やっぱり、瞬君、司令のお子さんだったんですね」
フェリス「ああ……瞬の名を聞いた時、もしやと思ったんだが……」
そう言いながら、フェリスは嬉しいような、悲しいような複雑な表情を見せた。
フェリス「この偶然、喜ぶべきか、悲しむべきか……だな」
輝美「喜ぶべきなんですよ、きっと。だって……」
フェリスにそう言いながら、輝美は微笑みを浮かべて抱きしめ合う瞬と陽司を見つめる。
輝美「お二人とも、あんなに幸せそうなんですもの」
フェリス「…」
言われて、フェリスも二人に目を移した。
フェリス「ああ、そうだな」
しばらくして、ようやく瞬が泣き止み、瞬は改めて陽司と向かい合った。
瞬「でも、びっくりしちゃったよ。まさか、お父さんがこんな所にいるなんて、思わなかったから」
陽司「ああ。私も、こんな所に立つことになるなんて思いもしなかったよ。
6年前のあの時まではね」
瞬「6年前? 6年前って、確か……」
そう、それは陽司が瞬の祖父・清十郎(せいじゅうろう)と共に遺跡の調査に出かけ
行方を断った時期である。
瞬の疑問に答える声は、別の方向から聞こえてきた。
フェリス「それは、俺が説明しよう」
瞬「え?」
その声に気付いて、瞬はフェリスの方を振り向く。
フェリス「陽司が6年前、清十郎と共に行方を断ち、BBSという組織の司令になっている原因は
俺にあるんだ」
瞬「フェリス?」
フェリス「6年前、清十郎が調査していた遺跡に、俺は眠っていた。
いつか、悪しき力が目覚め、この地を襲った時に人々を護るために。
そして6年前に、俺は目覚めた。清十郎と陽司の手によってな」
瞬「ふぅん……って、ちょっとまって?」
フェリスの話を聞いていて、瞬はちょっとした疑問が浮かんだ。
瞬「フェリスが目を覚ましたのって、6年前なの?」
フェリス「ああ、そうだ」
瞬「でも、赤いロボットの噂が聞こえ始めたのって、確か去年ぐらいからだったけど…」
フェリス「……それが、BBSを創るに到った理由なんだ」
フェリスの後を継いで、陽司が説明を続ける。
陽司「6年前、遺跡の調査をしていた私達を正体不明の巨大ロボットが襲ったんだ。
その時にフェリスは目覚め、私達を救ってくれた」
フェリス「だが、激しい戦闘の上、長い年月ですっかり風化が進んでしまっていた俺の体は
陽司達を救う事で限界だった。
その時に、俺は体を失って意識体になってしまったんだ。
それを救ってくれたのが陽司だった。
俺の話を聞き、あまつさえそれを信じ、俺に新たなる体を作ってくれる事を約束してくれたんだ」
陽司「それから私は、フェリスのボディの開発と同時に、フェリスをサポートするための
組織の発足に全力を注いだ。
それらがこうして形になるまで、6年と言う月日を費やさねばならなかったんだが」
瞬「そう、だったんだ……」
フェリスは、すまなさげに瞬から顔を逸らす。
フェリス「すまない、瞬。お前と陽司の時を奪ってしまったのは、俺だ……」
瞬「フェリス」
瞬に呼ばれ、フェリスは瞬のほうを向いた。
フェリスに見られる瞬は優しく微笑み、ゆっくりと首を横に振った。
瞬「謝らなくてもいいよ、フェリス」
フェリス「しかし……」
瞬「いいんだよ。
お父さんやおじいちゃんがいなくて、寂しくなかったって言ったらウソだけど、お父さんも
フェリスのためって一生懸命だったんだよ。ボクもお父さんと同じ立場だったら
きっとおんなじ事をしたと思う。
それに、フェリスのおかげで、こうしてお父さんともう一度会えたんだもん。
怒ったりしたら失礼だよ」
フェリス「瞬……」
瞬「それよりもさ、6年前にお父さん達を襲ったロボットって、一体なんなの?
それに、この前言ってた『白き力』とか『黒き力』って……」
フェリス「ああ、『白き力』と言うのは、勇気、希望、愛、夢と言った、いわゆる『善』の
心から生み出される力で、俺の源となっているものだ。
『黒き力』とはその反対、憎しみ、欲望、怠惰……そう言った『悪』の心から
生まれる力。
その『黒き力』の化身であり、その力を以って『暗黒の使徒』――通称D・A
を率いて世界に絶望をもたらす魔神……
俺達、『白き力の勇者』の絶対的な敵……!
暗黒大帝ドルガイザー!!」