七星勇者フェリスヴァイン


 暗黒の使徒が現れない限り、今日も今日とて平和なBBS本部。それぞれのスタッフが
各々の仕事をこなす傍ら、それぞれの娯楽にも時間を費やしている。
 それはここ、司令室でもほぼ同じようなもので、陽司がいつもとあるつてで手にいれて
いる新聞を広げている傍ら、博美はウォークマンで人気アイドル『HIKARU』のCD
を聞き、輝美は輝美でデスクに持ち込んでいる文庫本を手にとって読んでいた。
 そんな雰囲気の司令室だったが、ちょうどCDを聴き終わった博美が何かに気づいて、
何気なく陽司のほうを振りかえった。

博美「司令、今日って瞬君、来ないんですかー?」

 陽司は呼ばれて新聞から目を話し、博美のほうを見る。

陽司「ん? ああ……確か、今日は課外授業で出かけるとか言っていたからな」

博美「課外授業?」

陽司「聞いたら、どうも遠足のようなものらしいんだがね」

輝美「へぇ。それで、どこに行ったんですか?」

 輝美に問われ、陽司は瞬から聞いたその場所を思い出そうと思考をめぐらせてみた。

陽司「確か……そう、高尾山、と言っていたな」

 

 陽司達がBBSで話題にしていた瞬達を乗せた貸し切りバスは、ちょうど高尾山の登山
口近くの駐車場に到着した。
 バスのドアが開くと、その中からわらわらと子供達が降りてくる。その顔は山登りの
つらさを思い憂うつになっているものから、逆にこれから見る山の風景が楽しみでしょうがないと
言ったものまで様々である。
 教員の誘導にしたがって並んでいた瞬は、間違いなく後者に入る顔をしていた。瞬は空
に浮かぶ星ももちろん好きだけど、自分達がいる地球の自然も大好きなのである。
 課外授業の前日は、翌日の楽しみに期待がいっぱいで、あまりにはしゃいだその様子で
フェリスと由美をあきれさせたものである。
 前のほうで登山の諸注意をしている先生の言葉を半ば上の空で聞きながら、瞬はこれか
ら登る山に思いを馳せていた。

先生「……ですから、みんな、気をつけてたのしんできてくださいね!」

子供達『は〜い!』

 先生の言葉に元気よく返事した子供達は、先生の後にしたがって順順に登山口に入って
いった。瞬もそれに習って、というか、やや急ぎ足でそれに続いた。
 その瞬の後ろから、こちらもやや駆け足で亜希が瞬に追いついてくる。

亜希「瞬!」

「あれ、亜希。一緒に行くの?」

亜希「まあね。それに……」

 亜希はそこまで言って、訝しげに瞬を睨みつける。

亜希「ちょっと、聞きたいことがあってね」

「き、聞きたいこと?」

 瞬はドキッとしてかすかに身を引く。なにせ、抱えている事情が事情なだけに突っ込ま
れて困る事のネタには事欠かないと言う、困った現状なのである。
 そして、亜希が突っ込んできたのは、案の定その「困る事」だった。

亜希「瞬、あんた最近、突然いなくなる事があるわよねぇ」

「そ、そう?」

亜希「それも、あの胸が狼の赤いロボットが出てくる時に限って」

「そ、そうだったかなぁ?」

 瞬は、冷や汗を流しながら視線を明後日の方向に逸らして答える。
 実際、フェリスとエクシードだけでどうにもならないときには必然的に駆り出される
ことになり、もちろんのこと『暗黒の使徒』が瞬の都合などに構うはずもなく、不自然に
亜希の前から姿を消すことになったのも一度や二度ではない。
 さながら、怪獣が現れた時巨大ヒーローに変身し、倒した後に何事もなかったかのよう
に仲間達のところに合流する某特撮ヒーローのような生活を送っていたのである。
 亜希でなくとも、瞬の素行を訝しがるところであろう。
 そして、瞬は間違いなく、カードゲームを始めとしたギャンブル全般に向かない性格を
している。

「そんなこと、ないと思うけど…?」

 そんな言葉も、むしろ空々しさを強調するぐらいの効果しか発揮していない。というか、
むしろ疑念を確信に変えている。

亜希「……目ェ泳いでるわよ、瞬……」

「え……あ、あはは……」

 こうなっては、乾いた笑いを浮かべるしかない。
 ますます疑惑の、というよりは追及するような眼差しで瞬を睨む亜希。

亜希「だいたい、前から気になってたけど、そのヘンな腕時計……」

「あーーっ!!」

 瞬が突如上げた大声に、亜希もビクッとなって追及の手がいったん止まる。

亜希「ど、どうしたの?」

「あ、あっち! ほら、黒い板みたいの!」

 瞬は亜希の後ろを指差して驚いた風にしている。それにつられて、亜希も後ろを振り向いた。
 しかし、どこを見ても瞬が言うようなものは見当たらない。
 亜希は、瞬に確めようともう一度瞬の方を振り向いた。

亜希「ちょっと、瞬、どこにも……」

 そちらを振り向いた瞬間、亜希は絶句した。
 そこにいるはずの姿はどこにもなく、瞬は遥か先の山道をほぼ全速力で駆け上がって
いたのである。
 自分をだました瞬と、そんな単純な手にあっさり引っかかった自分に亜希は思いっきり
腹が立った。

亜希「こらまてぇぇぇぇっ!! しゅ―――――ん!!!」

 叫ぶなり、亜希は他の子供達をゴボウ抜きにしながら瞬を追いかけ出した。

 

 一方の瞬は、全力で山道を駆けあがったのがたたって、既に息が切れかかっていた。

「はぁ、はぁっ! ……ま、撒けた、かな……?」

 瞬は歩みを緩め、亜希がいたほうをちょっぴり振りかえって見た。しかし、振りかえっ
た瞬間、瞬はその行為を後悔した。
 なぜなら、そこには亜希がさながら般若のような顔を浮かべ瞬めがけて全速力で走って
いるのが見えたから。

「うわわっ! 来たぁっ?!」

 瞬はとっさに横道に入って亜希をやり過ごそうとした。ただこの時、瞬が前後不覚に
なっていた事は否めない。
 横道へ走り出した瞬は、勢い余って登山道から外れた場所に飛び出してしまったのであ
る。しかも、そこが緩やかではあるが下りの傾斜になっていた事は、本当に不運としか言
いようがない。

「うわっ!? わっ! わっ!!」

 瞬が抵抗する暇もあらば、瞬の体が空中に放り出される。
 瞬がぎゅっと目をつむったその瞬間、左手にしているビーストコマンダーから真紅の光
があふれ出て、その姿が狼になった。
 コマンダーから飛び出したフェリスは、瞬の襟首を咥えると驚異的な脚力で跳躍し
瞬を連れて安全と思われる場所まで駆け出す。
 やがて、参道が近くに見える、少し開けた野原のようなところに出ると、ようやく
フェリスはそこに瞬を降ろした。
 とりあえず安全になったことを感じた瞬は、地面に腰を降ろしたままホッと胸をなでおろした。

「あ、ありがとう、フェリス……」

フェリス「瞬、周りも確認せずに駆け出すのは感心できんぞ。
     今回は俺が居たからいいものの、もしそうじゃなかったらだな……」

「ご、ごめんなさい……」

 フェリスにきつく注意され、瞬が文字通りしゅんとなる。その瞬の様子を見て、フェリスも
瞬が反省していることがわかり、それ以上注意するのを止めた。

フェリス「まあ、わかればいい。もう、こんな事はするなよ」

「うん、わかったよ」

 フェリスの言葉が柔らかくなり、瞬の表情もかすかにほぐれる。
 ようやく周りを見渡す余裕が出来た二人は、周囲をぐるりと見回して見た。そこは、上
から見て半円型のやや急なすり鉢状の崖にぐるりと取り囲まれたような広場で、その一部
に、恐らくフェリスが出てきたであろう場所が見える。

「ここ……どこだろう?」

フェリス「さあ……後ろに参道が見えるから、恐らく別の登山道だろうが……」

「でさあ、ボク、さっきから気になってるんだけど……」

フェリス「いや、実は俺もなんだが……」

 そして、二人は同時に「それ」の方を見やった。

二人『あれ、何?』

 二人が見るその先、半円の崖の、丁度中央に巨大な岩がそびえたっていた。しかも
ただの岩ではなく、その形は見かたによっては座っている熊のようにも見え、その大きさも
鷹型のエクシードを少し大きくしたぐらいなのである。
 その姿は、二人にある物を連想させるに十分なものだった。

「ね、フェリス。あれって、もしかして……」

 しかし、その答えは意外なところから帰って来た。

「それはぁ、山の守り神様ですよぉ」

 その、うわ上がりの妙な調子の声に驚いて、瞬とフェリスはバッと後ろを振り返る。
 振りかえった先――参道の上――に、いかにもな登山スタイルでメガネをかけた女性が
にこにこしながら瞬の方を見ていた。

「えと、あの……」

女性「その石像はぁ、山の守り神様なんですぅ」

「守り神、様?」

女性「はぁい☆」

 女性が満足そうににっこりと微笑む。そこで、女性がはたと気づいたように瞬達を見た。

女性「ところでぇ、あなた方はどちらさまですかぁ?
   もしかして、遭難されているとかぁ」

「えと、そういうことになるの、かな?」

 それから瞬は、ここに来たいきさつをある程度ごまかしながら女性に説明した。何しろ
迷っているの事実なのだから道を聞いておくに越した事はない。

女性「まぁ、それはそれは、たいへんでしたねぇ」

「ええ、はい……」

 瞬は、女性の場に似つかわしくないおっとりペースに飲まれながらも、とりあえず
できるだけの疑問を晴らしておこうと思った。

「あの、お聞きしたいことがあるんですが……」

女性「はえ? 登山道まででしたらぁ、ちゃんと案内してあげますけどぉ」

「えっと、それもそうなんですけど……この岩のこと、詳しく教えて欲しいんですけど…」

女性「ああ、そのことですかぁ。お安い御用ですよぉ」

 女性は、にぱっと笑って瞬に答えた。

女性「あ、名前を言うのがまだでしたねぇ。
   私は、この近くに住んでいる者で、高橋 弥生(たかはし やよい)と申しますぅ」

「あ、ボクは星崎 瞬です。それで、こっちがフェリスです」

弥生「瞬君に、フェリス君ですかぁ。わかりましたぁ」

 弥生は、瞬とフェリスの名前を指差し確認で確認する。そして、瞬達を追い抜いて
丁度、岩と瞬との間あたりに立って振りかえった。

弥生「ではでは、ご説明いたしますぅ。
   この石像はですねぇ、1年くらい前に突然現れたものなんですぅ。
   その頃はずいぶんと騒がれたんですがぁ、なんにも起こらないのでだんだん皆さん
  興味をなくされて、そのうち、この山の守り神さまって言う事になったんですぅ。
   こっちの人は、『熊神様』とも言いますねぇ」

「そ、そうなんですか……」

弥生「でもでもぉ、ただの大岩って言うだけじゃ片付けられない逸話もあるんですよぉ。
   例えばですねぇ……」

 そうやって弥生が瞬に石像に関する話をあれこれと話している間、フェリスはじっと
石像を見つめ続けていた。

フェリス(この石像から、『白き力』を感じる……まさか……)

 フェリスのその思いは、確信に変わりつつあった。


 瞬達が弥生と出会っていた頃、高尾山の上空の空間が歪み、その中から二つの影が飛び
出してきた。

クロイツ「ここか? 『バニシングポイント』の候補地って言うのは」

ヴァンダーツ「……」

 ヴァンダーツは下を見下ろしたまま、ただ黙って頷く。それを見たクロイツはため息を
つき、例のホログラフィ型端末を取り出した。

クロイツ「『バニシングポイント』の可能性、40%……ちょっと低いな」

ヴァンダーツ「白き力、集約。可能性、全探査」

クロイツ「わかったよ……ん?」

 ぼやきながらホログラフィに目を落としたクロイツは、そこに現れた反応に目を奪われた。

ヴァンダーツ「……問題?」

クロイツ「問題と言えば、問題だな……『炎の勇者』の反応を探知した」

 そう言いながらクロイツは、手もとのコンソールを手早く操作した。すると、二人が居
た近くの空間が再び歪み、中から巨大な岩石を継ぎ合わせたような物体が顔をのぞかせた。

クロイツ「黒鍵機・ログロックを置いていくから、後はお前がやるんだな。
     俺は他にもすることがある」

 クロイツはそう言い放つと、次元の歪みにすばやく身を消した。
 クロイツが居なくなったのを見やり、ヴァンダーツはログロックと呼ばれた巨大岩石を
従えて、地上への降下を開始した。

 

ビィーッ! ビィーッ!

 

 BBS司令室に警報が鳴り響き、スタッフ達がすばやくそれぞれの配置についた。
 博美がコンソールを操作し、ディスプレイに表示された内容を読み上げる。

博美「D・A反応確認、黒鍵機です! 場所は……ええっ!?」

輝美「どうしたの、姉さん?!」

 博美は何かを飲みこむような動作をし、落ち着かせてから改めて表示されていた内容を
読んだ。

博美「場所は、高尾山上空!」

陽司「なっ?! 高尾山だと!」

輝美「高尾山って言ったら、確か瞬君が!」

陽司「とにかく、このことを瞬に知らせろ! ウルフランダー、及び、バーストローダーの転送準備!」

輝美・博美『了解!』

 陽司の矢継早な指令が飛び、博美達がそれに従って動き始める。その時、格納庫の方か
ら司令室に通信が入った。

エクシード『陽司、出口を開けてくれ。拙者も出る』

輝美「あ、でしたら亜空間コンテナで……」

エクシード『不要だ。それよりも、高尾山といったら、「ヤツ」が居るかも知れんのでな』

陽司「わかった。輝美君、格納庫のハッチを開放してくれ!」

輝美「りょ、了解!」

 輝美の操作で格納庫のハッチが開く。その、開ききるかどうかの時に、エクシードは
飛び出していった。司令室のモニターにその姿が映る。

陽司「頼んだぞ……フェリス、エクシード」

 陽司は、モニターに映るその姿を見て祈るように思った。

 

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