七星勇者フェリスヴァイン


 初夏の日本海は石川県、佐渡島を臨む海岸道路を赤いスポーツカーが走っていた。
その車は、言うまでもなくフェリスのボディとなっているウルフランダーで、後部座席に瞬と
狼の姿のフェリス、運転席には博美が座っている。
 普段、BBS司令室のオペレーターをやっている博美や、この近くに住んでいるわけで
もない瞬がここにいるのには、無論、ちゃんと理由がある。
 最近、佐渡島近海を通る船舶が軒並み海難事故に遭っており、近日のマスコミをもっと
も賑わせている話題になっている。また、事故にあった人々が、皆、同じような証言をし
ているのが、なお話題を呼んでいるのだ。

 曰く、『黒くて大きな鮫のようなものが襲ってきた』。

 当然、この事はBBSも知る所となり、はっきりと『暗黒の使徒』の仕業と断定できな
いまでもこれほどの被害を放ってはおけないと言うことになった。
 そして、その調査の為に博美が派遣されることとなり、いざと言う時を考慮して瞬とフ
ェリスも同行することとなったのである。

 博美がバックミラー越しに瞬を見ながら、申し訳なさそうに口を開いた。

博美「ゴメンねー、瞬君。せっかくの日曜日なのに」

「別にいいですよ。今日、特に予定なかったから」

 瞬はにっこり笑って、首を横に振ってそう答える。

博美「……あたしだってさ、今日はHIKARUのニューシングルの発売日だってのに
  駆り出されちゃってさ、せっかく予約だってしたってのにさ…」

 外の爽やかな風景などまるで関係がないように、仏頂面になって愚痴り出す博美。これ
には、さすがに瞬もフェリスも、乾いた笑みを浮かべるより他ない。
 完全にボヤきモードに入った博美をよそに、瞬とフェリスは二人で話すことにした。

「ね、フェリス。どう思う?」

フェリス「ん? 何がだ?」

「今度の事件。黒いおっきなサメって、やっぱり暗黒の使徒だとおもう?」

フェリス「そうだ……な」

 瞬の問いに、フェリスは曖昧な言葉を返した。
 当然、瞬もそんなフェリスの様子を不思議がる。

「フェリス、どうかしたの?」

フェリス「あ、いや、なんでもないんだ……」

 フェリスは、そういってとりあえずごまかす。しかし、フェリスには実際のところ、確
かに気になっていることがあったのだ。
 それは、件の巨大なサメのこと。
 フェリスには、その鮫というものになんとなく心当たりがあったのだ。

フェリス(まさか、アイツではないと思うが……)

 フェリスの脳裏に、ビーストガーダーズ最後の一人となった、とある勇者の姿が思い浮
かんでいた。


博美「さっ、ここからはフェリーに乗り換えよー♪」

 車内での鬱が入った様子とは打って変わって、見るからにゴキゲンなように博美が瞬達
に振りかえった。

「……は〜い」

フェリス「……ああ……」

 一方の瞬とフェリスは対照的にぐったりしている。車で移動している間中、博美に愚痴
を聞かされつづけ、HIKARUのファーストアルバムをエンドレスで聞かされ続けてい
たのなら、しかたのない話ではある。
 そんなことを意に介していない博美は、瞬たちをウルフランダーから降ろし、自分は再
びウルフランダーに乗りこんだ。

博美「二人とも、先に行ってて。あたしは車、積み込んでくるから」

「うん、わかったよ!」

 博美は、瞬が頷いたのを見てから車をフェリーの積み込み口に向けて発進させた。

「フェリス、ボク達もいこっか」

フェリス「ああ、そうだな」

 瞬とフェリスは頷き合い、フェリスをビーストコマンダーに格納して瞬は走り出した。
ちなみに、フェリスをしまったのは、犬が乗船できない恐れがあったためである。

 そして、瞬達を乗せたフェリーは佐渡島本島に向けて出港した。

 

 一方、星崎家の留守番組。
 亜希は、プラムと他愛もない話をしながら、瞬手製のクッキーをお茶請けにプラムが淹
れた紅茶を傾けていた。一方のプラムは、実体があるとは言ってもさすがに飲み食いまで
できるわけではなく、亜希の話し相手に没頭している。

亜希「ん〜……」

プラム「亜希ちゃん?」

 難しい顔をしてうなり出した亜希を見て、プラムが不思議がる。そんなプラムのスキを
ついたわけでもないだろうが、突然伸ばされた亜希の右手が、プラムの左頬をぷにっとつ
まんだ。

プラム「…ふぁい?」

 亜希はそのまま、プラムの頬をつまんだ指を動かしたり引っ張ってみたりする。

プラム「ふぁ、ふぁきひゃん?(あ、亜希ちゃん?)」

亜希「ん〜〜」

プラム「ふぁ、ふぁひふぉ?(な、なにを?)」

亜希「いや、やっぱり、プラムのほっぺたって柔らかいなぁって思って」

 そう言って、亜希はようやくプラムの頬から手を離した。

亜希「うん。ホログラフの時から柔からそうだなぁとは思ってたんだけどねぇ」

プラム「なんなんですか、それ…」

 さすがのプラムもやや呆れ顔でそれに答える。
 プラムがつままれていた頬をさすっていた時、ふいに、プラムの中に不思議な感覚が走
りぬけた。それを感じたプラムの表情が、一瞬硬くなる。

亜希「…プラム?」

プラム(い、今のは……?)

亜希「あの〜、もしかして、怒った?」

 自分の思考に集中していたプラムだったが、亜希の申し訳なさそうな声で我に返る。

プラム「い、いえ。なんでもありませんよ。気にしてませんから」

 プラムはそう言ってその場を取り繕う。しかし、その思考は一瞬駆け抜けた不可思議な
感覚に向けられていた。

プラム(『白』でも、『黒』でもない……『力』?)

 


 そこは、佐渡島のとある岬。
 眼下に広がる砂浜を一望できるそこに、一人の青年が立っていた。
 長身に細面の整った顔立ち、黒髪の長髪が艶やかに流れ、切れ長の瞳が厳しさと冷たさ、
そして、他の何かを宿す。それだけでも、多くの人を振り向かせることができるだろう。
 しかし、もう数週間で夏も始まりと言うこの時期に、黒で統一された服装の上に黒いコ
ートを纏っている。余計に人目をひきそうないでたちではあるが、例え街中ですれ違った
としても、さして気には留めないだろう。
 青年には、そんな雰囲気があった。

 青年は、じっと海の向こうを見ていた。
 そう、それは瞬達が乗ったフェリーがやってくるであろう方向である。

青年「……来る、か」

 そう呟いた次の瞬間、青年が文字通り姿を消した。

 

 

 瞬達の船旅は順調で、波もさほど高くはなく、快適な船旅だった。
 ドライブアウトさせたフェリスと共に甲板に上がって手すりから身を乗り出す瞬の目に、
目的の佐渡島が見えてきた。この分であったら、到着するまでにたいした時間はかからな
いだろう。

「フェリスッ! 島! 島が見えてきたよ!」

 瞬の言葉に、フェリスは頷いて答える。なにしろ一般の船なので、うかつにしゃべるわ
けには行かないのだ。それでも、辺りに不穏な気配はないかと、出港してからフェリスは
ずっと気を張り巡らせていた。
 瞬はと言うと、めったに出来ない船旅にすっかりはしゃいでおり、もはや本来の目的を
どこかに忘れてきた感がある。船にのってからと言うもの、飽きもせずに甲板に上がって
潮風を受け続ける辺り、なんとも子供らしいと言うか、瞬らしい。
 残った博美はと言うと、瞬達から目を離さずに済む程度の位置の座席に腰を落ち着けて
いた。船の上だと言うのに、出掛けに買った芸能誌を広げているのも、なんとも博美らし
い。

 フェリーが島に近づいてきたその時、フェリスの感覚に駆けぬけるものがあった。

フェリス(――これは?!)

 フェリスが「それ」を感じたのと同時に、瞬が何かを見つけて声を上げる。

「あれ? なんだろ……」

フェリス「瞬?」

「なんか黒いのが、こっちに」

 瞬がそう言うと同時に、「それ」がフェリスの体を限りなく明確に駆け抜けた。

フェリス「瞬! それは暗黒の使徒だ!」

「え?」

 フェリスがそう言い、瞬が振りかえるか振りかえらないかの刹那、激しい衝撃がフェリ
ーを襲った。船体が激しく、あまりにも激しく揺さぶられる。
 瞬は手すりにつかまって耐えようとする。が、その瞬間には、瞬の体は中空へと放り出
されていた。

「え…?」

フェリス「瞬!!」

博美「瞬君!?」

 フェリスが、博美が瞬に呼びかける。しかし、それに反して瞬の体はどんどんと船から
はなれて行き、その勢いのまま海中へとその身が投げ出された。

「ッ!!」

 背中から着水した衝撃で、瞬の口から大量の泡が吐き出される。
 上下左右も掴めずに、瞬の意識は徐々に薄らいでいった。

(フェ……リス……)

 瞬が完全に意識を途切れさせてしまう、その一瞬前、瞬は、自分の体を支える「何か」
を感じていた。

 

 


 甲板に残されたフェリスと博美は、まだ揺れる船内によたつきながらも、瞬が沈んだ方
向へと体を向けていた。

博美「瞬くーんっ!」

フェリス「博美、ウルフランダーを頼む! 俺は瞬を…!」

 フェリスがそう言って飛び出そうとした瞬間、フェリス達の前に大きな黒い鮫が海中か
ら飛び出した。
 それは、黒く大きな、鮫型のロボットだった。
 フェリス達に、いや、フェリーにあきらかな悪意を向けるその姿を見て、フェリスは愕
然とした表情になった。
 なぜなら、その姿はフェリスにある存在を連想させるのに十分過ぎるものだったから。

フェリス「ウェル、シャーク……!」

 そう、その姿は、ビーストガーダーズ最後の一体となる『海の勇者』ウェルシャークに
あまりにも酷似していた。

 

 

 

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