七星勇者フェリスヴァイン
それは、BBSのとある昼下がりだった。
いつものようにBBSへとやってきて、いつものように司令室の扉をくぐる瞬。
扉が開いた瞬の前に広がった光景に、瞬とフェリスの目が点になった。
瞬「……博美、さん?」
フェリス「博美?」
博美「らんららんらら〜ん♪」
司令室の中央で博美が浮かれ踊り、陽司が苦笑いしながら、由美が面白いものでも見る
ように、そして輝美が心底あきれながらそれを観ているという光景。
唖然としないほうがどうかしている。
陽司「ああ、瞬。来ていたのか」
瞬「……お父さん、どうしたの、これ?」
陽司「ああ、これはな……」
陽司が説明しようとしたところで、陽司の近くのデスクに座っていた由美が割って入る
形で話を引き継ぐ。
由美「Knights(ナイツ)ってアイドルグループ、知ってるだろ?」
瞬「うん。確か、すっごい人気のグループだよね?」
由美「で、博美がそのKnightsのファンでね、近くでコンサートがあるってんで
チケットの電話予約してたんだよ」
フェリス「なるほど。それが首尾よく行って……というわけか」
基本的に人気アイドルのコンサートチケットとなれば即日完売が基本。どころか、電話
予約開始十数分で売切れてしまうということも決して珍しい話ではない。Knights
のような人気を誇るグループの場合、そのチケットの争奪戦も凄まじいものであろう。事
実、チケットの電話予約開始の一時間前、まるで獲物を狙う肉食獣のような目つきで受話
器に手を置いている博美を、たまたま所用でそこを通りかかった輝美が目撃している。
で、その結果が現在の状況というわけである。
姉の「子供のような」という表現すらもおこがましいような浮かれっぷりに、双子の妹
である輝美はあきれるやら情けないやらといった風情でため息を漏らす。
輝美「もう、姉さんったら……」
その妹の呟きが聞こえたわけでもないだろうが、博美が嘆息している輝美のほうを振り
返った。
博美「なーに言ってんのよ。あんたも行くのよ!」
輝美「え?」
まるで予想外の博美の言葉に、思わず輝美は間抜けな声を漏らす。
輝美「だって、チケットは一枚……」
そう言って姉の手にあるチケットを指差す輝美に対して、博美は含み笑いを漏らす。そ
して、怪訝な顔をしている妹の見る前でチケットを持つ親指を軽くスライドさせてみた。
そこに現れたものを見て、輝美がぽかんと口を開ける。
対して博美は得意そうにその手にあるものを輝美に突きつけた。
博美「じゃっじゃ〜ん! どぉ〜だ〜!」
輝美「あ……うそ……」
そう、博美の手の中には確かに、「2枚」のチケットがあったのだった。