七星勇者フェリスヴァイン


由美「却下」

 家に帰ってすぐ、リビングでくつろいでいた由美にフェリスを飼うことを頼んだ瞬に
対する、由美の第一声だった。

由美「ったく、ダメに決まってんだろ? ウチじゃペットは飼えません」

瞬「ええ〜っ?! なんでっ!?」

由美「はっ、ちょっと考えりゃわかるだろ?」

 由美は、ほうっと肩をすくめてわざとらしくため息をついて見せる。

由美「昼間、アタシもあんたも家にいなんだよ? その間の面倒は誰が見るんだい。
    単純に言って食事の手間だって一人分増えるわけだし、犬なんて特に手間がかかるだろーが。
    却下だ却下」

瞬「そんな、フェリスは手間なんてかからないよっ!」

由美「ペット飼いたいって子供はみんなそう言うんだよっ」

瞬「フェリスは、ただの犬じゃないんだよっ!」

由美「どっからどう見てもただの犬だろっ!」

 瞬と由美が、お互いの意志をぶつけ合うように視線を交差させる。
 その場で黙って二人のやり取りを聞いていたフェリスは、二人の間の空間に火花が散っ
ているのが見えたという。

由美「とにかく! ウチじゃ犬を飼うのは認めないよ!
    どこで拾ったか知らないけど、その犬もとの場所に戻しといで!」

瞬「由美ねーちゃん!」

由美「瞬……あんた、この家の敷居をまたげない身体になりたいかい?」

 一瞬、由美の瞳に危険な光が宿る。片手で掴んだ拳がばきっと音を立てる。
 それを見た瞬間、瞬とフェリスは同じように身体を引いた。
 二人の様子を見た由美は、凄みのある笑みを浮かべる。
 そして、ひとつ深呼吸。

由美「さっさと行けぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

瞬「は、はいぃぃぃぃっ!」

 由美の迫力に押され、瞬はフェリスと共に家から飛び出した。
 瞬が去った後を見て、由美はほうっとため息をついた。

由美「まったく……」

 

 その頃、『暗黒の使徒』の基地。
 研究室のようなところで、四星士の一人・妖学士クロイツが巨大なコンピューターを
いじくっていた。
 クロイツはディスプレイに映し出されるデータに集中していたが、後ろで聞こえた
ドアが開く音に気づいてそちらを向く。
 そこには、四星士・黒騎士が立っていた。

クロイツ「よお。前回は散々だったな」

黒騎士「前回は様子見だ。おかげで面白いものにも会えた」

 その黒騎士の言葉に、クロイツは少し意外そうな顔をする。

クロイツ「ほぉ、お前から『面白い』なんて言葉が聞けるなんてな」

黒騎士「……強き好敵手に心揺さぶられるのは、戦士の性だからな」

クロイツ「なるほど……で、一体何のようだ?」

黒騎士「こいつを渡しに来た」

 黒騎士はそう言って、黒いディスクのような物をクロイツに放った。
 クロイツはそれを受け取る。

クロイツ「…これは?」

黒騎士「フェリスヴァインとの戦闘記録だ。まだ闇元帥に渡していない、な」

クロイツ「……ほぉう……。で、シュバルツ、お前は俺になにを望む?」

黒騎士「奴の力の解析だ。奴の力、前回戦ったときが全てだとは思えん」

クロイツ「ふ、戦士のカン、ってやつか」

 クロイツはそのディスクをコンピューターに収めながらほくそえんだ。

クロイツ「いいだろう。次の出撃は俺だしな。ヤツには俺も興味がある」

 黒騎士はクロイツに背を向け、出ていこうとした。
 だが、ドアを出るところで立ち止まる。

黒騎士「一つ、言っておく」

 黒騎士は、首だけクロイツのほうを振り向かせた。

黒騎士「フェリスヴァインを倒すのは、私だ」

 そう言って、今度こそ黒騎士は立ち去っていった。
 その後を、クロイツがやれやれといった感じで見送っていた。

 

 星崎家から逃げるように飛び出してきた瞬とフェリスは、近所の空き地に飛びこんで
ようやく息を付いた。
 瞬は膝を押さえ、荒くなった息を整える。

瞬「ハァ、ハァ……」

フェリス「大丈夫か、瞬?」

瞬「う、うん……」

 瞬は息が整うと、その場に腰を下ろした。

瞬「まいったなぁ……まさか、由美ねーちゃんがあんなに反対するなんて思わなかった…」

フェリス「いや、ふつうそんな感じじゃないのか?」

瞬「由美ねーちゃん、けっこうずぼらだからそういうのに関心無いかと思ってたんだよ」

 瞬は、そういってため息をついた。
 フェリスは、そんな瞬を見ながら言いづらそうに言葉を出した。

フェリス「なあ、瞬。俺は前から言いたかったんだが……」

瞬「ん? 何、フェリス?」

フェリス「俺は、『犬』じゃなくて『狼』なんだ!」

瞬「……へ?」

 フェリスが真剣な顔で言ったその言葉に、瞬は少しあっけに取られる。

瞬「おお、かみ?」

フェリス「みんな、俺を犬だと思っているようだが、俺自身は狼のつもりなんだ!」

瞬「あ、そうなんだ……」

フェリス「ああ」

瞬「でも、犬と狼って親戚みたいなものだし」

フェリス「瞬〜」

 フェリスが恨みがましそうに瞬を見つめる。
 その目で見られて、瞬は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

瞬「それにしても、どうしよう……」

フェリス「俺は別に構わないぞ。ビーストコマンダーの中でも不自由しないしな」

瞬「でも、ボクは今の姿のフェリスと一緒に居たいんだよ……」

 そう言って、瞬はフェリスの背をなでる。
 それは、とても「仮の姿」とは思えないほど柔らかで、温かい手触りだった。

フェリス「瞬……」

瞬「なにか、いい方法はないかなぁ……」

 瞬がそうやって考えこんでいると、瞬の方に駆け足のような足音が近づいてきた。
 その足音は、瞬の近くでゆっくりになる。

亜希「あれ? どうしたの、瞬?」

 瞬が顔を上げると、そこには買い物袋をぶら下げた亜希が立っていた。

瞬「あ、亜希。買い物の帰り?」

亜希「うん。晩のおかずのお使い。それよりもどうしたの? 難しい顔しちゃってさ」

瞬「あ、うん……ちょっとね」

亜希「ふ〜ん。じゃ、瞬の悩みがなんなのか、当ててみようか?」

 そう言って亜希は、いつかあった刑事物の刑事のように人差し指を額に当て考えこむ。
 そして、答えが出ると、額に当てていた指をぴっと瞬に向けた。

亜希「この状況から考えて、ずばり! その犬のことね!」

瞬「ええっ!? なんでわかったの?!」

亜希「ふふふっ……だぁって、いつかのワンちゃんと一緒に難しい顔してるんだもん。
    だれだってわかるって」

瞬「それって、ボクが単純ってこと?」

 瞬は、すこし憮然とした顔をした。
 ちなみに、瞬の下ではフェリスが、またも犬扱いされたことにやっぱり憮然とした顔を
していた。

亜希「大方、由美さんに反対されたんでしょ?」

瞬「うん。犬は世話がかかるし、留守の間、面倒見られないんだからダメだって」

亜希「ま、そりゃそうよね」

 亜希は、ひとり納得して頷く。
 しかし、瞬が困った顔をしているのを見て、亜希は苦笑してため息をついた。

亜希「元気出しなさいって。ワンちゃんのことは、あたしも考えてあげるからさ」

瞬「あ……」

 亜希の言葉で、瞬の表情がぱぁっと明るくなった。
 亜希が言う通り、瞬は思ったことがすぐに顔に出る性格なのである。

瞬「ありがとう、亜希!」

 亜希はその笑顔に、ちょっと照れながら笑顔で返す。

亜希「うむ、感謝するように。…でさあ、瞬」

瞬「?」

亜希「今日、家で晩ご飯食べない? お母さんが瞬も誘えってさ」

瞬「え、いいの?」

亜希「いいから誘ってるんでしょ? で、どうするの?」

瞬「行く。行くよ!」

 瞬は、二つ返事でそう答えた。
 瞬が天宮家でご飯を食べる事は珍しいことではなく、むしろ本格的に自炊を始めたのは
2年くらい前からで、それまでは由美と一緒に夕飯をご馳走になることはザラだったのである。
 当然、今回も断る理由などあるはずもなく、瞬は迷わずに返答したと言うわけである。

亜希「それじゃ、今から家に来る? 当然、ご飯の仕度は手伝ってもらうけど」

瞬「うん。……と、ちょっとまって」

 一度頷きかけた瞬だったが、急に何かを思い出したように待ったをかけた。

瞬「今晩、由美ねーちゃん泊まりなんだよ。夜食のお弁当、作ってあげなくっちゃ」

亜希「そっか。それじゃ、あたしは先にもどってるわね」

瞬「うん。また後でね」

 瞬とあいさつを交わすと、亜希は駆け足で空き地を後にしていった。
 その後を瞬とフェリスが見送る。

瞬「それじゃ、戻ろっか」

フェリス「ああ。俺は、とりあえずビーストコマンダーの中に……」

 フェリスがそう言いかけた時、瞬のビーストコマンダーが突如輝き出す。
 コマンダーのクリスタルから光の粒子が飛び出し、それが少女の姿を形作った。

瞬・フェリス『プラム?』

プラム「あ、瞬君、フェリス。よかった、ちゃんと成功したみたいですね」

 プラムは地面に降り立つと、にっこりと微笑んだ。

瞬「成、功?」

プラム「ええ。通信機能と、私のリアライズ機能のテストを兼ねていまして。
    ちゃんと瞬君の所でリアライズできましたね。ホッとしました」

フェリス「テストのためだけに、わざわざここに来たのか?」

プラム「あ、いえ。フェリスにお届けものがありまして」

瞬「届けもの?」

 プラムはこくりと頷くと、指先で空間をつん、とつついた。
 すると、プラムが触れたところから波紋が広がり、透明な四角い箱を創り出す。
 やがて、その箱の中から見なれた赤い車が姿を現した。

瞬「これ、ウルフランダー!?」

プラム「ええ。前回の戦闘で負った傷の修理と、爆炎合体用に微調整をしたんです。
    それで、フェリスに最後のチェックをお願いしたいんです」

フェリス「なるほどな、わかった」

 フェリスは、ウルフランダーに向き合った。

フェリス「ドライブ・オン!」

 フェリスの身体が赤い光となって、ウルフランダーと一体化する。

フェリス『瞬、テストのついでだから乗っていけ』

瞬「あ、うん。でも、運転手はどうするの?」

プラム「では、私が座りますよ。どうせ私も家に帰るんですし」

 プラムが運転席、瞬が助手席に座り、フェリスは空き地から出発した。

 

 元々大した距離ではなかったので、3分とせずに瞬達は星崎家に帰って来た。
 フェリスはそのまま、使われずに空いたままとなっているガレージに入った。

フェリス『それじゃあ、俺はここでチェックをしているから。なにかあったら呼んでくれ』

瞬「うん、わかったよ」

プラム「フェリス、お願いしますね」

 そう言って、瞬とプラムは家の中へと入っていった。

 

 瞬がフェリスと連れ立って外に出ていった後、自室で英気を養っていた(世間一般では
それを昼寝と言う)由美は、スラックスにYシャツ・ネクタイと簡単に身支度を整えて、
リビングへと降りてきた。
 そこで由美は、テーブルの上に目当てのものを発見する。

由美「よしよし。ちゃんと用意してあったね」

 由美はナプキンで包まれた弁当箱を取って、手にしたカバンに放りこむ。
 そして、台所で洗物をしているであろう瞬に声をかけた。

由美「瞬、行って来るからね」

瞬「あ、うん。行ってらっしゃ〜い!」

 瞬の声を聞いて、玄関に向かった由美だったが、ふと頭に浮かんだことがあってリビン
グのほうを向きなおした。

由美「瞬、あんた、晩飯はどうするんだい?」

瞬「大丈夫! 亜希の所で食べてくるから!」

由美「それなら安心だね。でも、遅くなるんじゃないよ!」

 由美はそう言って微笑み、改めて玄関から表に出た。

 外に出た由美は、ふと、何気なくガレージのほうに目をやった。
 ところが、空のはずのそのガレージに、なぜか真っ赤なスポーツカーが止まっていた。
 それを見て、当然由美は訝しがる。

由美「……なんだい、こいつは?」

 由美は、大した警戒もせずに車に近づいていく。
 一方、由美に気づいたフェリスは慌てて全ての機能を停止させ、普通の車を装った。
 由美はフェリスのボディにバンと手をつき、睨みつける。

由美「どこのバカだ? 人ん家のガレージ勝手に使おうってのは」

 由美はそう言いつつ運転席のドアに回りこみ、ドアノブを軽くひいてみる。
 すると、予想に反してドアは軽い音を立てて開いた。

由美「ったく、ずいぶんと無用心だねぇ」

フェリス(………)

 由美は車内を眺めると、ふいに腕組みをして何かを考え始めた。
 やがて、それの結論が出たらしい。

由美「……まぁ、ウチの敷地内に勝手に止めてあるんだから、その住人であるあたしが
   乗っても何の文句もでないわな」

フェリス(待て待て待て待て!)

 フェリスは当然慌てるが、声を出すわけにも行かずに心の中でツッコミをいれる。
 ちなみに、こう言う状況で車を使った場合、窃盗罪になるのではないかと思う。
 ところが、由美はそんなことお構いなしに、何のためらいもなく運転席へと体を滑りこませた。
 運転席の座りごこちを確めるように身体を後ろに預けてみる。

由美「お、ずいぶん座りごこちがいいじゃないか。よし、気に入った!」

 そう言うと由美はドアを閉め、ついでにシートベルトも締め、手馴れた手つきで
フェリスのエンジンを吹かした。

由美「おーし! そんじゃ、しゅっぱーっつ!!」

 アクセルが思いっきり踏みこまれ、フェリスは急発進させられる。

フェリス(……厄介な事になってしまったな……どうしたものか……)

 フェリスは、由美に運転されるままに、これからどうするべきかで悩んでいた。

 

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