七星勇者フェリスヴァイン
炎の勇者・フェリスに加え、陸、海、空を象徴する勇者チーム『ビーストガーダーズ』
が合流し、更なる力を持ったBBS。
だが、一見磐石に見えたその中にも、意外な問題が潜んでいたのである。
その問題が今もここ、BBS本部第二格納庫(別名ビーストガーダーズ控室)で沸き起
こっていた。
止まり木代わりの鉄骨に止まるエクシード、文字通り熊のごとく座りこむグランリッド、
格納庫脇に特設された巨大水槽にいるウェルシャーク。お互いに向き合う三人の間には、
和気あいあい等とは程遠い険悪な雰囲気が流れていた。
グランリッド「だから、あそこは待つべきだったんですよ」
ウェルシャーク「いーやっ! あれは突っ込んでいくとこだろ!」
エクシード「三者拡散して敵を撹乱、それが上策だった」
それぞれがそれぞれの意見を述べ、再びにらみ合いが始まる。
その様子を格納庫をたまたま通りかかった一人と一匹は、そろって大きなため息をついた。
瞬「みんな、またケンカしてるよ……」
フェリス「まとまりと言う物がないのか、やつらは……」
現在、三人の口論の元となっているのはつい先日行われた黒鍵機との戦闘のことで、敵
の重装型黒鍵機に対して三人がそれぞれに出した方策がバラバラになり、それが元でチー
ムワークを崩したビーストガーダーズは黒鍵機に敗退。結局はフェリスヴァインが敵を倒
して事無きを得る、と言うことがあったのだ。
だが、三人の意見が食い違うのは何も今回に始まったことではなかったのだ。
例えばこのビーストガーダーズ控室を作るときの話。
グランリッド『これからは三人ともここで待機しましょう』
と、グランリッドが提案すれば。
エクシード『一箇所にまとまるのは効率的ではない』
ウェルシャーク『いてもいいけど、個室な』
と返ってくる。この後、高峰山の一部をはげ山にする大ゲンカの末にビーストガーダー
ズ控室は現在の状態に落ちついた。
三人の意見の食い違いは実に細かいことに及び、整備の方法からパトロールのこと、果
ては互いの趣味や観るテレビ番組の内容にまで及んでいるのだ。(ちなみにエクシードは
時代劇、グランリッドはドキュメンタリー、ウェルシャークはなんと特撮物が好み)。
こと、三人のケンカの種は尽きないと言って過言ではない。
瞬とフェリスが半ば呆れながら眺める先で、ビーストガーダーズはまだ言い争いを続け
ていた。
瞬「なんで、こんなに仲が悪いのかなぁ?」
フェリス「仲が悪い、と言うわけでもないんだがな」
瞬「え?」
瞬は、すこし驚いたようにフェリスを見る。
フェリス「あいつ等は仲が悪いわけじゃない。ただ、あいつ等はそろいも揃って個性……
というか、アクが強くてな。
上手くお互いをまとめることが出来ないでいるんだ」
瞬「でも……」
フェリス「こればかりはあいつら自身の問題だ。あいつら自身が気付くまで、俺達が出来
る事は見守るぐらいさ」
瞬「……うん、そうだね」
瞬が少し微笑んで、フェリスに頷く。
しかし、そんな穏やかな空気を吹き飛ばすように向こう側から怒号が飛んできた。
ウェルシャーク「おお上等だ! こうなりゃ力ずくで解らせてやらぁ!」
グランリッド「あなた方とは、やりあう必要がありそうですね!」
エクシード「……ふん!」
その様子を見て、フェリスと瞬は慌て出す。
フェリス「まずい。そろそろあいつらを止めるぞ、瞬!」
瞬「う、うんっ!」
今すぐにでもケンカを始めそうな剣幕のビーストガーダーズを止めるために、フェリス
と瞬は走り出していった。
フェリス達がそこについた時には、ビーストガーダーズ達がみんなロボット形態に変形
してにらみあい、いつ飛びかかってもおかしくないような状態だった。
フェリス「お前達、いいかげんにしろ!」
ウェルシャーク「てめえは黙ってろ、フェリス!」
エクシード「部外者に口出しされるいわれはない」
グランリッド「これは僕達、ビーストガーダーズの問題です!」
三人が、実に息のあった間合いでフェリスの言葉を跳ね返す。
瞬「こんな時ばっかり息があってる……」
瞬が、目の幅の涙でも流しそうな顔でがっくり肩を落とした。
一方のビーストガーダーズ達は、取っ組み合いになる代わりに再び口論に火がついた。
ウェルシャーク「だいだいだな、こうやって奴等が動き出すのを待ってるってのが気にい
らねぇんだよ!」
グランリッド「不用意に飛び出して言ったところで、また捕まるのがおちです!」
エクシード「だから穴に篭もる、か? ずいぶんと消極的なことだな」
ウェルシャーク「だから、今からでも構わねぇ! やつらをぶちのめしにいくんだ!」
エクシード「そうやってお主はまた、あてもなく暴れまわるのだな」
ウェルシャーク「黙ってたってなんにも始まらねぇ!」
エクシード「今は情報を揃えろを言っているのだ……!」
瞬「やめてよ、みんな!」
フェリス「そうだ! すこし頭を冷やせ!」
瞬とフェリスはそう叫ぶが、完全に頭に血が昇った状態の三人に言葉は届いていなかった。
それに加え、三人にはそれぞれにこの不仲や繰り返される衝突でストレスが蓄積されて
いた。その鬱積した不満が、この状況と状態で一気に爆発した。
ウェルシャーク「エクシード、てめぇのそのすました態度、前から気に入らなかったんだよ!」
エクシード「奇遇だな……! 拙者もお主の後先考えずに先走る馬鹿さ加減に、いいかげ
ん愛想が尽きていたところだ!」
グランリッド「やめて下さい、二人とも! こんな言い争いをしている場合では……!」
エクシード「お主の指図は受けん、グランリッド……!」
ウェルシャーク「優等生ぶってリーダー風吹かせてんじゃねぇよ、グランリッドさんよ!」
グランリッド「……では、言わせていただきますが、あなたが先走ったせいでこちらはず
いぶんと迷惑しているんですよ!」
ウェルシャーク「ハッ! てめぇに助けて欲しいって頼んじゃいねぇぜ!」
エクシード「お主は少々お節介が過ぎる」
グランリッド「あなた方が勝手だから、そのしわよせが僕に来るんですよ!」
三人は、お互い一歩も譲らずににらみ合う。
そして、その均衡を破るようにエクシードが二人にくるりと背を向けた。
エクシード「これ以上、このような児戯につきあえん!」
ウェルシャーク「ああ上等だ! 俺様だってな、てめぇらと手を組むなんざゴメンだぜ!」
エクシードに続き、ウェルシャークもどこかに向かって歩き出そうとする。
フェリス「エクシード、ウェルシャーク!」
瞬「グランリッド、いいの?!」
グランリッド「ほっといていいんですよ、あんな人達……!」
グランリッドははき捨てるようにそういうと、熊に変形してそっぽを向いて座り込んで
しまった。
瞬「みんな……どうしちゃったの……?」
フェリス「あいつらのケンカはいつもの事だが、今度ばかりは重症だな……」
瞬とフェリスは、グランリッド一人が残った格納庫を、ただ黙って見ているしかなかった。
そして、その翌日の星崎家。
瞬とフェリスに加え、由美と亜希、それにプラムが神妙な面持ちでテーブルを囲んでいた。
議題はもちろん、あの事である。
由美「……で、大ゲンカかまして絶交しちまったって訳かい、そいつら」
瞬とフェリスから、ビーストガーダーズの事をかいつまんで説明してもらった由美は、
ひとことそう述べた。
亜希「でも、そんなに仲が悪くて、よくチームなんて組んでいられたわね」
フェリス「……実は、ビーストガーダーズにはもう一人、まとめ役というべき奴がいたんだ。
しかし、そいつは俺と同じ理由でビーストガーダーズを抜けなければならなく
なってな……」
由美「それで、余計にまとまりがなくなってるのか」
プラム「三人チームでまとまろうとして頑張って、空回りしちゃってるんでしょうね……。
三人とも、本気で相手が嫌いなわけではありませんし……」
空いたティーカップに新しく紅茶を注ぎながら、プラムもそう答える。
瞬「なんとか、仲直りさせる方法ないかなぁ……」
由美「難しいだろうね。特にこう言うケンカってのは、意地の張り合いになっちまうからねぇ」
亜希「かもねぇ。ヘタに口出したら、よけいにこじれちゃうかも」
瞬「……フェリスとプラムも、そう思う?」
瞬は少し困った表情で、フェリスとプラムに話を振った。
プラム「そうですね……今は、三人が落ちつくのを待つのがいいと思います」
フェリス「なにか、仲直りのきっかけさえあればいいんだがな……」
それを聞き、みんながうーんと黙り込んでしまった。
実際、誰もいい案が思い浮かばないのだから仕方のない話ではある。
そんな沈黙が続いた時、亜希がポツリと呟いた。
亜希「……とりあえず、みんながどう思ってるか、聞いてみたら?」
プラム「そうですね。それで、対策が見つかるかもしれませんし」
瞬「そうだね。それじゃ、最初はグランリッドに聞いてみよう」
そう言って瞬は、ビーストコマンダーを操作してグランリッドに通信を繋いだ。ほどな
く、コマンダーからグランリッドの声が返ってくる。
グランリッド『はい、こちらグランリッド』
瞬「グランリッド? ボク、瞬だよ」
帰って来た声が瞬のものと知るやいなや、グランリッドの声が急に慌てたようにかしこ
まった。
グランリッド『ああ、瞬君! 先日は、大変失礼致しました』
瞬「あ、ううん。気にしなくてもいいよ。今、BBS?」
グランリッド『ええ』
フェリス「エクシードとウェルシャークはどうした?」
グランリッド『……昨日、飛び出していったっきり、帰ってきていないんですよ……』
そう答えるグランリッドの声のトーンは少し沈んでいた。少なくともグランリッドに関
しては、落ち着きを取り戻していると言う事だろう。
根が優しいだけに、昨日二人と口論になった事を自己嫌悪しているのだろう。
フェリス「あいつらの頭は、まだ冷えていないと言う事か……」
グランリッド『僕も、悪かったんですよ……二人に不満があったのは確かですが、あんな
当り散らすような言い方をしてしまうなんて……』
グランリッドは、本当に後悔しているような感じで言葉を漏らす。
グランリッド『チームをまとめようとして、焦ってから回りして……結局、自分の考えだ
けを押し付けてしまって……だめですよね、こんなんじゃ……』
瞬「えっと……ボク、グランリッドはグランリッドなりにがんばってると思うよ」
フェリス「自分の欠点が解ったなら、直すように努力すればいいだけだ。
始めから上手くいく何てこと、あるわけがないんだからな」
グランリッド『瞬君……フェリス……』
瞬とフェリスの励ましに、グランリッドの気持ちも暖かくなった。
その時、突如会話に割りこむように緊急通信の警告音がコマンダーから鳴り響いた。
輝美『黒鍵獣の出現を確認! フェリス、及びビーストガーダーズは至急、現場に向かっ
てください!』
瞬「黒鍵獣?!」
そして、そのやり取りの中に、さらに二つの通信が割りこんできた。
ウェルシャーク『おい! まだ基地にいやがるのか?!』
エクシード『拙者は既に向かっている。お主らも急げ』
グランリッド『エクシード、ウェルシャーク?!』
グランリッドが反応したのを確認し、ウェルシャークが何かを含んだように話し始めた。
ウェルシャーク『……丁度いい機会だし、俺様から一つ提案がある』
グランリッド『提案?』
ウェルシャーク『今のまんまチームがごたついてんのは、俺様も望ましくねぇと思ってる。
だから……ゲームをしようぜ』
エクシード『ゲーム、だと?』
ウェルシャーク『ああ。俺様達三人で、誰が一番先に黒鍵獣を倒せるか競争だ。
勝った奴がリーダーだ。文句があってもリーダーには従う。
これでどうだ!』
グランリッド『ちょっ、ゲームなんて…!』
エクシード『いいだろう。拙者は乗った』
グランリッド『エクシード、あなたまで!』
ウェルシャーク『そういうことだ。グランリッド、てめぇもとっとと来な!』
それを最後に、ウェルシャークもエクシードも通信を切ってしまった。
グランリッド『僕も行きます! こんなやり方が、正しいはずがない!』
そう言うなりグランリッドも通信を切り、二人を追って飛び出していった。
瞬「グランリッドまで!」
フェリス「瞬、プラム、俺達も追うぞ! 今のあいつらを放ってはおけん!」
プラム「はいっ!」
プラムは一つ頷くと、その姿を消した。
続いて瞬とフェリスも、外に駆け出そうとする。
亜希「瞬!」
瞬「亜希?」
振りかえった瞬に、亜希はウインクしながらぐっとガッツポーズを作って見せた。
亜希「がんばって!」
瞬「うんっ!」
亜希の精一杯の激励に、瞬も精一杯の笑顔で応えた。
黒鍵獣の現れた市街地では、エクシードとウェルシャーク、そして遅れてやってきたグ
ランリッドが、20m大の巨大コウモリ型黒鍵獣・デ・ウィングと戦闘を開始していた。
交戦しているエクシードとウェルシャークに向けて、デ・ウィングが突撃してくる。
ウェルシャークは、それを迎え撃つようにアクアハーケンを構えて地を蹴った。
ウェルシャーク「うぉぉぉぉっ!」
アクアハーケンがデ・ウィングめがけて振り下ろされるが、腕が完全に振り下ろされる
前に、デ・ウィングの翼がウェルシャークの胴を捉えた。
たまらず吹き飛ぶウェルシャーク。だが、それと同時にデ・ウィングも突如としてバラ
ンスを崩し、ウェルシャークと同時に地面に叩きつけられた。
その胴体にはハーケンの傷の代わりに、一つのクナイが突き刺さっている。
ウェルシャーク「てめ……!」
エクシード「……そこで見物していろ」
ウェルシャークを一瞥し、新たにジェットクナイを2本取り出したエクシードは、デ・
ウィングめがけて駆け出した。
体勢を立て直したデ・ウィングは、向かってくるエクシードに向けて強振動の破壊音波
を放つ。
破壊音波がエクシードを捉える紙一重で、エクシードは宙へと舞いあがり、それを避け
る。エクシードはそのまま腕を交差させ、両腕を解き放つように振りきった。
エクシード「エアブレイド!」
エクシードの両腕が描いた軌跡から、三日月型の真空波が放たれる。それは、今なお地
上に留まっているデ・ウィングに襲いかかる。
しかし、インパクトのまさにその瞬間に横から飛びこんできた高水圧弾が真空波とぶつ
かり合い、命中はしたものの互いの威力は半減してしまった。
デ・ウィングは何事もなかったかのように空中へと飛びあがる。エクシードは、水流弾
が飛んできた方向をキッと睨みつけた。
エクシード「何の真似だ……」
エクシードの視線の先には、左腕のアクアガンを構えたウェルシャークの姿。
ウェルシャーク「そりゃこっちのセリフだぜ。人と同じ所狙いやがって!」
エクシード「黙って見ていろと言ったはずだ」
ウェルシャーク「ざけんな! テメエ一人だけでおいしい真似は……!」
ウェルシャークのその言葉は、彼に襲いかかった破壊音波によって中断させられ、その
体が地面に叩きつけられた。
ウェルシャーク「ぐわっ!」
エクシード「!?」
その様子を見てエクシードは慌てて振り向くが、そこにはもうデ・ウィングの姿はない。
エクシードが探すさらに上空から、デ・ウィングは破壊音波を放った。
エクシード「ぐぅっ」
完全に虚をつかれたエクシードはそのまま地面に、ウェルシャークが倒れていた真上に
叩きつけられる。
エクシード「ガッ!」
ウェルシャーク「グッ?!」
折り重なるように地面に倒れるエクシードとウェルシャーク。その二人に止めを刺さん
とデ・ウィングがゆっくりと降下を始めた。
破壊音波の発射態勢に入るデ・ウィング。それをさえぎらんと、彼方から走りこむ影が
あった。影は両手を胸の前に掲げ、その手の間にエネルギー弾を生み出す。
グランリッド「グラァァンショォォット!」
飛来したグランショットがデ・ウィングの顔面で爆発し、デ・ウィングはよろめいた。
その間に、グランリッドは倒れている二人の元までやってきた。
グランリッド「大丈夫ですか?!」
グランリッドは心配そうに二人に声をかけたが、二人はそれを意に介さないようによろ
よろと起きあがる。
エクシード「余計な……真似を……」
ウェルシャーク「今更、何しに来やがった……」
そのままエクシードとウェルシャークは、損傷の激しくなった体を推し、それぞれの得
物を手にデ・ウィングに向き直った。
二人の様子を見かねて、グランリッドが割って入る。
グランリッド「今はゲームとか言っている場合ではありませんよ!
ここは協力するべきところです!」
ウェルシャーク「……ルセェ、すっこんでろ!」
エクシード「フン……!」
二人はグランリッドの言葉に耳を貸さず、黒鍵獣に向かおうとした。だが、グランリッ
ドが止める間も、二人が飛びかかる間もなく、三度衝撃波がビーストガーダーズ達を襲っ
た。
ビーストガーダーズ『うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
ビーストガーダーズが戦闘している近くのビルの屋上で、その様子を見つめている影があった。
長い黒髪に宵闇を切りぬいて纏ったかのような黒いコート。ウェルシャークが捕らわれ
ていた岬で、瞬を救ったあの青年だった。
その青年は、ただ静かに、一方的に黒鍵獣に攻撃されるビーストガーダーズの姿を見ている。
青年「目覚めるか……『獣を超えし力』……」