想いの刃
第4話「解かれた封印」


 さくらとユエが闇の者・蒼鬼(ツァンカイ)の襲撃を受けてより二日、これと言った大きな事件も起
きず、友枝町はおおむね平和な時を過ごしていた。
 
 町のはずれにあるエリオル邸。
 その一室に、一人の少年―エリオル―が佇んでいた。
 エリオルの眼下に描かれた魔法陣には、友枝町の全域が映し出されている。
 傍らにいた黒猫が、エリオルに話しかけた。
「―何かわかりますか、エリオル?」
 エリオルは、顔を動かさずにその問いに答えた。
「いや……なかなか巧妙に気配を消しているようだ。動きを捉える事が出来ない」
「あなたの『目』をかいくぐるとは、なかなか出来るようですね。その闇の者達は」
 黒猫―スピネルと同じくエリオルの傍らにいた奈久留は、少々場違いなあっけらかんとした声を出し
た。
「けどさぁ、そいつらって、一体何をしようとしてるの? やたらさくらちゃん達にからんで来るしさ」
「彼らの目的は、恐らく、『力ある者』を手にする事だろう」
「『力ある者』?」
 オウム返しに問う奈久留に、スピネルが少々呆れながら答える。
「『力ある者』とは、クロウの後継者や血縁者のような、魔力の強い人間の事です。そんな事も知らな
いのですか?」
 スピネルの物言いに奈久留は「カチン」ときたが、ここは敢えて無視する事にした。
 続けて奈久留は、もう一つの質問を投げかける。
「それじゃあさ、あいつらが言ってる『華血刃』って、一体なんなの?」
「華血刃―別名『主殺しの妖刀』。持ち手の魔力を威力に転化する剣。それは知っているんだろう?」
「うん、ユエが言ってたから。でも、それって『剣』(ソード)とあんまり変わらないんじゃない?」
 しかし、その問いにエリオルは首を横に振った。
「いや。『剣』が斬れるのはあくまで物理的なものだ。使い手の心次第で影や水も切れるが、こと精神
面においてはその効果は及ばない。
 だが、華血刃は、魔力的な物でさえも『斬る』ことが出来る。例えるなら、誰かにかけられた『呪い』
といったもののみを『斬る』ことができる。また、物理的な面においても、使い手次第ではその一太刀
で海を割り、山を切り裂く」
「じゃあさ、例えば、とーや君とユエの縁を『斬る』なんてこともできるの?」
 奈久留のバカらしい質問に、スピネルは肩をするめる。
「何をバカな事を…」
「可能だよ」
 意外な答えに、二人は同時に驚く。
「えっ!?」
「ホントに!?」
「ああ、使い手にもよるがね」
「う〜ん、いいなぁ…結構欲しいかも…」
 奈久留は、自分の妄想の世界に入りこんですっかり陶酔しきっている。
 スピネルは、ため息をつくとエリオルに向かい直った。
「しかし、あの剣は一体…?」
「…華血刃は、元はこの国で退魔の刀として作られたものらしい。それが中国に流れつき、人の手に渡
るうち、やがて、李家の者が保管するようになったと聞く。
 あの剣は元来、魔を断つ剣。ここに迫る闇の気配を感じて、彼のところに行きついたと言うわけか」
 エリオルが杖を一振りすると、魔法陣に違う場面が映し出された。
 そこでは、小狼とさくら、そしてケルベロスが闇の者と戦っている最中であった。
 それを見ながら、エリオルは一人呟く。
「今はまだ、私の事を気取られるわけには行かない。頑張ってください、さくらさん、李君」
 二人を見つめるエリオルの目線は、なお厳しい。


 その頃、小狼とさくら、そしてケルベロスの3人は、闇の者・麗鬼(レイカイ)と戦っていた。麗鬼
は灰色の髪を持つ女性型の闇の者で、意外に正々堂々とした性格らしい。
 なんと、小狼達3人にそれぞれ果たし状を送りつけているのだ。
 小狼達は罠かもしれないと考えながらも、無視した場合どうなるか分からないと思い、指定された場
所へと赴いたのである。ちなみに、危険過ぎると言う事で、知世にはこの事を言っていない。
 麗鬼は、なんら小細工をすることなく小狼達に戦いを挑んだ。それも、小細工無しの、桁外れな炎の
力をもって。
 強大なる炎の猛攻の前に、小狼達は終始圧倒されていた。
「ハァ、ハァ……っ、なんて力だ…」
 小狼は荒い息をつきながらそれでもなんとか剣を持って立っている。しかし、着ている式服はあちこ
ちが焼け焦げ、帽子はとうの昔に灰にされていた。
「ワイの炎と互角以上って、なんちゅう炎や!」
 ケルベロスも、毛皮があちこち焼け焦げている。その瞳は、獣の鋭さをもって麗鬼を睨みつけている。
「…強すぎる……『水』(ウォーティ)でも防げないなんて…」
 残るさくらは、連続して何枚もカードを使ったため、魔力を激しく消耗し星の杖を文字通り『杖』と
して何とか立っていた。
 さくら達の視線の先には、中国風の鎧を身にまとい、その両腕に炎を宿した一人の女が立っている。
「意外にもろいな。もう少し歯ごたえがあるかと思っていたが…」
 麗鬼は右手をかざすと、その手に宿っていた炎をさくら達めがけて放った。
 さくらは、迫り来る炎の前に立つと、杖を振りかざす。
「『盾』(シールド)!!」
 さくら達を呑み込もうとした紅蓮の炎は、『盾』に阻まれてその周囲の空気を焼くに留まった。
 しかし、それで魔力が尽きたのか、さくらの膝が崩れ落ちる。
「さくらっ!」
 とっさに、小狼がさくらの体を支えた。
「ありがと、小狼君」
「さくら…お前、もう魔力が…」
「わ、わたしは平気だよ…」
 無理に立とうするが、うまく力が入らずに小狼の胸の中に倒れてしまう。さくらの消耗は、目に見え
て明らかだった。
 ケルベロスが、二人をかばうように前に出る。そして、麗鬼めがけて激しい炎を吐き出した。
 突き進む炎に、麗鬼は両手で作り出した火の玉を投げつける。
 放たれた火球は、ケルベロスの炎を打ち砕いて突き進んだ。
「なっ! くそがっ!」
 ケルベロスは、翼を広げてその火球を受け止めた。
 しかし、翼を再び開いた時、そこに麗鬼の姿はなかった。
「ど、どこや!?」
「…ここだ」
 声は、ケルベロスのすぐ間近で聞こえた。
 ケルベロスが反応する前に、炎を纏った拳がそのわき腹に叩きこまれる。ケルベロスはたまらずその
場に倒れこむ。
「ケロちゃん!」
「ケルベロスッ!」
 ケルベロスは、なんとか顔を動かすが、ダメージがひどくて体をまるで動かせない。
「あ、あかん…体に、力がはいらへん…」
 そんなさくら達を、麗鬼は振りかえって見た。
「これで二人。残るは、お前だけだ…」
「クッ!」
 小狼は、さくらを抱えながら奥歯を噛み締めた。傍らに目をやるとケルベロスが力なく横たわってい
る。
 もう、まともに動けるのは小狼しか残っていなかった。
 しかし、今の小狼と麗鬼との力の差は歴然としている。自身にのしかかってくるプレッシャーに、小
狼の中で焦りが生じた。
(いや、俺が諦めてどうする!)
 小狼は、かぶりを振るとさくらの体をケルベロスのそばに横たえ、剣を構えて麗鬼に向き直った。
「…まだ、やる気か?」
「当たり前だ! さくらは、俺が護る!」
 まなじりを決し、小狼は護符を取り出す。
「水龍招来!」
 術者の命に従い、護符から水流が迸る。それは、さながら水の龍のごとく麗鬼に襲いかかった。
 だが、麗鬼はそれに慌てることなく、水流に手をかざした。
 その先に炎の障壁が生まれ、水の龍が触れるが否かのところで炎に阻まれ蒸発していく。
 その蒸気で、麗鬼の周辺の視界は閉ざされた。
 麗鬼が炎の障壁を消した刹那、一つの影が煙をつきぬけ麗鬼に襲いかかった。その突然の行動に、麗
鬼は完全に虚をつかれた形になる。
「何っ!?」
 蒸気からつきぬけた影―小狼は、腰だめに構えた剣を振り上げ気味に麗鬼に斬りつけた。
「ハァァァァァッ!」
「クッ!」
 小狼の太刀は、後ろに跳び退った麗鬼の腕をかすめた。
 小狼は、更に足を踏み出すと、今度は大上段から二の太刀を放った。
 その太刀筋は麗鬼を見事に捕らえ、身をかわす術がない事を悟った麗鬼は手に炎を凝縮させ、それを
炎の刃として小狼の剣を受け止める。
 小狼は剣を押しきろうと更に力をこめ、その白刃が麗鬼に肉薄する。
 麗鬼も負けじと手にした炎の剣に力を注ぎこむ。その刃の色は、だんだんに赤から白へと変色してい
く。
「ハァァァァッ!」
 炎の剣の温度が増し、小狼の剣の触れている部分が徐々に溶け始める。
「ハァッ!!」
 麗鬼が腕を振りぬき、剣を支えていた小狼の腕がはじかれ剣は宙を舞った。
 宙を舞う剣は、柄と刀身が見事に両断されていた。
「な、何っ!?」
「どこを見ている!」
 間髪いれずに麗鬼の放った火炎弾が、一瞬気を逸らしていた小狼を捉えた。炎に包まれ、小狼は地面
を転がる。
「ぐぁぁぁぁっ!」
「小狼…くん…!」
「小僧っ!」
 さくらとケルベロスから悲痛な叫びが上がる。しかし、二人にはなす術がなかった。
 大地に横たわったままの小狼を見て、麗鬼はさくら達のほうへと近付いていく。
「…さて、私と来てもらおうか、『力ある者』達よ。我が主が待っている」
 徐々に近付いてくる麗鬼を睨みつけ、ケルベロスは奥歯を噛み締めた。
「…くそがっ…」

 倒れたままの小狼は、まるで幻のようにその様子を見ていた。
 護らねばならない人がいる。なのに、体は全く動こうとしない。
 満身創痍の状態で、小狼はさくらだけを見つめていた。
(護らなきゃ……あいつを…)
 麗鬼が、さくらのすぐそばに立っている。
(…護らなきゃ……さくらを…)
 くすんでいた小狼の瞳に、意志の輝きが徐々に戻ってきた。
 言葉に出来ないような感情が、ふつふつと心に湧いてくる。
(さくらを、失いたくない!!)

 リィィ――ン…

 小狼の心が爆発した時、まるで鈴のような澄んだ意思が小狼の中に響いた。
 小狼は驚き、その意思に耳をすませる。
《李家の血を継ぐ少年よ…》
(だれだ、おまえは!?)
 その問いを意に介さないように、言葉は紡がれる。
《汝の想う者を護るため、今一時、我が力を汝に託す》
 体の奥から、不思議と力が湧きあがってくる。
 ほとんど意識せずに、小狼は立ちあがった。
 それに気づいた麗鬼が、怪訝な表情で小狼を見る。
「なに…?」
 小狼は、腰にかけてあった日本刀に手をかけた。その腕に、ゆっくりと力をこめていく。
 いままで、どんな事をしても抜ける事のなかった刀が、その銀色に輝く刀身をあらわし始めた。
「なっ! き、貴様、抜けるのか!? 華血刃を!!」
 小狼は麗鬼をキッと見据え、刀を一気に抜き放った。
《我は、全てを切り裂くもの。我が名は…》
「破邪の剣、華血刃なり!!」

 小狼は、華血刃を正眼に構え、凄然と麗鬼に向き合った。美しい銀色の輝きを放つ華血刃の刀身の周
りには、淡い真紅の魔力の輝きが灯っている。
 麗鬼は、その剣から放たれるプレッシャーに思わずたじろいだ。
「わ、私が、恐れていると言うのか…」
 麗鬼はかぶりを振ると、両の腕に炎をともした。
「くらえっ!」
 剣を構える小狼めがけて、二つの火球が放たれる。
 しかし、小狼は華血刃を振りぬき、火球を二つに断ち斬った。
 麗鬼の顔色が、初めて目に見えて変わった。
「その程度か。…なら、次はこちらから行くぞ」
 小狼は身をかがめると、はじかれたように飛び出していった。
「な、なめるなーっ!!」
 業火の壁が、突進する小狼の行く手を阻む。
 小狼は、華血刃に力をこめると炎の壁を一閃した。炎に一筋の道ができ、そこから飛び出した小狼は
麗鬼に肉薄した。
「ハァァァァァッ!」
 大上段に構えられた華血刃が、麗鬼に振り下ろされる。
 麗鬼は、先ほどと同じように炎の剣を産み出してそれを防ごうとした。しかし、炎の剣が華血刃に触
れた刹那、剣は音もなく切り裂かれ、銀光はそのまま麗鬼の体を駆け抜けた。
「ば、ばか、な…」
 その言葉を最後に、麗鬼は倒れこみながら姿を陽炎のように消した。


 闇の者の気配が完全に消えた事を確認した小狼は、さくらとケルベロスの下へと駆け寄った。
 そのさくらとケルベロスは、何か不思議なものを見ているような眼差しを小狼に向けている。
「さくら、ケルベロス…大丈夫か?」
「うん…わたしは、大丈夫…」
「ま、まあな。それにしても…」
 ケルベロスは、ゆっくりと体をおきあがらせると小狼のほうに向き直った。それに倣ってさくらも立
ち上がる。
「小僧、その剣…」
 言われて小狼は、右手に握られている抜き身の華血刃に視線を移した。華血刃が纏っていた赤い光は
なくなり、今はただの刀となっている。
「お前達が捕まりそうになったとき、急に、頭の中に声が響いたんだ…」
「声?」
「ああ。…『汝の想う者を護るため、今一時、我が力を汝に託す』…と…」
 そこまで言ったとき、不意に小狼の体がふらっと揺れた。
「小狼君!?」
「なんだか…眠い……」
 小狼は、地面に仰向けに倒れこみ、そのまま意識を失った。
 意識が闇に閉ざされる瞬間、さくらの声と、鈴の音のような澄んだ音が頭の中に響いた。


 小狼が倒れてから少しあって、小狼は、彼の部屋のベッドで眠りに就いていた。
 さくらが、事情を知世に話してここまで運ぶのを手伝ってもらったのだ。
 そして今、眠り続ける小狼を見守る様にさくら、知世、そして仮の姿に戻ったケロがいる。
「小狼君、大丈夫かなぁ…?」
 心配そうなさくらに、小狼の様子を見ていたケロが振りかえって声をかける。
「大丈夫や。小僧は今、魔力が無うなって眠っとるだけやからな。心配せんでもそのうち目ェ醒ます」
「それは、クロウカードをさくらカードに変えはじめた頃のさくらちゃんと同じ事ですの?」
 知世の問いかけに、ケロはこくりと頷いた。
「せや。ただ、なんで小僧がそんな魔力を消費したんか…」
「…やっぱり、あれのせいかな?」
 そう言ってさくらは、ベッドの横に立てかけてある華血刃に目をやった。抜き身では持ち運びに不便
だったため、その刃は今、鞘に収められている。
 ケロもそちらのほうに目をやった。
「…そうやろな、それしか考えられへん。
 しっかし、あれも含めて、訳の分からん事ばっかり起こりよる。一体どうなっとるんや?」
 腕組みして考え始めるケロ。
 一方のさくらでは、いつか聞いた月(ユエ)の言葉が頭の中に蘇ってきていた。
『華血刃…またの名を、『主殺しの妖刀』。あの剣の持ち主が、何人も戦いの中で死んでいる』
 それは、忘れようとしても忘れられない、さくらの心を締め付けつづける『死』の予感だった。
(あの剣のせいなの? あの剣のせいで、こんな事が起こるの? このままじゃ、小狼君が…)
 沈んだ顔のさくらを、知世が心配そうに見つめている。
「さくらちゃん…」
 知世がさくらに声をかけようとしたとき、急にケロが声を上げた。
「そうや、夢やっ!」
 そのいきなりの声に、さくらも知世も一瞬にして我に帰る。
「ケ、ケロちゃん?」
「なぁ、さくら。確か小僧、おんなし夢をなんべんも見るって言うとったな?」
「う、うん」
「せやったら、その夢に何かヒントがあるかもしれん! 小僧が夢を見始めたのと妙な事件が起こるよ
うになったんはほとんど同じ。絶対なんかの関係があるはずや!」
 自分の推論に熱くなっているケロに、知世がごく当たり前な質問をする。
「でも、人の夢なんてどうやって調べるんですの?」
「そうだよ。小狼君の夢を調べる方法なんて…」
 しかしケロは、人差し指を振るように腕を振った。
「チッチッチッ、まだ気ィつかへんか? さくらには、夢を司るカードがあるやないか」
 それを聞いて、さくらと知世は同時にハッとなった。
「『夢』(ドリーム)…」
「そや。『夢』使こて小僧の夢を覗けばええんや」
「…でも、いいのかなぁ? かってに小狼君の夢を覗いちゃって…」
「かまへんかまへん。今は緊急事態やからな、小僧にはそれくらい我慢してもらわな」
「もぅ…ケロちゃんったら」
 不承不承といったかんじで、さくらは星の鍵をとりだし、その封印を解いた。
「封印解除(レリーズ)!!」
 そしてさくらは、『夢』のカードを取り出すと、それを小狼の前に掲げる。
「カードに宿りし力よ、彼の者の夢を我等の前に映し出せ! 『夢』(ドリーム)!!」
 カードが、魔法の輝きを放って小狼を包みこむ。
 それはやがてスクリーンのように固まり、小狼の夢の場面を映し出した。


……………
 小狼は、中庭の木の根もとで一人本を読んでいる。
 その時急に、上から元気な声が降ってきた。
「しゃーおらーん君っ」
 その声の主を知り、小狼は春の日差しのような微笑みを浮かべそちらを振りかえった。
「どうした、さくら」
「お弁当作ってきたの。一緒に食べよ!」
 そう言ってさくらは、二つの弁当箱のうちの一つを小狼に差し出した。
「今日のはね、一番の自信作なんだよ」
 小狼は、勧められるままに弁当のおかずに手をつける。
「…ん、ああ、ホントにうまいな」
「えへへっ」
 誉められて、さくらが嬉しそうに、でもどこか恥ずかしそうにはにかむ。
 そんなさくらを見て、小狼も幸せそうに頬を緩める。
 さりげなく頬を赤らめる小狼の前に、おかずを持ったさくらの箸が差し出された。
「えっ?」
「はい、小狼君。食べさせてあげる!」
「い、いや、いいよ!」
「遠慮しないで! ほら、あ〜ん…」
「あ、あ〜…ん…」
 そしてさくらの箸が、小狼の口の中へ…

……………

「ほぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
 そこまで見て、さくらが絶叫した。
「な、なんなのこれぇぇっ!」
 さくらの顔は、普段の小狼に負けず劣らず真っ赤になっている。
 一方のケロと知世は、まるで面白いテレビでも観ているようにそれを観ていた。
「まぁ! さくらちゃんと李君、ラブラブですわね♪」
「ほーほー、小僧、夢にまでさくらん事見とるんか〜。それもこれは恋人どうしやなぁ」
「あ〜ん! こんな事なら、ビデオを持ってくるべきでしたわ〜!」
 二人で盛りあがっているケロと知世に、さくらは真っ赤になりながらツッコミを入れる。
「ケロちゃん、知世ちゃん!!」
「おー、さくら、どないした?」
「どないした、じゃないわよっ! なんなのこれ!?」
 恥ずかしさ最高潮のさくらに、知世がやんわりと答える。
「李君の夢ですわ、さくらちゃん」
「ただ、今見とる夢か、将来の夢かっちゅーんは微妙な線やな」
「そうじゃなくって! この夢、事件に全然関係ないよっ!」
 しかしながらケロはぱたぱたと手を振って
「まぁ、そう都合よく問題の夢を見れるわけやないからな、しばらく楽しもうやないか」
「ぜんっぜん楽しめないっ! 恥ずかしいだけだよ…」
 さくらは、そう言うと真っ赤になって下を向く。
(でも、小狼君がこんな夢を見てるなんて…これって、もしかして…)
 さくらが頬に手を当てた時、知世が急に声を上げた。
「まぁ、柊沢君の登場ですわ!」
「ほう、さくらを巡って男の勝負か。燃える展開になってきたで!」
 小狼の夢で異常に盛り上がる知世とケロ。
「はぅ――…」
 恥ずかしくてまともに画面(?)を見られないさくら。
 誰も気づかない中で、ベッドのそばに立てかけられていた華血刃が、淡い真紅の光を放ち始めた。

 小狼の夢を映していた画面に、別の画面が割って入りこんでくる。
「…ノイズ、ですの?」
「ちゃう…」
 一瞬にして冷静さを取り戻したケロは、室内に満ちる真紅の魔力を感じ取った。
「どうやら、ここからが本番みたいやな」
「え?」
 ケロの声に、さくらも画面に視線を戻す。
 その画面には、遥かな昔の、中国の片田舎が映し出されている。
 その中に、華血刃を携えた青年の姿があった。
「小狼、君?」
「いや、ちゃう。こいつは…」
 さくら達が見つめる中、画面から声が聞こえてきた。

「俺の名は小龍(シャオロン)。退魔を生業とする、華血刃最後の主…」
〜 続く 〜


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あとがき
 
 ども、サイレントストームです。
 第4話「解かれた封印」、ようやく終了です。ここに至ってようやく華血刃が物語にからんできまし
た。そのせいで今回の半分がバトルシーンに割かれてしまっています。おまけのさくらとケロはボコボ
コ(汗)。なぜか小狼がめちゃ強(大汗)。
 まぁ、今回はある意味「小狼大活躍」の回だったので、そう言った意味では当初の予定は果たせたか
なと。
 そして今回のNo.1、小狼ドリーム(笑)。学校でお昼にお弁当って設定だったんだけど、私的に
制限無くしてラブラブさせちゃいました。っつーかバカップルですね、ある意味。あの二人じゃなかっ
たらぶっ飛ばしてます。
 ちなみに、『夢』の能力は私のオリジナルの設定です。実際にこんな力があるかは知りません。
 さて、次回はいよいよ小狼の夢が明らかになります。華血刃に秘められた過去とは? この事件は何
故起こっているのか? 閉ざされていた謎を解き始めたいと思います。
 では、今回はこの辺で。