想いの刃
   第6話「黒き鳳凰」
《さて…話す、とは言ったものの、どこから話したものか…》  さくら達の前に座する(というか、ベッドに立てかけられている)華血刃は、そう切り出した。 「まず、今、友枝町で起こっている事件は、いったいなんなんだ?」  みんなの先頭を切って、小狼がそう問いかける。  その問いに応える様に、華血刃の明瞭な意識がみんなの中に流れこんできた。 《今起こっている事件…それは、ある闇の者が更なる力を得ようとして起こしているのだ。自身の力 を高める儀式に必要なものを集めている》 「儀式に必要なもの?」  ケロがオウム返しに問いかける。 《「力」を集めやすい力場と、5人の「力ある者」……つまり、魔力的性質の強いこの友枝町と、お前 達のような魔力を持った者の事だ》 「奴らは、お前を狙っているんじゃないのか?」  小狼は、思いついた疑問を口にする。 《私の事は、恐らく「ついで」だろう》 「つまり…お前があってもなくても、俺達は狙われていた、ということか…」  小狼の予測を、華血刃が肯定する。 《ああ。私は、やつらがお前達を狙っている事を察知し、夜蘭(イェラン)殿に頼んでお前の元に送 ってもらったのだ》 「母上と、知り合いなのか?」 「っていうか、なんで李家の倉庫なんかにおったんや?」 《それを話すには、先ほどの夢の事を話さねばならんのだが…》 《小龍(シャオロン)の死後、私と桜花(インファ)は都にある李家に向かった。  事情を話すと、李家の者は快く私達を受け入れてくれた。なんでも、小龍の一族は李家の分家に当た るそうで、彼らの両親が亡くなった時、真っ先に身柄引き受けを申し出たのがこの李家だったのだそう だ。  それから桜花は健やかに成長し、小龍の願い通りに自分の幸せを見つけ、そして、その生涯を終えて いった。  以来、私はその恩を返そうと、私の力が必要になったときに李家の者に力を貸している。  多くの優れた魔術師が私を手に取った。最近では、稀に見るほどの強大な闇の魔力を持った男とも会 ったな。たしか、名はクロウ・リードと言ったか》  その名前を聞いて、みんなが驚いた。 「お前、クロウと会うとるんか!?」 《ああ。私が会った時はまだ年若い青年だったが、内に秘めた魔力はその頃から凄まじいものだった。 私の心にある哀しみまで、見ぬいたのだから》 「哀しみ…?」  さくらは、少し不思議そうに首を傾げた。  しかし、その呟きは他に漏れることなく話が続く。 《…その時、クロウは私に告げた。近い将来、かつて倒した闇が更なる力をもって蘇る、と》 「かつて倒した闇…って!?」  ケロの脳裏に、先ほどの夢の一部がフラッシュバックした。  一人の少年が自らの命と引き換えに滅ぼした大いなる闇。 「そいつって、まさか!?」 《…そう、かつて倒した敵であり、今またこの町で陰謀を張り巡らせる闇の者…彼の者の名は、鳳鬼 (フォウカイ)》  華血刃の言葉は、ケロの予感を肯定した。それも、ケロの思惑をはるかに上回る形で。  それは、小狼にとっても同じで、声を絞り出すのがやっとだった。 「しかし…そいつは、確かに死んだんだろう…?」 《おそらく、転生したのだろう。最高位の魔術ならば、記憶を引き継いだまま転生する事が可能とな るらしい》 「その、鳳鬼…ちゅう奴の狙いはなんや? なんでさくらや小僧が事あるごとに狙われるんや?」 《鳳鬼の目的はただ一つ、己の力を更に強大にする事だ。先程も言ったが、そのための儀式を行うに は5人の「力ある者」を必要とする。  これは小狼に限らず、この街に住む全ての力ある者達が同様に狙われているはずだ》  その言葉を聞いて、さくらはある人物を思い浮かべた。 「も、もしかして、お兄ちゃんも!?」  しかし、ケロは首を振ってそれを否定した。 「それは心配ない。兄ちゃんの力は全てユエが引き継いだんや。狙われる事なんてあらへん」  それを聞いて、さくらはほっと安堵の息を漏らした。  少し安心したようなさくらの表情を見て、小狼も微かに表情を和らげた。  華血刃は、少し居住まいを正したような感じでさくら達に語りかけた。 《小狼。そして、クロウの力を受け継ぎし少女よ。今回は、私の生み出した因縁に巻き込むような形 になってしまい、本当にすまなく思っている。  しかし、鳳鬼を放っておけばいずれまた闇の力に涙を流す者が現れるだろう。奴にはなんとしても引 導を渡さねばならない。  だが、私は自らでは動く事ができん。誰かに使ってもらう事でしか力を振るえないのだ。  だから、無理を承知で頼む。  私に力を貸し、共に鳳鬼を倒しては貰えないだろうか?》  華血刃の言葉に、皆、うつむくようにして黙り込んでしまった。 「………」 《酷な事を言っているのは承知の上だ。しかし、もう私には他に頼れるところがない…  どうか、私に小龍の積年の思いを晴らさせて貰えないだろうか?》  再度、華血刃は呼びかける。  けれど、誰一人として答えるものはない。  誰もが口を出しかねて、しばしの間沈黙が続いた。 《………》 「……」  重い空気が小狼の部屋を包みこむ。  黙りこんでいるさくら達を見て、華血刃はほつりと呟いた。 《…すまなかったな》 「え?」  華血刃の呟いた言葉に、みんながふっと顔を上げる。 《お前達のような年端も行かぬ子供達に刃を持たせようなどとは、どうかしていたようだ…  無理を言って、すまなかった》  その言葉には、謝罪の念と、さくら達を思いやる優しい響きが含まれていた。  それを聞いたとき、小狼の中で不思議な気持ちがふつふつと湧き上がってきた。  この剣が持っていた人間的な優しさと想いの深さが、小狼の心にじわじわと染み込んでいった。 「…」 「…」  小狼とケロは、偶然に目を合わせる。  そして、お互い同じような思いを抱いている事を悟った。  ケロもまた同様に、かつての主を深く愛するこの剣に、カードの主を深く想う自分と同じものを感じ ていたのだ。 《…それでは、私は香港に帰ろう。お前達ならば、きっと何とかできる…》 「あ…」  華血刃が、淡い光を放ち始めた。  じわじわと、その姿がブレ始める。 《…では、元気で…》  そう、華血刃が帰ろうとしたその瞬間。 「待てっ!」 《!?》  小狼は、自分でも意識しないうちに華血刃を引きとめていた。  みんなが驚いた表情で小狼を見つめ、華血刃もその輝きを少しづつ弱める。  小狼は、ゆっくりと深呼吸すると華血刃に向かい合った。 「待ってくれ…」 「小狼、君?」 《…どうした?》  拳を握り、一拍おいてから、小狼は言葉をつなげた。 「俺も、手伝う…」  はじめは、ぽつりと。そして、次ははっきりと。 「俺は、お前に力を貸す」 「小狼君っ?」 「小僧…」  さくらは驚きの、ケロはどこかホッとしたような顔で小狼を見つめる。  また、華血刃も意外そうに声を出した。 《…なぜ? 望むものでは、なかったのではないか?》 「確かに、な。だが、そいつの事は李家の問題でもある。ならば、俺にはそれを解決する義務がある」 《その程度の事で、命を懸けるのか?》  しかし、小狼は首を振った。 「お前には、今まで何度か救われている。その俺が、お前にできる事があるのなら、少しでも恩返しが したい。それに…」  今度は、華血刃から少し目を逸らして。 「お前がいてもいなくても、どの道俺は狙われるんだから、対抗するだけの力はあったほうがいいから な…」 《…不器用で、優しい男だな、李小狼。……あいつに、よく似ている》  華血刃の呟きに、小狼は少し不思議そうな顔をする。  そんな小狼に、澄んだ思念が響き渡った。 《小狼よ、ひとつだけ、約束してくれ》 「約束?」 《私は、お前を守るためにここに来た。だから、決して死なないでくれ》 「…分かっている」  小狼はそう微笑むと、手を伸ばしてしっかと華血刃の鞘を握った。  鞘から暖かな力が流れこんでくるような、不思議な感じがした。  ケロは、華血刃を見つめる小狼の前に回りこんだ。  いきなり現れたぬいぐるみを見て、当然のごとく小狼は驚く。 「なっ、何だ!?」  しかし、ケロは小狼の事など構ってはいない。 「しゃ〜ないな〜。小僧だけやったら心配過ぎるさかい、わいも力貸したるわ」 「…どう言う風の吹き回しだ…?」 「いやな、小僧があんまり情けないとさくらがえらい心配するからな〜」 「なんだと!」  そういって、結局いつものにらみ合いを始める小狼とケロ。  そんな二人を、さくらが不安そうに見つめていた。 「さくらちゃん…」  そんなさくらの姿を見る知世もまた、心配で仕方がなかった。 《小狼、早速で悪いのだが、頼みがある》  さくら達の帰り際に、華血刃がそう話しかけてきた。  小狼は、少しあっけに取られた感じで華血刃を見ている。華血刃に協力する事に決めたものの、剣と 会話をすると言う事に、今一つなれていないようだ。 「頼み?」 《あの少女――サクラ、と言ったか。彼女と、少し話をさせてもらいたんだ》 「さくらと? どうして?」 《他意はない。ただ、あのクロウが後継者と認めた少女に興味があるだけだ》  小狼は逡巡するが、特に断る理由もないのでその旨をさくらに伝える事にした。もっとも、少し前な ら、そんな頼みは絶対に聞かなかっただろうが。  小狼は、玄関に向かったさくらに声をかけた。 「………」  さくらは、どこか落ちつかない様子で目の前の華血刃と向かい合っていた。もっとも、相手が『剣』 なだけに、「向かい合う」という表現は正しくないのかもしれないが。  部屋には、さくらと華血刃だけ。小狼と知世は華血刃に人払いをされてリビングにいる。 「あの…」  さくらは少し戸惑ったが、一拍おいて話しかけた。 「なんですか? わたしに話って…」  それに応えて、華血刃からふわりとした意識が伝えられてくる。それは、緊張しているさくらの心を 少しずつ解きほぐすような感じがした。 《話、と言うほどのものではないが……サクラが、私に聞きたいことがあったのではないかと思って ね》  まさに図星を突かれて、さくらの心臓がどくんっと跳ねた。  まるで、心を見透かされているような居心地の悪さを覚えて、さくらは沈黙する。 《サクラは、知っているのではないかな? 私が、何と呼ばれているかを…》  華血刃の問い、と言うか呼びかけに、さくらはこくりと頷いた。 「…主殺しの、妖刀…」  さくらの中で、再びユエの言葉が蘇る。  確かめなければならなかった。それが、真実なのかを。  さくらは、意を決して華血刃に向かい合った。 「あ、あのっ」 《何だ?》 「あ、あの……あなたの主が…何人も、戦いの中で死んでるって…本当ですか?」  さくらは、声を絞り出すようにそこまで言うと、それが限界と言うようにふうっとため息をついた。  少しの沈黙の後、華血刃はゆっくりと答える。 《…本当だ》  それを聞いた時、目の前が一瞬真っ暗になったのを確かに感じた。落ち着こうと思うけれど、心臓は 早鐘のように小さな胸を打ち続ける。  しかし、華血刃の言葉はまだ終わっていなかった。 《と、言いたいところなのだがな…》 「え…?」  さくらはハッと顔を上げる。  剣に表情があるわけがないのだが、何故だかさくらには華血刃がいたずらっぽく微笑んでいるように 見えた。 《半分は本当、半分は嘘だ》 「半分、嘘って…」 《…実際、私を手にして死んだのは、小龍一人だ。後の事は、私が勝手に尾ひれを付けた》  さくらは、ぽかんとして華血刃を見ていた。  話が嘘だった事にホッとした反面、何故華血刃はそんな噂を流したのかという疑問が生まれてきた。 なぜ、わざわざ自分をおとしめるような事をしているのかと。  その疑問を感じ取ったように、華血刃は話し始めた。 《小龍を失った事は、自分で思っていた以上に辛い事だった。私の過失で、まだまだ未来のある青年 の命と、少女の希望を奪ってしまったのだからな。  …なにより、私は小龍の事が大好きだった。決して表には出さないが、限りない優しさを秘めたその 瞳が…》  そう言う華血刃の声は、どことなく憧憬を含んでいるようだった。  まるで、大切なものを失った瞬間を思い出したかのように、華血刃の声のトーンが低くなる。 《私は、失う事が怖くなってしまった。だから、李家の倉庫の奥底に封印してもらうことにしたのだ。 そして、二度と私を手にしようと思う者が現れないようにと噂を流した。  ある男に、手伝ってもらってな》 「ある男って?」 《クロウ・リード。…私の悲しみを知った彼は、私の頼みを快く引き受けてくれた。あと、とある予 言をのこしてな…》 「予言、ですか?」 《ああ……クロウは、再び眠りにつこうとしている私に向かって、こう言った…》 『今より百数十年経った未来、かつて、あなたが打ち倒した闇が再び牙をむきます。そして、その時あ なたは、かけがえのないものと出会う事になるでしょう。  あなたのその悲しみを打ち払う、かけがえのないものにね…』 《そして今、まさに予言の通りになっている。闇は蘇り、かけがえのないものにも出会った…》  かけがえのないもの。  何故だかさくらには、それがなんなのかがわかったような気がした。  それを知り、華血刃の本当の思いを知った今、さくらの心にあった不安は消え去り、暖かなものがふ わりと心を包みこんでくれているのが感じられた。 「小狼君、ですか?」  さくらは、その者の名を口にする。  それは、さくらにとっても、かけがえのない存在だから。 《ああ。小龍によく似ているが、小龍とはまったく違う存在。私の、過去へのしがらみを断ちきって くれる、そんな予感をさせる存在だと、私は思っている。  ……サクラにとって、小狼はどんな存在なのかな?》 「えっ!?」  そう聞かれた時、さくらの胸がどくんっ!と高鳴った。ただ、それは先程のような不安に満ちたもの ではなく、どこか切なく、甘い感じのする鼓動だった。  さくらは、鼓動が早くなっていくのと同時に、自分の顔が上気していくのをはっきりと感じた。 「えっ、しゃ、小狼君が、わたしにとって…!?」 《そう……大切な存在なんだろう? 彼は》 「た、大切って、あの、その…!」  自分が何を言っているのかも分からず、さくらはただパニックに陥っていた。  「大切な存在」であるのなら、そう答えればいいだけのはずなのに、素直にそう答える事がなぜかた めらわれた。簡単に答えてしまってはいけない事のような気がしたのだ。  なんとか答えを出そうとするけれど、考えるほどに思いはまとまらず、さくらはただ、「あの、あの …」と繰り返すだけだった。  慌てふためいているさくらを見て、華血刃が苦笑するように声をかけた。 《わかった、もういい》 「…え?」  言われてさくらはわたわたするのをとりあえず止める。  さくらは、「どうして?」というふうに華血刃を見た。 《すまないな、変な事を聞いて。てっきり、サクラは自分の気持ちを理解しているものとばかり思っ ていたからな》 「あの、わたしの気持ちって…」  しかし、華血刃は問いには答えず、一人納得したかのように頷いていた、ような気がした。 「華血刃さんは、知っているんですか? わたしの、気持ち…」 《いや。それに、知っていたとしても、私が言うべきことではないからな》  さくらは、いまいち要領を得ないようにきょとんとしている。  華血刃に表情があるとしたら、彼はやっぱりいたずらっぽく微笑んでいるのだろう。 《さて、変な話に付き合ってもらってすまなかったな。小狼には、出来る限り危害が及ばぬように努 力しよう。私も、彼を失いたくはないからな》 「はい。えっと、わたしも、出来る事があったらお手伝いしますから」 《…ありがとう》  さくらはにっこりと微笑むと、立ち上がって部屋から出ようとした。 「それじゃ…」 《あ、サクラ》 「ほえ?」  ドアに手をかけたところで、さくらは呼びとめられて振りかえる。 《できれば、自分の気持ちについて考えておいてくれないか? …アイツのためにもな》 「あいつ?」 《いや、こっちのことだ。まあ、頼んだぞ》 「…はい」  さくらは、少し頬を赤らめて答えた。  その頃、リビングでは小狼と知世、それとケロがさくらのいる小狼の部屋のほうを見ていた。  ケロがお菓子をぱくつき、知世は落ち着いて紅茶を飲んでいる中で、一人小狼はそわそわと扉のほう をちらちら見ていた。  知世はその様子を面白そうに眺めていたのだが、ふっと小狼がその視線に気づく。 「…なんだ?」 「いえ、李君が落ちつかないようでしたので」  ほほほほほ、と微笑んで、再び紅茶に口をつける。  小狼は仏頂面をしてそれを見ていたが、やがて、また落ちつかないように扉のほうを気にし始めた。 「心配、ですか?」  急にかけられた声に驚いて、小狼は知世のほうを見る。  知世は、いつもと変わらぬ笑みを浮かべ小狼を見ていた。 「さくらちゃんなら大丈夫ですわ」 「ああ…分かってる…」  小狼がすねたようにほお杖を付いたのを見て、知世はまた微笑む。 「ところで李君」 「…なんだ?」  知世の顔は先程とかわらず笑顔。しかし、その瞬間、その笑顔がとても子悪魔的なものに変わった気 がした。 「さくらちゃんには、もう、おっしゃいましたの?」 「なっ!?」  急に話の方向が百八十度変わって、驚いた小狼は思わず頬杖を崩してしまう。最も、小狼の場合は話 題が話題なだけに、なのだが。  小狼は顔を真っ赤にしながら、この笑顔の少女のありのままを伝える。 「いや…まだだ…」 「そうなんですか…」  知世は、特になにも言う事はせずにただ頷く。 「ですけど、この前、さくらちゃんのお家に夕食を食べにいかれた時などは、絶好のチャンスだったの では?」 「あ、あの時は、そんな雰囲気じゃなかったし、それに、俺達だけじゃなくてケルベロスも…」 「なんや小僧、わいがどうかしたんか?」 「うわっ!」  いきなり割りこんできたケロの声に小狼は再び驚く。  しかし、一方のケロはしたり顔でうんうんと頷くだけだ。 「そんならそうて言うてくれれば、わいも気ぃきかしたでぇ? わいかて鬼やないからな」 「な、なんでそうなるんだ!」 「まぁ、ええやないか。その事に関しては、わいも小僧の事応援しとるんやで?」 「そうですわ、李君。これほど協力者がいるんですから」  渋く決めた感じで腕組みするケロに、知世もニコニコと同調する。  当人を差し置いてどんどん盛りあがっていく二人に、小狼はただため息をつくしかなかった。  そんなのはお構いなしに小狼の告白プランをあれこれと話していた二人だったが、ふいにケロが名案 とばかりにぽんっと手を叩いた。 「そうやっ! 小僧、確かフェニ…なんたらっちゅう遊園地が開くんは明日やったな?」 「あ、ああ…」 「そんで、さくらも小僧も、一日遊び放題のタダ券持ってる」  ケロの言わんとしている事を測りかねて、小狼は怪訝な顔をする。 「なにが言いたいんだ?」  ケロはフッとニヒルに笑うと、びしっと指差し 「つまりや、明日さくら誘って遊園地行って、そこで一気に告白してまえっちゅうこっちゃ!!」  ふ、ナイスやで、わい。ケロは、自らが編み出した会心のアイデアに酔っていた。その前では、小狼 がなにか言いたげな手を所在無く宙に浮かせている。  一方の知世もそれは名案とばかりににこにこしている。  となれば、知世は確実にさくらを連れ出してくるだろう。そして、それには当然自分もついて行く事 になる。それこそ、さくらだけでは危ないとか、もっともらしい理由をつけて。  しかし一方では、確かにそうでもしないと、告白のチャンスなどなかなか巡ってこないと考えてもい た。ケロの計画と言うのが、一抹の不安を残すが。  小狼が一人悩み、ケロと知世がわいわいと盛りあがっているところで、小狼の部屋のドアが開いた。  華血刃との話を終えたさくらが見たのは、そんな異様な光景だった。 「あ、あの…みんな?」  各々自分の世界に入りこんでいた3人は、その声でようやく我に返った。  小狼は、さくらの姿を見てホッと安堵の息を漏らす。 「話、終わったか?」 「あ、うん」  さくらはいつものような笑顔で答える。しかし、その顔が心なしか赤くなっているような気がした。 「どうした? なにかあったか?」 「え、なんで?」 「その…顔、赤いから…」  そう言われて、さくらはハッとなった。 「な、なんでもないよ!」  慌ててさくらは言いつくろうが、それに反して顔はますます赤くなる。  心配そうな顔をした小狼に、さくらはにっこりと笑って、 「ありがとう、心配してくれて」  と、小狼の手を握った。 「い、いや、べ、別に、無事なら、いいんだ」  今度は、小狼の顔が赤くなる番だった。  そんな二人の様子を見ていた二人は、にこにこ、と言うよりは、にまにまと笑っていた。 「なんか、おもろなってきたな」 「ええ」  知世も実に楽しそうにさくらと小狼を見ていた。 「知世」 「はい?」 「この世でいっちゃん楽しい事って、わかるか?」 「なんでしょう?」  そこでケロはにやりと笑う。 「ウブな二人がどたばたしとる恋物語を見ることや」 「まあ」  知世とケロは向かい合って笑い合う。  この二人の中で綿密なデートプランが立てられている事など、お互い真っ赤になりあっているさくら と小狼にはまったくわかる事はなかった。

 

   〜 続く 〜

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    あとがき

    第6話『黒き鳳凰』、いかがだったでしょうか。どうも、サイレントストームです。
    今回の話、実は第5話『血の華の伝説』で語るはずのエピソードだったのです。前回の話が長かった、
   と言うか、1話に多くの事を詰め込みすぎたためこのような事になったのです。これからも、こんな事
   が多々あるでしょう。って、そんなの作ってるほうにしか分かりませんね。
    とは言え、今回は説明的な短い話にするつもりだったんですが、意外なところでSSが入ってしまい
   ました。これは完全に予想外の事です。やはり、予想できない事が起こると言うのは面白い(笑)。
    さあ、次回はいよいよ最終決戦突入! の前に、さくらと小狼のラブラブというか、ウブウブなデー
   ト編です。今まで出てきたレギュラーがほとんど出てくるような賑やかな話になる予定。ここから先は
   完全にバトルになるので、一時の平和な時間を描きたいと思います。
    それでは、再見(サイチェン)!