想いの刃
第7話「力ある者」
「う…わぁ…」 その目の前のものを見て、さくらは思わず感嘆の息を漏らした。 荘厳な門、近未来と中世が融和したかのような外観、あちこちに配されている鳥を模したモニュメン ト、そして、そこに溢れる人、人、人… そう、この日は、新型テーマパーク・フェニックスランド開園の日なのである。 想像以上の内容に、さくらは頬を上気させてただただその様子を見ていた。 「ほんまにごっついなぁ…」 「!?」 後ろのバッグからいきなり聞こえてきた、あまりに聞きなれた関西弁に驚いて、さくらはバッグを引 っ張り出す。 その開いたファスナーの隙間から、ケロがちょこんと顔を出していた。 「ケロちゃん!? ついて来てたの!?」 「ふ、こないな楽しそうな事でわいに置いてけぼりをくわそうなんて、十年早いで」 「もう」 得意げな笑みを浮かべているケロを見て、さくらは不承不承と言った風情でため息をつく。 すると、ケロがさくらの着ている服に目を留めた。 「なあ、さくら?」 「なに? ケロちゃん」 「その服、もしかして昨日知世が持ってきた奴か?」 「うん……知世ちゃんが、どうしても着て欲しいって…」 さくらは、「はうーっ」と困った顔をする。 昨夜、さくらの家を訪れた知世はお手製の服をさくらに手渡すと 「明日は、ぜひ、その服を着ていらしてください」 と、半ば強引にそれを押し付けていったのだ。 別に、律儀に着てくる必要もないのだが、知世のことを考えるとそうも行かないと思ってしまうのが なんともさくららしい。 そんなさくらの思いを知ってか知らずか、ケロはバッグの中でほくそえんでいた。 「さくらちゃん!」 「あっ!」 不意にかけられた声に、さくらは嬉しそうに振りかえった。 そこには、いつもの笑顔を浮かべた知世と、すこしそっぽを向きながら歩いている小狼の姿があった。 「知世ちゃん、小狼君! 二人とも、一緒だったんだ!」 「ええ。少し、李君に用事がありまして」 そう言って知世は、ちらっと小狼のほうに目線を向けた。知世の視線に気付いた小狼は顔を赤くして ますますそっぽを向く。 「それにしても…」 知世は恍惚の表情すら浮かべてさくらの姿を見ている。 「すばらしすぎますわ、さくらちゃん! 今回は夏のヒマワリをイメージして作ったんですけど、それ をこうもかわいらしく着こなしていただけるなんて……製作者冥利に尽きますわ〜!!」 言うが早いか、どこからともなくビデオカメラを取り出しさくらを撮影し始めた。 「と、知世ちゃん…」 さくらは心底困った顔で引きつった笑いを浮かべながら知世に撮影されるがままになっている。 その時、さくらの視界に顔を赤くしてこちらを見ている小狼の姿が映った。 そして、彼の着ている服に目が止まる。デザインが似ているのだ。自分が着ているそれと。 「小狼君、その服…」 「えっ、あ、これは…!」 それまでさくらの姿に見とれていた小狼は、いきなり声をかけられてまともに動揺する。さくらの言 葉を理解するのに、少々時間を要した。 「だ、大道寺に、着せられたんだ…どうしても、これを着て行けって…」 「そうなんだ。じゃあ、わたしとおそろいだね!」 「おっ! おそろ…」 さくらが何気なく言った一言に、小狼の顔は瞬時にして真っ赤になる。一方のさくらは、そんな小狼 を見てきょとんとしている。 そんな二人の様子を、知世が実に楽しそうに撮影していた。 フェニックスランドには新型のアトラクションも数々あるが、定番と言われるものも数多くある。 さくら達が乗っているのはそのうちの一つ、『バーニングコースター』である。まあ、定番のジェッ トコースターと思っていただければそう違わないと思う。 さくらと小狼が同じ席、知世はその後ろの席に乗っていた。 「キャ〜〜〜〜!」 「ほほほ…」 「………」 声を上げながら楽しそうにしているさくらとは対照的に、小狼は意識が既にどこかへ飛んでいってし まったかのような顔をしていた。もう、声すら出ない状況らしい。 コースターを降りた時、小狼はぐったりとして出てきたのだった。 「小狼君、だいじょうぶ?」 ふらふらと頼りなく歩く小狼を心配してさくらが声をかける。 「まぁ、なんとか、な…」 「小狼君、ああ言うの、苦手だったんだ…」 「…ごめん」 小狼は、心底決まりが悪そうな顔をしながら、さくらに支えられて歩いている。 そんな二人の様子を見て、一人と一匹がため息をついていた。(ケロは知世のバッグに移動している) 「だらしないぁ、小僧……めちゃくちゃマイナスポイントやで」 「李君にも苦手なものがあったなんて…運がありませんわ」 「ま、まあ、作戦は始まったばかりや! これからどんどん挽回していくで〜!!」 バッグの中で一人、ケロが異常に盛りあがっていた。 続いては、体感系のアトラクション『スターシューター』。 建物の中を順路に沿って進み、それぞれのチェックポイントで射撃のゲームをこなして進んでいくと 言うアトラクションである。 さっきとは打って変わり、ここでは小狼の射撃の腕がいかんなく発揮された。 大きな液晶スクリーンに、次々と迫り来る隕石群が映し出される。 小狼が銃を構え、トリガーを引くたびに画面の隕石が次々と破壊されていった。 そして、最後に迫った大きな隕石を破壊した時、 『Misson Complete!!』 の文字が大きく表示されて、液晶スクリーンが二つに割れて次の道が開けた。 「よし」 小狼は、満足げに銃を付属のガンホルダーにしまった。 「小狼君、すごいよぅ! ほとんど一人で壊しちゃった!」 「いや…」 さくらは尊敬の眼差しで小狼を見つめ、その視線を感じた小狼は顔を赤くする。 照れを隠すように、小狼は先に立って歩き出した。 「つ、つぎ、いくぞ!」 「あ、まってよぅ」 前を先行する小狼を、さくらは早足で追いかける。 結局、その先のチェックポイントでも小狼は活躍し、アトラクションを終えた時、二人は今日一番の 高得点を叩き出していた。(『スターシューター』は二人一組のアトラクションです。) 「おかえりなさい、さくらちゃん」 「ただいま、知世ちゃん! ねぇ、みてみてっ!」 さくらは成績の書かれた紙を楽しげに知世に差し出した。 「まぁ、本日のトップですわね」 「うんっ! 小狼君がすごかったんだよ!」 その小狼は、少し離れたところで景品を抱えて立っている。 顔が赤くなっているところを見ると、ここに来るまでにさんざんさくらに誉められたり尊敬されたり したらしい。 まさに、名誉挽回である。 「それでは、次のところへまいりましょうか」 「うんっ! 小狼ク〜ン!」 「あ、ああ…」 小狼は軽くてをあげて答えると、さくら達のほうへと歩き出した。 それからさくら達は、コーヒーカップやゴーカートなどいろいろなものに乗ったりして遊んでいた。 さくら達にはタダ券があるので、まさに遊びたい放題なのである。 ただ、それだけに楽しい時間と言うものはすぐに過ぎるもののようで、気がつけば、既に太陽が真上 に昇っているような時間だった。 知世は腕時計に目をやって、お昼にちょうどいい頃合いだと思って二人に声をかけた。 「さくらちゃん、李君、そろそろお昼にしませんか?」 「うん、そうだね。どこで食べよっか?」 さくらは誰にともなく話しかけてみる。すると、小狼は向こうのほうを指差す。 「たしか、あっちに売店があったぞ」 「あ、そうなんだ。それじゃあ、そこにする?」 「ああ、俺は構わない」 「私もそこでいいですわ」 小狼と知世も同意したので、さくら達はその売店に行くことにした。 知世のバッグの中では、 「さくら、わいの事忘れてへんやろな…」 と、外に出られないケロが不安を募らせていた。 少し歩いて売店についたさくら達は、ちょうど誰もいなかったので早速カウンターについてメニュー を見ていた。 「いらっしゃい」 と、ぶっきらぼうな店員の声がかかる。 それがとても聞き覚えのある声だった事に驚いて、さくらはハッと顔を上げた。 「お兄ちゃん!?」 さくら達を仏頂面で見下ろしていたのは、ポップなデザインの制服に身を包んだ桃矢だった。 今日はバイトだとは聞いていたけど、それがここでだとは知らなかった。 「今日のバイトって、ここだったの?」 「ああ。言ってなかったか?」 桃矢はそう言うと、さくらの後ろにいた小狼と視線をぶつけ合わせていた。小狼も小狼で睨み返し、 さくらは困ったように二人を見比べていた。 すると、その後ろから別の店員の声がかかる。 「あ、さくらちゃん。さくらちゃんも遊びに来てたんだ」 その姿を見とめたさくらの顔がぱあっと明るくなった。 「雪兎さん!」 「こんにちは、さくらちゃん」 「雪兎さんもここでバイトなんですか?」 雪兎は、いつものほんわかとした笑顔を浮かべてさくらに答えた。 「うん。あと……」 と、雪兎が言葉を継ごうとしたとき、 「きゃ〜っ! さくらちゃ〜ん!!」 いきなりカウンターを飛び越え、女性用の制服を着た店員がさくらに抱き着いて頬擦りしていた。 それに気づいた小狼は睨みつける対象を桃矢からその店員に切り替える。 「さくらちゃんさくらちゃん、来てたのねさくらちゃ〜ん!」 「な、奈久留さん…」 嬉しそうにさくらに抱き着いていた奈久留は、ぱっと手を離すとにこっと笑ってさくらを見下ろした。 「とーや君だけじゃなくてさくらちゃんにも会えるなんて、今日はホントにラッキーね!」 「あ、あはは…」 さくらは困ったようにただ笑いを浮かべる。カウンターの向こうでは、桃矢がジト目で奈久留を睨み つけていた。 「秋月、戻れ。仕事中だぞ」 「はいは〜い! それじゃね、さくらちゃん」 奈久留はそう言うと、ぱたぱたと手を振って売店の中へと戻っていった。 「で、なんにするんだ?」 「え? あ、う〜んと……」 それからさくら達は、各々好きなものを注文して売店を後にした。 その後姿を見ながら、桃矢は疲れたようなため息をつく。 「ん? どうしたの、とーや?」 「さくらが、ここに来てるとはな…」 仏頂面の桃矢とは対照的に、雪兎はニコニコと笑ってさくら達が去って行ったほうを見ている。 「そうだね。ちょっと、びっくりしちゃった」 「別に、それはいいけどよ…」 それから、桃矢は苦虫を10匹くらいまとめて噛み潰したような顔になって 「なんで、あのガキが一緒なんだよ」 と、毒づいて見せる。 「あはは、さくらちゃん思いは相変わらずだね、お兄ちゃん」 「うるせー」 桃矢はぷいっと顔を背けると、店の奥のほうへと入っていった。 それを見て、雪兎はくすりと苦笑した。 夕暮れの赤い光が、ゆっくりと回る観覧車の側面を朱に染める。 そのうちの一つが、知世がまわすビデオカメラのファインダーに捕えられていた。そこでは、少年と 少女が向かい合わせに座っている。 知世は、その様子を恍惚の表情すら浮かべて撮影していた。 すると、知世のバッグからケロがぴょこんと顔を出す。 「さあ、いよいよ大詰めやな…」 ケロは神妙な顔でさくらと小狼が乗る観覧車に目線を送っている。 「ええ…」 知世も、ファインダーから目を放し、ゆっくりと頷く。 「小僧の事や、多分なーんも起こらん。せやから…」 「観覧車から降りたところでさくらちゃんを連れだし、そこで李君と二人っきりにする、ですわね」 二人は、作戦の最終確認をすると満足そうに頷き合った。 再び目線を移した観覧車は、既に下りに入っていた。 一方、観覧車の中では 「………」 「…………」 案の定と言うべきか、二人揃って黙りこんでいた。 お互いがお互いを意識しているせいで、顔は赤くなってうまく言葉を出せない。 たまに目があったかと思えば慌ててそっぽを向く。 そんなこんなで、既に行程の半分が過ぎていた。 (な、なんで、小狼君と二人っきりなんだろ…) 黙っていると恥ずかしさが募ってくるので、さくらは観覧車に乗るのをしきりに遠慮していた知世の 事を思い返して見た。 いくらさくらが鈍くとも、知世がさくらと小狼を二人っきりにしようとしている事ぐらいは分かる。 ちらりと小狼のほうを向くと、夕日に目をやっている小狼の横顔が目に映った。 朱に彩られた美しいとさえ感じられる姿にさくらは思わず見とれる。 (綺麗…) すると、視線に気づいたのか、小狼がぱっとさくらのほうを向いてきた。 「あ…」 「ほ、ほえっ!」 さくらは慌てて下を向く。 (ほ、ほええ…な、なんか、意識しちゃうよぅ) 小狼も小狼でこの状況に困惑していた。 知世とケロが仕組んだ事とは分かっているが、それでも、好きな人と二人きりともなれば意識もする。 ただ、この状況に戸惑っているだけのさくらと違い、小狼はもっと別の事で悩んでいた。 つまり、この絶好の好機に、いつ告白をするべきか。 (い、今がチャンスだって事は、わかってるんだ……だけど…) 小狼は、さっきからうつむきっぱなしのさくらに目をやる。 なぜそうなのかは分からないけど、さくらが先ほどからずっと緊張しているようだと言うことはなん となく分かった。 (な、なんて言えばいいんだよ……) 再び外の景色を見てみると、もう終わりが近付いてきていた。 時間がないのを知り、小狼は意を決した。 「さ、さくら!」 「は、はいっ!」 さくらはびくっと肩を振るわせて小狼のほうを向く。 膝に置いた手を強く握り、一拍置いて小狼は言葉を続けた。 「お、おれは……俺は…」 声は出た。でも、肝心のことが言えない。 大切な事なのに、喉の奥に引っかかって出てきてくれない。 それでも、渾身の力でその言葉を押し出す。 「俺はっ! お、お前の事が…!」 「好きだ!!」、そう言おうとした。 けれど、無情にも時間の終わりは告げられた。 観覧車が下につき、扉が開かれる。 小狼は肩透かしを食らったような気分で観覧車を降りた。 お互いに顔を合わせられないさくらと小狼の元に知世がやってきた。 「お返りなさい、さくらちゃん、李君」 「た、ただいま、知世ちゃん」 さくらは、まだ少し赤い顔で知世に答える。 その変化を見逃す知世ではなかった。 「さくらちゃん、どうかなさいました?」 「えっ!? なっ、なんでもないよ!」 けれど、さくらの態度は明らかに何かあったと告げている。 知世は最終作戦を実行に移した。 「さくらちゃん、すみませんが、一足先に噴水広場の噴水に行っていて貰えませんか?」 「え? 別にいいけど…どうしたの?」 「いえ、少し用事があるものですから」 「うん、分かった。それじゃ、先に行ってるね!」 そう言って、さくらは元気よく駆け出していった。 遠ざかるさくらの後姿を見送った知世は、小狼のほうを振り向く。 「李君、おしかったですわね」 「なっ、なんの事だ!?」 「さくらちゃんに告白しようとなさっていたんでしょう? もう少しでしたわね」 小狼は真っ赤になってうつむく。 「それでは、李君も噴水広場に行って下さいな。さくらちゃんが待っていますわ」 「えっ…」 知世の言わんとしている事を悟り、小狼は赤くなる。 知世は、そんな小狼の心を見透かしたかのように穏やかな笑みを浮かべていた。 「…分かった。行ってくる」 「はい」 「きばるんやで、小僧!」 ケロもバッグから顔を出して激励の言葉をかける。 小狼は微笑んで頷くと、先ほどさくらが消えていったほうへと駆け出していった。 知世とケロはそんな小狼の姿を見送っていた。 「小僧の奴、大丈夫かいな…」 「…それにしても……」 知世は、周りを見まわしてみてほつりと呟いた。 「ずいぶんと人が少なくなってますわね…」 そう、知世の周りのみならず、フェニックスランドにいる人間の数自体がどんどんと少なくなってい っていた。 ただ、その小さな異変に気づいている者は誰一人としていなかった。 先に駆け出していったさくらは、知世に言われたとおりに噴水の前で待っていた。 何もせずにじっとしていると、先ほどの小狼の姿が思い出される。 『俺はっ! お前の事が…!』 真剣な眼差しで自分を見つめる小狼の瞳。 それを思い出すと、さくらの胸は高鳴った。 (小狼君……なんて言おうとしてたんだろ…) ここに着いてから、何度目かのため息をついたときだった。 「さくら!!」 自分を呼ぶ声に振り返ると、そこには息を切らして立っている小狼の姿があった。 「小狼君…」 小狼は、どんどんとさくらのほうに近付いてくる。 それに伴って、さくらはだんだん顔が赤くなってくるのを感じていた。 そんなさくらの想いなどお構いなしに小狼はさくらの目の前に立つと、両手をさくらの肩に乗せてき た。 (えっ?) 驚く暇もあらば、小狼はそのままさくらの体を自分のほうに引き寄せた。 自分の予想を超えた出来事に、さくらは完全に困惑する。 (え? え!? ええっ!?) 「さくら…俺には、お前が必要だ」 小狼の言葉に、さくらの胸がひときわ大きく鼓動を打った。 鼓動がどんどんと早くなっていくのがよく分かる。 「だから……」 その瞬間。 (え…?) さくらは、みぞおちに強い衝撃を受けた。 突然の衝撃と、信じられない思いにさくらの意識はどんどん薄らいでいく。 (な、なんで?) 途切れつつある意識の中、滑りこんできた言葉が更に追い討ちをかける。 「このまま、俺のものになってくれ、木之元桜」 (なんで? なんでなの?) 「…しゃおらんくん…なんで……?」 その言葉を最後に、さくらは意識を失った。 涙を流すさくらを抱える小狼の口元には、邪悪な笑みが刻まれていた。 同時刻― 突然舞い降りた炎が知世を襲った。 「きゃあ!!」 「知世!」 バッグから飛び出したケロは、上空に居る邪悪な気配を感じ取る。 それは、ゆっくりとケロの前に降り立った。 「お、おまえはっ!」 それは、紅の鎧に身を包みし麗しき闇の戦士。 「久しいな、クロウの守護獣よ」 紅蓮の炎を纏う闇の者、その名は麗鬼(レイカイ)。 麗鬼は炎を腕に纏うと、ケロに向かい合った。 「貴公の身柄、貰いうける」 更に別の場所で― 桃矢と雪兎はバイトを終えて、売店を後にした。 「とーや、どうしたの?」 桃矢が難しい顔をしているのに気づいて、雪兎が声をかける。 桃矢は、空を見上げたまま答えた。 「いや、なんかな……嫌な感じがする」 力を月(ユエ)に渡した後も、桃矢はなんとなくそう言った気配を感じる事が出きる。 それは、すぐ身近に迫った危機をも感じ取った。 その、雪兎に向けられた殺意を。 刹那、横手の茂みから雪兎めがけて岩塊が飛び出してきた。 「ゆきっ!」 殺気に気づいた桃矢はすぐさま雪兎を突き飛ばす。 雪兎を捕らえるはずだった岩塊は、飛び出した桃矢の足を掠めて街灯をへし折った。 起き上がった雪兎は、怪我を負った桃矢を見て顔色を変える。 「とーや!!」 桃矢のもとに駆け寄ろうと雪兎が立ちあがった時、岩塊が飛んできた方から中国風の鎧をまとった巨 漢が姿を現した。 「チッ! 余計なマネをしやがって」 巨漢―蒼鬼(ツァンカイ)は倒れている桃矢に一瞥をくれると、笑みを浮かべて雪兎に向き合った。 「へっ! 会いたかったぜぇ、ユエ!」 「ユエ…?」 「さっさと元の姿に戻んな。その姿のテメエじゃ倒し甲斐がないぜ」 その時、雪兎の足元に魔法陣が現れ、翼が雪兎を包みこむ。 再び翼を開いた時、そこには月の守護者・月が立っていた。 ユエは怒りを込めた眼差しで蒼鬼を睨む。 「貴様…!」 「くっくっくっ…それでこそ、倒し甲斐があるってもんだぜ!!」 「その言葉、後悔させてやる…!!」 ユエの翼が、藍に染まり始めた天に舞った。 そして、小狼が噴水広場に辿り着いた時、そこには誰もいなかった。 さくらだけではない。人間が、誰一人として。 「どうなっているんだ…?」 呆然としている小狼の前で、まばゆい輝きが現れた。 《小狼!》 「華血刃!?」 小狼は、輝きの後から現れた華血刃を手に取る。 「どうしたんだ!?」 《奴が、動き始めた。お前の仲間が、窮地に立っている》 「なんだって!?」 その時、噴水の近くである物が小狼の目に入った。 小狼は近付いてそれらを手に取る。それは、桜色をした数枚のカードだった。 「さくらカード…」 それを見た時、小狼の心に警鐘が鳴り響いた。 「…さくらが危ない!!」 《おそらくは、奴の元だ》 小狼はカードをポケットに突っ込むと、どこへともなく駆け出した。 ただ、大切な人の無事を願って。 (無事で居てくれ、さくら!)
〜 続く 〜
〜 戻る 〜
〜 小説の部屋へ 〜
あとがき どーも、サイレントストームでっす。第7話『力ある者』、ようやく完成しました。今回、ますます サブタイトルがあってませんねー。後半のピンチ具合を考えてつけたタイトルなんですけど。 さて…前半、どーにかなんないかなー。ちっともデートっぽくない……どころか、遊んでるっぽくな い。ホントはもっと凄い所なのにな、フェニックスランド(笑)。って訳で、いよいよ今回告白プレ! 書いてて恥ずかしーのなんのって。特に後半の(だましバージョンの)。気づいていると思うけど、あ れ、小狼のニセモノです。本物だったらあんなセリフ言わないもんね。それこそ『好きだ!』だけでさ。 いよいよ最終決戦突入! さくらの安否も気になるけど、とりあえず次のメインはユエとケロです。 二人はここが最後の活躍場所だから、しっかり頑張ってもらわないと。 それでは、再見(サイチェン)!!